AIで成果を出す“5%の先進企業”が後発組に「2倍の成長差」――BCG調査:AI活用の格差が浮き彫りに
AI活用が広がる一方で、投資に見合う成果を得られる企業はごく一部にとどまる。BCGの調査では、AIから十分な価値を創出しているのは5%に過ぎない現実が明らかになった。
企業におけるAI(人工知能)技術活用が広がる一方で、AI関連のプロジェクトから期待通りの成果を創出できていない現状も見えてきている。コンサルティング会社Boston Consulting Group(BCG)が公開したレポート「The Widening AI Value Gap: Build for the Future 2025」によると、AI関連の投資から十分な成果を創出できている企業は5%に過ぎず、そうしたAI先進企業と後進企業の格差が今後広がる可能性もある。
AI先進企業、後発企業の差が広がる要因
BCGのレポートは、9業界、1250人の上級管理職とAI意思決定者を対象に実施した世界規模の調査に基づいている。調査で浮き彫りになったのは、単なる自動化やパイロット導入ではなく、イノベーションや事業再設計のためにAIを優先的に活用する「AIファースト」を掲げ、根本から業務の見直しを図る企業ほどAIへの投資から十分なリターンを得られているという現実だ。そのような企業を、BCGは「未来志向型(フューチャービルド)」と定義している。
未来志向型の企業は、調査対象の60%に当たる後進派(ラガード)よりも、売上高を1.7倍成長させていた。中には、5年間で数億ドル規模のコスト削減と収益改善を実現した小売企業もあるという。一方で調査対象の35%(スケーラー)はAI戦略を策定し、プロジェクトを拡張させ始めている段階にあり、徐々にリターンも得られているとBCGは分析している。スケーラーの中からは「もっと早くプロジェクトを進めるべきだった」という声も目立つという。
AI導入企業における格差拡大が加速する要因として、BCGは「エージェント型AI」の存在を挙げる。エージェント型AIは判断や複雑なタスクの連続処理を自律的に実行する。未来志向型の企業のうち3社に1社は既にエージェント型AIを活用し、AI投資のうち15%を割いている。BCGによれば、2025年時点でAIによる価値創出の約17%をエージェント型AIが生み出しており、2028年にその比率は29%まで増加する見通しだ。エージェント型AIの活用状況は、スケーラーでは12%が使用し、ラガードではほとんど使われていない。
AI投資による成果を創出できている企業には、以下のような技術的な共通点もある。
- 一度作った仕組みを再利用可能な基盤を整えていること
- データアクセスに関する信頼性を確保していること
- 部署ごとに異なる仕組みを使うのではなく、全社共通のAIプラットフォームを整備していること
この他、外部のパートナー企業などと協力しつつ従業員のスキル再教育(リスキリング)を進めていることや、社内にAIスキルを根付かせる取り組みを実施していることもAI投資から成果を創出できている企業に見られる共通点だという。
BCGの調査から分かるのは、単にAIを導入するだけでは十分な成果が得られないという現実だ。求められるのは単に部分的な効率化を目指すのではなく、AI活用を前提にしながら業務の在り方から再構築することであり、そのためには技術基盤や人材育成、業務プロセスの再設計を一体的に進めることが鍵になることもある。
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