中国製AIが上位を占有、米国製AIに3倍差 Mozillaレポートが明かす「オープンモデル」の現在地:「The State of Open Source AI」公開
Mozillaは、オープンウェイトのAIモデルの利用動向など現状をまとめたレポート「The State of Open Source AI」を公開した。同社と調査会社SlashDataによる調査、「Chatbot Arena」やOpenRouterの公開データに基づいている。
Mozillaは2026年7月、オープンウェイトのAIモデルとその周辺技術の現状をまとめたレポート「The State of Open Source AI」を公開した。定期刊行するとしており、今回が第1版に当たる。
同レポートは、Mozillaと調査会社SlashDataによる開発者調査、「Chatbot Arena」や「OpenRouter」の公開データ、9層48要素から成る技術構成の評価を組み合わせた内容で構成されている。
Mozillaが「オープンモデル」にこだわる理由
レポートの導入には、Mozillaの最高技術責任者(CTO)のラフィ・クリコリアン氏によるレターが掲載されている。クリコリアン氏はまず、オープンモデルを土台に成立している取り組みを列挙する。ニュージーランド北部のマオリ族の放送局は、データを地域社会にとどめるライセンスの下でマオリ語の音声モデルを訓練している。東アフリカでは、農家が端末上で完結するモデルを使い、通信の届かない畑でキャッサバの病害を診断している。
クリコリアン氏は「誰の許可も得ず、他人の力を借りることもなく、自らの手で権利を確立した。これこそが本質だ」と指摘している。Mozilla自体、特定の1社がWebの入り口を独占しようとした時代に、オープンなコミュニティーとして誕生した組織だ。同氏は、それから25年が経過した現在も、同じような構造が繰り返されているとの見方を示している。
事実、オープンモデル利用の価値が具体的な形で現れた例として、2026年6月12日の出来事を挙げている。米国政府の輸出命令によりAnthropicの「Claude Fable 5」は外国籍利用者への提供停止を余儀なくされたが、リアルタイムでの国籍判別が困難だったため、最終的には米国籍を含む全ユーザーへのサービスが遮断される事態となった。
モデルを利用していた企業も、予告なくサービス停止の影響を受けた。クローズドモデルの提供は一瞬で遮断され得るのに対し、自らのマシンで動くオープンモデルの利用を誰かに阻まれることはない。クリコリアン氏は「進むべき道は競争と相互運用性であり、いつでも特定の技術供給者から離れられる自由が要る」と主張している。レター末尾には「弱点を隠した主張は広告に過ぎない」として、オープンモデルが不利な領域もレポートに併記する方針が記されている。
能力差は3.3ポイント、推論コストは3年で50分の1に
オープンモデルとクローズドモデルの能力差は、「Chatbot Arena」のスコアで2024年1月の8.04%から2024年8月に0.5%まで縮まり、2025年2月には「DeepSeek-R1」が一時的に米国のフロンティアモデルと並んだ。2026年3月時点では、クローズドの推論特化モデルが先行したことで3.3%まで再び開いている。
レポートは、この3.3%は、分野によってばらつきの大きい能力差を平均した値だと注意を促している。コーディング、指示追従、一般知識ではほぼ同等で、差が集中しているのは推論、長文脈での検索、エージェント的なタスクだ。「オープンモデルが十分かどうかはもはや論点ではなく、自分のワークロード(処理負荷)に何が必要かが論点だ」としている。
価格の下落はさらに急だ。GPT-4相当の推論コストは100万トークン当たり20ドルから0.40ドルへ、36カ月で50分の1になった。レポートはこれを「ドットコム時代」の通信帯域やPCの計算能力の価格曲線より速い低下だとしている。
トークン利用量 上位5モデルは全てオープン
複数のAIモデルへのアクセスやルーティングを提供するOpenRouterでは、オープンウェイト(重みが公開されたモデル)を経由するトークンの比率が2025年後半の約3分の1から2026年半ばに過半へ達した。2026年6月に処理されたトークン量上位のモデルは次の通り。
- 「DeepSeek V4 Flash」(DeepSeek):18.4兆トークン
- 「MiMo-V2.5」(Xiaomi):14.9兆トークン
- 「Hy3 preview」(Tencent):14.8兆トークン
- 「MiniMax M3」(MiniMax):14.3兆トークン
- 「Owl Alpha」(2026年6月30日にMeituanの「LongCat-2.0」と特定):11兆トークン
6位に入ったのがクローズドモデルの「Claude Opus 4.7」(Anthropic)で9.02兆トークンだった。2026年半ばの時点で、上位9モデルのうち中国製モデルが週当たり約18兆トークン、米国製モデルが約5.5兆トークンを処理しており、3倍以上の開きがある。
Hugging Faceの累計ダウンロード数(2026年3月時点)でも、Alibabaの「Qwen」が9億4200万でMetaの「Llama」の4億7600万を大きく上回った。OpenRouterにおける中国製オープンモデルの比率は2024年後半の2%未満から2026年4月には週間トラフィックの45%超まで伸びている。
レポートは、中国が国務院の「AI Plus」構想(2025年8月)や5カ年計画(2026年3月)でオープンソースの普及を政策に位置付けている点を指摘した。少なくとも8つの法域がホスト型サービスを制限した後も、企業はサービスの利用を禁じつつ重みは自社環境で使う形で採用を続けているという。
採用は進むが本番投入で失速する
MozillaとSlashDataの開発者調査によると、アプリケーションにAI機能を追加している開発者のうち79%がオープンモデルを使っており、クローズドモデルの71%を上回った。両者は代替関係になく、50%が両方を併用し、オープンモデルのみが29%、クローズドモデルのみが21%だった。
