AI導入を阻む「現状維持志向」は打破できるか OpenAI・Anthropicの「業務現場支援」が与える影響:日本のSIerは「先手を打つべき」 ノークリサーチ見解
ノークリサーチは、OpenAIの「Deploy Co」やAnthropicの新会社設立が日本のSIerビジネスに与える影響を分析したレポートを発表した。
ノークリサーチは2026年5月13日、OpenAIの「OpenAI Deployment Company」(Deploy Co)やAnthropicの新会社設立が、日本国内のSIer(システムインテグレーター)ビジネスに今後どのような影響を与えるかを分析した結果を発表した。
2026年5月に入り、米国の大手AI企業では注目すべき動きが相次いだ。2026年5月4日にはAnthropicがBlackstone、Hellman & Friedmanといった投資・資産運用会社などと共にAIサービスを担う新会社の設立を発表した。続いて5月11日にはOpenAIがTPG、Bain Capitalなどと共に「OpenAI Deployment Company」(Deploy Co)の設立を発表した。Deploy CoにはSoftBankも参加している。
業務現場に入り込む「FDE」 新たなAIエンジニアは、国内SIerの新たな競合か?
両社に共通するのは、企業におけるAI導入・活用を現場で支援する人員体制を擁する点だ。Anthropicは「Applied AI Engineer」、OpenAIは「Forward Deployed Engineer」(FDE)と呼ばれる。FDEという用語は欧米の政府系機関でも多くの実績を持つPalantir Technologiesによって広められた。
ノークリサーチはこれらの職種について、従来のコンサルタントや常駐型SES(System Engineering Service)よりも深く顧客の業務現場に入り込んだ支援をする役割だと説明する。OpenAIは英国のAIコンサルティング企業であるTomoroの買収にも合意済みだ。
これまでOpenAIやAnthropicはAPIを通じてAIモデルを提供するプラットフォーマーとして認識されてきた。「FDEやApplied AI Engineerのような現場伴走型支援が日本国内で展開されれば、日本のSIerにとってはAI時代の新たな競合になる可能性がある」とノークリサーチは指摘する。
AI活用に積極的な企業ほど「顧客密着型支援」を求める傾向
ノークリサーチは、日本国内では国産AIモデルやローカルAI環境の整備が進んでおり、言語や文化面の特殊性も含めて、海外AI企業のアプローチがそのまま適合するとは限らないとしている。
一方で、SaaS(Software as a Service)登場時も同様の障壁が指摘されていたが、現在は海外事業者が運営するSaaSがいずれの業務分野でも高いシェアを示していることから、「欧米のアプローチは日本では通用しない」と決めつけるべきではないと指摘している。
ノークリサーチが実施した調査では、AIエージェント活用に意欲的なユーザー企業ほど深く入り込んだ支援を求める傾向が示されている。
「ITアプリケーション開発ツールを活用する際のニーズ」(複数回答可)に対して、年商500億円未満、全国・全業種の企業1300社(全体平均)と、AIエージェント導入・適用予定企業146社の回答を比較した。
調査によると、AIエージェントの導入・適用を予定している企業は、全体平均と比較して各種支援をより強く求める傾向にある。
「活用を社内で推進するグループの立ち上げや運営の支援」を必要とする企業は、全体平均が19.3%であるのに対し、AIエージェント導入予定企業では32.2%に達した。「業務や部門で異なるデータ書式を統一する支援」では全体平均の13.2%に対して同企業群は21.9%、「業務フローを現場の従業員にヒアリングして整理する支援」では全体平均19.2%に対して同21.9%、「ツール活用に必要なITスキルの習得支援」では全体平均20.0%に対して同23.3%だった。いずれの項目においてもAI導入に意欲的な企業ほど手厚い支援を求めている傾向が明らかとなっている。
ノークリサーチは、AIエージェント活用に意欲的なユーザー企業ほど「ヒアリングによる業務の整理」や「スキル習得の支援」といった間接的な後押しだけでなく、「推進グループの立ち上げ」や「データ書式の統一」といった人員体制や業務データまで深く入り込んだ支援を求める傾向が強いと分析している。
SIer側では「ユーザー企業の現状維持志向」が課題に
IT企業を対象に、AIエージェントを含めたITアプリケーション開発ツールを実際の案件で活用する際の課題を尋ねたところ、最も多く挙がったのは「ツールを導入しても、ユーザー側での利用が活性化しない」(32.9%)だった。次いで「ユーザー企業の業務フローを把握・整理することが難しい」(28.3%)、「顧客のシステムの機能仕様をツールベンダーに掌握される」(19.7%)、「ツールを活用すると、顧客から低価格・短納期を求められる」(15.1%)、「ツールを基盤とした開発は自社の自由度を損なうリスクがある」(12.5%)と続いた。
ノークリサーチは「上位2項目から、人員体制や業務データの変化を避けるユーザー企業側の現状維持志向がAI導入・活用の障壁となっている可能性がある」と分析している。
日本のSIerには「先手を打つ」対応が必要
ノークリサーチは、日本国内のSIerがAI時代への適応で後れを取らないためには、「先手を打つ」ことが重要だと指摘する。
情報系(グループウェアやメールなど)や顧客管理系(CRMなど)は既に外資系のSaaSが高いシェアを占めているが、会計、販売、人事給与、業務特化型といった基幹系システムは依然として国内製のパッケージが多く利用されている。
「日本国内のSIerが地域の金融機関や行政機関と協力関係を構築し、AIを活用した基幹系システムの導入を進めることも選択肢になり得る。巨大なAIプラットフォーマーがSI領域に進出しつつある今、日本国内のSIerにも従来の枠組みを超えた対応が求められる」と、ノークリサーチは結論付けている。
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