動画サービスといえば何を思い浮かべますか?
ユーザー投稿型なら「YouTube」や「TikTok」、サブスクなら「Netflix」や「Hulu」「U-NEXT」などの名前が挙がるでしょうか。でも、「ニコニコ動画」を挙げる人は、そう多くはないでしょう。ニコニコは「2010年前後に最も盛り上がっていたサービス」という印象が、筆者にもありました。
ですが、2024年6月初旬にKADOKAWAグループが大規模なサイバー攻撃を受け、ニコニコの全サービスが停止した後に起きたユーザーの動きを見て、「ニコニコは今なお深く愛され続けているサービスだ」と、改めて感じることになりました。
復活を待ちわびるユーザー
ニコニコがサイバー攻撃を受けたのは2024年6月8日未明。それ以降1カ月以上、利用できない状態が続いています。
サービス停止から3日たった6月11日、X(旧Twitter)のトレンドに「ニコニコ復活」の文字が浮かびました。サービスは止まったままだったのですが、「ニコニコが復活してほしい」などのユーザーの叫びが集まり、トレンドになったのです。
同月11日には、ドワンゴでニコニコ事業を統括している栗田穣崇(くりた しげたか)COO(最高執行責任者)が、毎月ニコニコ生放送で配信していた、ニコニコサービスについて語る番組「月刊ニコニコインフォ」をYouTubeで配信。「サイバー攻撃に負けたくない」と、場所を変えてでも予定通り放送することを選びました。
この放送は最大1万2000人もが同時視聴。栗田さんやニコニコスタッフを応援するコメントが大量に投稿されて最後まで盛り上がり続け、「ニコニコは、今も強く愛されているんだ」と筆者は実感しました。
同時に、「YouTubeではこうはならないのではないか」とも。YouTubeを普段から見ている人で、「YouTubeというサービスが好き」とか「GoogleのYouTube責任者を応援したい!」と思っている人は、どれほどいるでしょうか。
YouTubeは世界的なプラットフォームであり、ニコニコを大きく上回る数のユーザーが利用しています。でも、もしサイバー攻撃で利用できなくなったとして、ユーザーは「運営元のGoogleを応援しよう!」と思うでしょうか? どうもその姿がイメージできません。黙って他の動画プラットフォームに移っていくような気がします。
ニコニコとYouTubeの違いとは
ニコニコとYouTubeの違いは、コミュニティーとプラットフォームにあるような気がしています。
ニコニコはコミュニティー、YouTubeはプラットフォームなのではないか。ニコニコは人間くさく、YouTubeは、無機質なサービスなのではないか?
ニコニコは開始当初から、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)的な文化を引き継ぎつつ、その時々で代表者が顔を出して運営をしてきた印象があります。最初期は西村博之(ひろゆき)さんが、次に夏野剛さん(現KADOKAWA社長)やドワンゴ創業者の川上量生(かわかみ のぶお)さんが広報の表に出ており、現在はCOOの栗田さんが積極的に発信しています。
「ニコニコ動画」という名称もそもそも愉快です。テレビに顔が付いた「ニコニコテレビちゃん」というマスコットキャラも愛されており、「時報」などの機能にも遊び心があります。
「ニコニコ超会議」などのイベントも定期的に行っており、ユーザーと運営が同じ空気感を共有し、オンラインでもオフラインでも交流する土壌を維持してきました。Xには「ニコニコふぁんくらぶ」というコミュニティーがあり、栗田さんと、ニコニコの復帰を待ちわびる1万人以上のユーザーが今も日々、ダベっています。
一方でYouTubeは、プラットフォームに徹しているように感じます。ロゴは再生ボタンを示す無機質なデザインですし、運営責任者が顔を見せることはめったにありません。サービスとしては非常に使いやすく、安定していますが、そこに人間くささやキャラクター性は見えません。
広がるプラットフォーム、深く愛されるコミュニティー
ニコニコのようなコミュニティーには、文化や独特の雰囲気があります。その雰囲気にマッチしたユーザーが集まり、帰属意識を持って場を支えようとしますから、ユーザーの愛が深まる傾向があるように思います。
ただ、その文化になじまない人は近寄りがたい場にもなります。例えば、2ちゃんねる的な文化、もしくはボカロ文化、アニメなどになじみがない人は、ニコニコもなじみにくい場に感じるでしょう。
YouTubeは機能的かつ無機質で、文化的な偏りがあまり感じられません。ユーザーの帰属意識は低いかもしれませんが、誰でも幅広く利用できるハードルの低さがあり、世界的に受け入れられやすい土壌があるとも言えます。
YouTubeが世界でここまで勢力を拡大したのは、その無機質性にありそうです。YouTubeが強さを誇る現代でもニコニコ動画の存在感が維持されているのは、ニコニコ文化を愛するユーザーをコミュニティーが育ててきたからではないでしょうか。
ニコニコは、2024年8月5日にサービス再開予定。再開された暁には、ニコニコユーザーがサービスに殺到し、大きな“祭り”が起きそうです。
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