「ネットワークが遅い=帯域不足」はもう古い “オフィス回帰”時代の3大課題:出社がネットワークにもたらす変化とは(1/2 ページ)
テレワーク中心の業務形態から再びオフィスへの出社を中心とした業務形態に戻り、オフィスが業務上重要な拠点となりつつあります。一方でオフィスのネットワークに求められる要件は、COVID-19流行前と大きく様変わりしています。本稿では、出社回帰後のオフィスのネットワークに求められる要件と、それに伴う変化についてまとめます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の5類感染症への移行などを契機に、テレワーク中心の業務に移行していた組織もオフィスへの出社を中心とした業務に徐々に戻りつつあります。最近では、テレワークを原則禁止とする企業も見られるようになりました。
オフィスへの出社の価値は再評価されています。偶発的なコミュニケーションや即時の協業を通じて新たな価値を創造しやすかったり、従業員の育成や組織文化の醸成という点でもメリットがあるとされるからです。この結果、オフィスは再び日常業務を円滑に行うための重要な拠点となりつつあります。
ただし、働く場所がオフィスに戻ったからといって、ネットワークもコロナ禍以前の姿に戻せばよいわけではありません。オフィスネットワークに求められる要件は、コロナ禍を経て大きく変化しています。
コロナ禍前後で変わったネットワーク要件
これまでの連載でも述べたように、コロナ禍ではクラウドサービスの利活用とハイブリッドワークの普及が進みました。現在では、クラウドサービスが日常業務に欠かせないものとなっています。コロナ禍を経て定着し、出社回帰が進んだ現在でも広く使われている手段の一つにWeb会議があります。自宅などの遠隔からだけでなく、オフィスからWeb会議に参加する場面も珍しくありません。
こうした環境下で、従業員がオフィスで生産性高く業務を遂行するためには、Web会議をはじめとするクラウドサービスを快適に利用できるネットワーク環境が欠かせません。「オフィスに出社したことで、自宅よりもクラウドサービスが使いにくくなった」といった声が上がるようでは、かえって業務の生産性を損なうことになりかねません。
近年では人手不足の打開策やさらなる生産性向上を目的に、生成AIやAIエージェントなどのAI関連技術の活用も進んでいます。それに伴って発生する新たなトラフィックへの対応も必要です。加えて、テレワークや外出時でもオフィスと同様に生産性高く業務を行えるよう、組織のリソースに円滑かつセキュアにアクセスできる仕組みも欠かせません。
こうした一筋縄ではいかない前提を踏まえて、ネットワークはどうあるべきなのでしょうか。
出社回帰でも「以前のオフィスネットワークと同じ」ではもう古い
オフィスに回帰するからといって、コロナ禍以前のネットワークに戻るのでは十分ではありません。コロナ禍以前のネットワークは、境界型防御の内側にある社内のアプリケーションへのアクセスや、インターネットへの接続が主な役割でした。求められるのは、従業員がインターネット上の各種サービスを業務で利用する際の体験(デジタル体験)を最大化するネットワークです。さらに、出社のメリットを生かして企業価値の向上につなげるには、オフィスネットワークにも、従業員同士のコミュニケーションや協業を支える基盤としての役割が求められます。
オフィス内外を問わず組織のリソースに円滑にアクセスできる環境では、求められるセキュリティの仕組みも変わります。どの端末・従業員がどのリソースにアクセスできるかを動的に制御するためのガバナンスを強化できる仕組みが重要です。ゼロトラストアーキテクチャはそのようなガバナンスの強化に適したものとなります。
オフィス回帰時代のネットワーク、3つの課題
現在のオフィスで従業員のデジタル体験を最大化するために対応すべき課題として、大きく以下の3点が考えられます。
- 高密度であっても高品質を実現するアクセスネットワークとクラウドサービスへのアクセスに適したインターネットアクセスの実現
- ユーザーの体験を重視した通信の可視化
- ID中心の認証・認可に基づくセキュリティの実現
「つながる」だけでは足りないアクセスネットワーク
1つ目の課題であるアクセスネットワークでは、幾つかの観点で接続環境を整備する必要があります。高密度な接続を前提とした仕組みとしては、「Wi-Fi 6」など、ユーザーが密集した環境でも安定した通信を実現する無線LAN規格の活用が挙げられます。出社回帰によってオフィスに多くの従業員が集まることが想定される場合、例えば同じエリアから数十〜100人が同時にWeb会議にアクセスしても遅延や通信待ちが生じにくいアクセスネットワークを整備する必要があります。
オフィスからのインターネットアクセスでは、多数の従業員が一カ所から同時にクラウドサービスを利用することを想定した設計が重要になります。オフィスアプリケーションや、Web会議のクラウドサービスを利用する場合、1台の端末が常時20〜100同時通信セッション、数百kbps〜数Mbpsの通信を発生させます。そのため、自宅などから数台の端末でクラウドサービスに接続している際には問題とならなかった通信量でも注意が必要です。オフィスにおいて数百台〜数千台の端末が同時にクラウドサービスに接続した場合には、通信回線やセキュリティ機器の処理能力を大幅に超えて、十分にクラウドサービスが使えなくなることがあるからです。
こうした大規模な通信トラフィックに対処するには、高速・広帯域なインターネット回線を利用するだけでなく、通信品質を維持したいサービスの通信を特定の回線に振り分けたり、ボトルネックとなるセキュリティ機器をバイパスしたりするなどの通信制御が求められます。
小規模拠点の通信を社内WAN経由で大規模拠点やデータセンターに集約してインターネットに接続しているような場合は、社内のWANがボトルネックにならないように、拠点からのクラウドサービス向け通信を直接インターネットに振り分けるなどの制御を行う場合もあります。「ローカルブレークアウト」として知られている仕組みです。こうした通信制御は、今後急増すると想定される生成AIやAIエージェントの利用に伴う通信量の増大への対処としても有効です。遅延が特に問題となるようなWeb会議のトラフィックについては、優先制御を適用する場合もあります。
ユーザーにとっての「Web会議が遅い」原因をどう特定?
2つ目の課題である「ユーザーの体験を重視した通信の可視化」とは、ネットワーク機器の稼働状況だけでなく、ユーザーが実際にサービスを快適に利用できているかどうかを可視化することを指します。具体的には、あるユーザーが「Web会議が遅い」、という体験をしている場合に、その通信においてどこにボトルネックがあるかを発見することです。
ユーザーが感じる「遅さ」の原因は、通信経路上のさまざまな箇所に存在する可能性があります。端末の負荷が高いのか、無線LANが遅いのか、スイッチやルーターがボトルネックなのか、DNS(名前解決)応答が遅いのか、セキュリティ機器が遅延を生じさせているのか、インターネット接続が遅いのか、SaaS側の処理が遅いのか――。その原因を特定した上で、自動で解消できるような仕組みがあると望ましいです。これを実現するには各ネットワーク機器を単体で監視するだけでなく、各通信フローを包括的に監視し可視化する必要があります。
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