差が出るのは本番投入の段階だ。本番環境まで到達したチームの割合は、オープンモデルを使う側が51%、クローズドモデル側が63%だった。企業規模別に見ると、クローズドモデルは小規模の54%から大企業の73%まで伸びるのに対し、オープンモデルは53%から57%までしか動かない。
レポートは「資源の問題であれば規模が解決するはずだが、そうはなっていない」とした上で、「原因は運用のためのツールと信頼であり、モデルの能力ではない」と結論付けている。オープンモデルから離脱した開発者と継続中の開発者で差が大きかった課題は、性能不足(12ポイント差)、既存システムへの統合(11ポイント差)、継続的な保守と更新(10ポイント差)で、いずれも運用面だった。
従量課金が本番規模で行き詰まる
レポートは、クローズドの最先端モデルがトークン単位で販売されている点が本番規模では問題になるとし、3つの実例を挙げている。
Microsoftのある部門では、トークン課金が年間のAI予算を数カ月で使い切ったため、2026年6月30日までに「Claude Code」のライセンスの大半を解約した。Uberは2026年のAIコーディング予算を4カ月で使い切り、ツールごとに従業員1人当たり月1500ドルの上限を設けた。
Stripeは逆の方向に進み、推論基盤「vLLM」でオープンモデルを提供することで推論コストを73%削減し、1日当たり5000万回のAPI呼び出しを3分の1のGPU(グラフィックス処理装置)で処理している。「オープンウェイトモデルの自社運用は、技術供給者が握る従量制の運用費を、企業が所有する固定費に変える手段になる」とレポートは位置付けている。
「ハーネス」が新たな競争領域になる
レポートが次の争点と見ているのが、モデルの上に載る「ハーネス」だ。ハーネスとは、オーケストレーション、ツール、メモリ、サンドボックス(隔離された実行環境)、権限管理の仕組みの総称を指す。
2026年5月公開のベンチマーク「Terminal-Bench 2.0」では、「ハーネスさえ優秀なら、同じモデルでも大きく性能を引き上げられる」ことが示された。サードパーティー製ハーネスは、Anthropicの同じモデル(ウェイト)を使いながら79.8%のスコアを記録した。一方、Anthropic純正のClaude Codeは58.0%にとどまり、ハーネスの違いだけで21.8ポイントもの差が生じた。
そのわずか8週間後に公開された「Terminal-Bench 2.1」では状況が一変する。各AIベンダーは、結果を受けてハーネスを自社製品へ統合した。その結果、公式ハーネスがサードパーティー製を上回るようになり、「Codex CLI」と「GPT-5.5」の組み合わせが83.4%、Claude Codeと「Claude Fable 5」の組み合わせが83.1%で、独立系の最高は80.4%だった。
モデルとハーネスの統合は、AIベンダーにとって強力なロックインの手段になりつつある。特定のモデル向けに最適化されたハーネスは、そのモデルでは高い性能を発揮する一方、他社モデルでは性能が落ちる。そのため、最適化が進むほどモデルの交換が難しくなる。
一方、オープンモデルには、それに対抗できる純正ハーネスがまだ存在しない。そのため、Terminal-Bench 2.1の公式ランキングでは、オープンモデルは上位に入っていない。
中立的なハーネスでそろえて比較すると、差は縮む。vals.aiがTerminal-Bench 2.1を単一のハーネスで実行した結果は、「Claude Opus 4.8」が71.9%(1タスク当たり2.41ドル)、「Claude Opus 4.7」が68.5%(同1.98ドル)、オープンモデルで最高スコアの「GLM 5.2」が67.8%(同0.43ドル)だった。能力差は数ポイントである一方、価格差は5倍に開く。
ハーネス層は既に製品カテゴリーとして成立しており、「LangChain」はGitHubのスターが12万6000を超え、オーケストレーション分野における開発者シェアは60%に達している。MCP(Model Context Protocol)は最初の1年で月間9700万回のSDK(ソフトウェア開発キット)ダウンロードを超え、アクティブなMCPサーバは1万に達した。一方で、エージェントに関する成熟したガバナンス体制を備えていると回答した企業は約21%にとどまる。
レポートはクローズドモデルが優位を保つ領域として、モデルと一体化したハーネス、100万トークン規模の長文脈での正確さ(「Gemini 3」が89%、「DeepSeek V4-Pro」が41%)、標準で使えるコンプライアンス認証、責任を問える契約相手の4点を挙げた。このうちコンプライアンスと責任は契約の問題、統合ハーネスはツールの問題であり、長文脈の正確さだけがモデル側の課題だとしている。
オープンモデルの今後の見通し
レポートの中でMozillaは、オープンモデルの持続的な成長に向けて、主として次の5つの課題に取り組むべきだと提言している。
1.オープンウェイト向けのハーネスを構築する
クローズドAI企業は、モデルとハーネスを一体化して競争力を高めている。オープン側も、オープンモデルに最適化されたハーネスを整備する必要がある。
2.メモリを自社で管理する
モデルは今後入れ替え可能になる一方、長期記憶や利用履歴は資産になる。ベンダー任せにせず、オープンモデルを利用する企業や組織が自分たちで保持・移行できる仕組みを作るべきだ。
3.共通の権限モデルを整備する
AIエージェントがどの操作を自律的に実行できるかを定義する標準が存在しない。MCPやA2A(Agent-to-Agent)をまたいで利用できる権限管理の仕組みが必要だ。
4.従量課金への依存を減らす
API利用料は将来的に上昇する可能性がある。オープンモデルやセルフホスティングを活用し、複数の選択肢を確保しておくべきだ。
5.オープンなエコシステムを多様化する
オープンであっても、一つのモデルや一社だけに依存すれば新たなロックインになる。複数のモデル、複数の実装、複数の供給元を維持することが重要だ。
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