「ネットワークの自動運転はレベル5へ」 Juniperが発表したAIOps技術の進化とは
HPE Juniper NetworkingのAIOps製品Mist AIが、生成AI/エージェンティックAIへの対応によって進化した。ネットワークの完全自動運転に向けた取り組みが最終段階に入ろうとしているのだという。
Hewlett Packard Enterprise(HPE)のネットワークブランドであるHPE Juniper Networkingは2025年8月26日(米国時間)、Juniper Networksが競合他社との差別化における最大の武器として推進してきたAIOps(AIによる運用)技術「Mist AI Platform」で、ネットワーク運用の完全自動化に向けた複数の新機能を発表した。
HPEはJuniperの買収後、両社のネットワーク事業を統合したネットワーク事業部門「HPE Networking」を新設した。製品ブランドは「HPE Juniper Networking」「HPE Aruba Networking」の2本立てとなり、開発や販売は従来通り進められている。
「イノベーションは継続しているどころか加速している。(今回の発表で)このことを示したい」と、HPE Networking 製品・ソリューションマーケティング担当バイスプレジデントのジェフ・アロン(Jeff Aaron)氏は話した。
今回の発表の最大のテーマは生成AI(人工知能)/エージェンティックAIへの対応。「エージェンティックAIにより、ステージ4からステージ5への移行が加速する。完全な自動運転に大きく近づくことになる」(アロン氏)
運用へのAI活用はネットワークのみならず、あらゆるIT製品ベンダーが取り組んでいる。その意味では新しさを感じないかもしれない。だが、Juniperの場合は意味合いが全く異なるとアロン氏は説明する。
「JuniperのAIOps基盤は既に整備されている」
Mist AIには10年以上の歴史がある。Mist Systemsという企業の買収により取得した技術で、当初からネットワークの自動運転を実現することを目的としていた。機械学習/AIを用いてネットワークの構成情報やテレメトリデータを常時分析し、問題の発生を予測するとともに対応を自動化する機能を提供している。
異常やサービスレベルの低下を発見すると、アラートを発するとともにトラブルの内容と原因を洗い出して管理ダッシュボードの「Marvis Actions」へグラフィカルに表示、推奨アクションを提示する。そして、これを確認した運用担当者が“承諾”ボタンを押すだけでこのアクションを実行できる(「ドライバーズアシストモード」)。一部のアクションについては、自動的に問題解決を実行する「自動運転モード」が設定できる。
Mist AIは自然言語の活用でも先駆的な存在だ。当初から会話インタフェースを用意しており、「端末XXがネットワークにつながらない」などの質問を投げかけることでトラブルシューティングが行える。
無線LANアクセスポイントから始まったMist AIだが、有線LANスイッチ、ファイアウォール、SD-WANルータ、データセンタースイッチにも対応した。また、「Marvis Minis」というネットワーク利用シミュレーションエージェントも提供している。これらから得られるデータを統合的に分析して、機器単位ではなくネットワーク利用体験の観点から、トラブルシューティング/運用の自動化が図れるようにしている。
なお、Marvis Minisはアクセスポイントなどの上で動作し、ユーザーによるWebアクセスをシミュレートしてネットワークの健全性をチェックできる。このシミュレーションテストで取得したデータを分析し、トラブルをユーザーが発見する前に自動で解決することを目的としている。ポイントはネットワーク機器をまたいだユーザーのアプリケーション利用体験のチェックができることにある。
Juniper Networkingにしてみると、業界が騒いでいるAIOpsの基盤は既にでき上がっている。その上で、今回の発表はネットワークの完全自動運転への道筋を開くのだと説明する。
トラブルチケットを生成AIに直接入力で解決を自動化
まず、Marvisの会話インタフェースは10年以上前に開発されたもので、生成AI以前の自然言語処理技術を使っている。このため、運用担当者はMarvisが理解しやすい明確でシンプルな文で問いかけなければならなかった。Juniperは2023年にChatGPTとの連携を発表したが、ドキュメントについての問い合わせができるにとどまっていた。
今回の生成AI対応では、自由な言い回しを使ってリアルタイムのトラブルシューティングについての質問を投げかけられるようになった。より複雑な質問に対応し、生成AIエージェントが文脈を整理したり補ったりして、分析・修復エージェントのワークフローにつなげられる。
これにより、複雑なケースを含めたネットワークトラブルシューティングをさらに自動化できるという。
また、生成AIの活用で「例えばServiceNowと連携し、トラブルチケットの内容を自動的に入力することも可能になった」(アロン氏)ともいう。
ITサービス管理とMist AIを直結することで、ネットワーク運用担当者の日常はMarvis Actionsをチェックし、通常は推奨アクションの承諾ボタンを押すだけ、となることも想定できるとする。
関連して、Marvis AI Assistantでは同社の「Apstra」との連携も深まった。Apstraとはデータセンターネットワークの設計/構築/運用を「インテント(実現したいこと)」ベースで実行できるツール。
Apstraのグラフデータベースから情報を引き出せるようになったことで、サービスプロビジョニングの自動化への道が開けたのだという。
Apstraはマルチベンダー対応のツールだ。Mist AIはApstraが管理する他社のスイッチの情報も取得できることになる。だがVXLAN-EVPNなどネットワークの設定はJuniperスイッチに対してしかできない。
自律型アクションが追加、実行内容の透明性を確保
前述の通り、Marvis Actionsは一部の問題について自律的に修復ができるようになっている。今回、この自律型アクションで実行できる項目が増えた。
例えば、非準拠のファームウェアが動いているWi-Fiアクセスポイントを検出し、自動的に更新できる。更新はネットワーク利用への悪影響を最小限にするため、利用率が低い日時に1基ずつ実行されるようになっている。
またスイッチでは、特定のポートが“スタック”したと判断すると、そのポートを自動的に再起動することができる。
実行結果は自動的に検証される。運用担当者は、どの自律型アクションがどんな理由で実行されたか、結果はどうだったかを把握できる。問題が発生した場合でも、何がどのように間違っていたかが分かり、自身が取るべきアクションを知ることができるという。
アプリケーションパフォーマンスを維持するLEMが機能強化
Mist AIには、アプリケーションレベルでのサービスレベル維持のためのAIモデル「LEM(Large Experience Model)」も備わっている。LEMはZoomやTeamsのようなアプリケーションから数十億のデータポイントを分析して、一般的なコラボレーションツールのパフォーマンスをトラブルシューティングし、将来の問題を予測するものだという。
今回の発表では、前述のMarvis MinisをこのLEMに統合した。これにより、リアルタイムのビデオ通話アプリケーションデータがなくても、将来の状況を予測できる。ユーザーが気づく前にビデオ通話関連の問題を解決できるとしている。
そもそも、LEMでなぜZoomやTeamsを取り上げたのかが気になるが、ビデオ通話の問題を解決できれば他の多くのアプリケーション関連問題も解決できる可能性が高いということが理由だという。
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