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東京電力エナジーパートナー、Amazon Connect Customerで「育てる」AIコンタクトセンターを構築――「クラウド電話」で音声系はユーザー主体の時代に羽ばたけ!ネットワークエンジニア(104)(2/2 ページ)

東京電力グループで電力・ガス小売に関する事業を担う東京電力エナジーパートナーは、カスタマーエクスペリエンス(CX)と業務効率の向上を図るため、クラウド型のAIコンタクトセンターを構築した。

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「適材適所のAI活用」と「高音質な通話」を実現

 Phase1のシステム構成と主な機能を図2に示す。

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図2 Phase1のシステム構成
【用語説明】
・AWS Lambda:サーバ管理が一切不要なプログラム実行サービス
・Amazon Bedrock:複数の生成AIモデルをAPI経由で手軽かつ安全に自社アプリに組み込めるサービス
・Amazon Chime Voice Connector:AWSと電話網を接続するSIPトランクサービス。SIPはIP電話のプロトコル
・WebRTC(Web Real-Time Communication):主要ブラウザに標準で組・み込まれている電話、ビデオ通話の機能

 中核部分(図中1)はAmazon Connect Customer、生成AIアプリを稼働させる「AWS Lambda」と「Amazon Bedrock」で構成されている。通話音声のテキスト化はAmazon Connect Customerが提供する機能「Amazon Connect Contact Lens」によって行われる。

 会話要約は終話後すぐにオペレーターの応対用画面に表示するため、高速な応答が得られる「Anthropic Claude Haiku」を用いてリアルタイムに処理している。コールリーズン分析、法令チェックはバッチで処理しており、推論能力が高い「Claude Sonnet」を使っている。このように複数の生成AIモデルを適材適所で簡単に使えるのがAmazon Bedrockの特長だ。

 会話要約は応対後の確認と後処理で、オペレーターや管理者の負荷軽減に役立っている。今野氏によるとプロンプトの改良を重ねた結果、生成AIで作られた会話要約は80点から90点の完成度になっているそうだ。

 クラウド型コンタクトセンターをネットワークの観点で見ると「いかに高音質を実現するか」が重要だ。音質を良くするには音声パケットの送受において「パケット落ちがなく」「遅延や遅延の揺らぎが少ない」ネットワークにする必要がある。Amazon Connect Customerのネットワーク構成はシンプルで、電話網とAWSを接続する部分(図中2)とAWSとコンタクトセンターを接続する部分(図中3)から成る。

 TEPCO EPではコンタクトセンターの電話番号としてKDDIの番号を使っている。つまり、AWSと電話網の接続部分はKDDIが担っており、KDDI以外の電話はKDDI電話網を通じてAWSに接続される。例えば、NTTドコモのスマートフォンからコンタクトセンターの番号に電話するとNTTドコモの電話網→KDDI電話網→AWSとつながる。

 電話網とAWSの接続点には「Amazon Chime Voice Connector」がある。Amazon Chime Voice Connectorと電話網の接続にはインターネットを使うこともできるが、音質を良くするにはパケットロスがなく遅延が少ない専用線「AWS Direct Connect」での接続が望ましい。KDDIは接続に何を使っているか開示していないが、専用線を使っている可能性が高い。

 AWSとコンタクトセンター間の接続にはインターネットまたはAWS Direct Connectを使う。TEPCO EPではインターネットを使っている。Amazon Connect Customerから提供されている通話の音質を向上させるツールとして「Audio Enhancement」がある。キーボードの打鍵音や空調などの周辺雑音を低減するノイズ抑制、オペレーター本人の声を識別し隣席オペレーターの声をカットする音声分離ができる。

 また、音質劣化が生じた時に原因がPCにあるのか、インターネットにあるのか切り分ける通話品質診断機能や音質劣化をオペレーターに通知するモニタリング機能が用意されている。

 TEPCO EPでは音質を良くするためコンタクトセンターでは無線LAN(Wi-Fi)を使用せず、有線LANを使っている。また、ノイズキャンセリング機能のある高性能なヘッドセットを使用している。出社が困難な時などに対応するために、在宅オペレーターも一定程度いる。在宅ではWi-Fiを使うが、問題のない音質で使えているそうだ。

「育てる」AIコンタクトセンター

 SEEDSプロジェクトはPhase2に入っているが、プロジェクトの名称には「種」という意味が込められている。「作って終わりではなくCXと業務効率を向上させるために、育て続ける『種』」(今野氏)ということだ。

 育てるための人材として、Phase1終了までに生成AIのプロンプトを設計、評価できる人材を10人以上育成した。TEPCO EPが主体性を持ってAIアプリを継続的に進化させられる土台を作ったのだ。

「クラウド電話」化で音声系はユーザー主体の時代になった

 筆者は企業ネットワークをデータ系、音声系、セキュリティ系の3領域で捉えている。音声系とは電話のネットワークだ。2026年4月の本コラムでは、「脱・PBX業者」がこれからの企業ネットワークのポイントの一つだと述べた。

 PBXとは「Private Branch Exchange」の略称で、「構内交換機」と訳される。レガシーな「箱」型のPBXを捨て、EOLがなく、機能が進化し続けるクラウドPBXを導入する。箱型PBXはPBX業者に頼まなければ電話機の増設や代表グループの変更といった簡単なこともできなかった。高額な工事費用に甘んじてPBX業者を使っていた。クラウドPBXはユーザー自身で電話の運用を簡単にできる。「脱・PBX業者」が可能で、ユーザー主体で運用できることが大きなメリットだ。

 「クラウドPBX」と書くと古いPBXのイメージが残る。そこで、見出しには箱型のPBXとはまったく別物、という意味で「クラウド電話」と表記した。

 2026年5月に本コラムで取り上げた奈良市はクラウド電話で先進的なAIを活用した音声系を構築しただけでなく、脱・PBX業者も実現した。

 そして、今回の東京電力エナジーパートナーは生成AIを使いこなせる担当者を育成し、自社でコンタクトセンター業務を進化させられる体制を作った。

 クラウド電話はPBX業者に依存していた時代を終わらせ、ユーザー主体の音声系ネットワークの時代を開いた。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパートなど)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスはtuguhiro@mti.biglobe.ne.jp。


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