DOS版をWindows用に書き換えただけで著作権を主張するとは、ちゃんちゃらおかしいわ!:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(117)(2/3 ページ)
作成したプログラムに著作権があり、勝手な流用は認めないと主張する開発企業。対するユーザー企業は「こんなもの、誰でも作れるでしょ」と突っぱねた。開発企業の訴えは裁判所に認められるのか――。
開発者が独創的と思っても、他人から見れば……
船舶のナビゲーションという特殊な業務を対象とするプログラムを巡る裁判である。開発企業は、MS-DOSに対応したプログラムをWindowsに対応させた。ユーザー企業は「OS更新への対応に創作性はなく、開発企業の作成したプログラムは著作物ではない」との考えの下、これを利用して別の商売に使ったようである。
開発企業の言い分は、「新しいプログラムはWindowsに対応するために、言語も変えて作成しているし、各種の機能も追加してソースコードの行数も数倍に膨れ上がっている」というものだった。これに対しユーザー企業は「追加された機能のプログラム自体には新規性もなく、開発企業は創作行為を行っていない」と反論している。
いつものことだが、プログラムの著作性、あるいは創作性の有無を判断するのは非常に難しい。正直、著作権法の考え方からすれば新規に作成したソースの行数や言語の変更はあまり材料にならない気はするが、機能が追加されたとなればそこで開発者がさまざまな検討をし、いろいろなアイデアもあったであろう。
しかし、そうではあっても、プログラムとはコンピュータに対する命令群である以上、開発者が独自性を出すこと自体が難しいものである。仮に開発者が全く新しく考えたつもりのロジックでも、別の開発者から見れば、どこにでもある平凡な技術と判断されることもある。
では、裁判所の判断基準はどのようなものであったのか、判決の後半を見てみよう。
大阪地方裁判所 平成19年7月26日判決より(つづき)
本件プログラムにおいて、G1XMS-DOS版では(Windowsに対応するために一部機能が使えなくなる。これに対応するために)
(中略)
(新たに)同部分を設けるか、設けるとした場合に同部分をどのようなプログラムとするのか、その場合の関数の使用の有無・内容、プログラムの量などについて、さまざまな選択肢があり、プログラマーの個性を発揮することが可能であるところ、開発者は記憶させるデータのタイプを13分類して、そのタイプを指定することにより、画面からの入出力が共通のルーティンとして使用する(などの)
(中略)
独特の表現をしており、同部分については、開発者の工夫が凝らされていてその個性が認められるから、著作物性を有する。
裁判所は、開発企業の作ったプログラムに著作権を認める判決を出した。
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