「1週間の開発タスク」でAIの限界を検証 Googleが「Android Bench 2.0」公開:「新規作成は得意でも改修が苦手」 最高通過率は「28%」に
Googleは、AIモデルやエージェントのコーディング能力を測る「Android Bench 2.0」を公開した。エンジニアが数日を要する複雑な長期タスクを課す仕様に刷新。最高通過率は従来の約91%から約28%に急落した。
Googleは2026年9月17日(米国時間)、大規模言語モデル(LLM)やAIエージェントのAndroid開発能力を評価するベンチマークの最新版「Android Bench 2.0」を公開した。エンジニアが数日から1週間ほどかけて取り組む複雑な長期タスク(Long-Horizon Tasks:LHT)を課す仕様へと大幅に刷新した。
従来のタスクにおける最高通過率は約91%に達していたが、今回の長期タスク群における最高通過率は約28%へと急落した。同社はベンチマークの基盤を、LLM評価の枠組みである「Harbor」フレームワークに適合させるとともに、モデル単体だけでなく開発環境と組み合わせたAIエージェントの評価も導入している。
数日規模の「長期タスク」へ移行 0か1かの合否判定を廃止
従来の「Android Bench」や初期のAIコーディングベンチマークは、既存のリポジトリに対する小規模な変更やバグ修正、機能追加といった限定的な作業の評価に焦点を当てていた。これは当時のAI支援機能の性能水準を反映したものだった。
Android Bench 2.0では、開発者がAIに委託する作業の実態に合わせて難易度を引き上げた。導入された長期タスクには、ライブラリなどの依存関係のアップグレード、新機能の追加、スクラッチからのアプリケーション構築、クロスプラットフォームアプリケーションのAndroid向け移植といった、エンジニアが数日から1週間程度を要する作業が含まれる。
数日間に及ぶ開発タスクの評価では、従来の二者択一による合否判定(バイナリスコアリング)は実態を正しく反映できない。例として40画面を宣言型UI(ユーザーインタフェース)ツールキット「Jetpack Compose」にリファクタリングし、データベースのテーブルを構築して要求の90%を満たしたエージェントがあったとする。
このエージェントがエッジケースの検証を1つ失敗しただけで、その回の評価(スコア)を0点と判定してしまうと、モデルが持つアーキテクチャ設計能力を見落とすことになる。
そこでGoogleは、より有意義な評価指標を提供するために「完了率(Completion Rate)」を算出する連続スコアリング方式を採用した。完了率は機能性、UIの忠実度、リグレッションの防止といった要素を組み合わせて計算する。
評価手順からの逸脱や構造上の制約に違反した場合は、客観的な減点ペナルティーを適用する。この新たな評価基準により、モデル開発者は強みや弱点を正確に把握できるようになり、開発チームは自社のワークフローに適したモデルやコーディングエージェントを選定しやすくなる。
「新規作成」は得意だが「リファクタリング」で苦戦 AIの弱点
長期タスクのデータセットにより、テスト対象となったAIモデルの得意分野と課題が浮き彫りになった。
モデルの規模や性能(軽量モデルからフロンティアモデルまで)を問わず、AIは既存コードのリファクタリングよりも新規コードの作成で高い性能を示した。リファクタリングや移行作業では、コードの総量ではなくアーキテクチャの複雑さが成否を分けるため、難易度が跳ね上がる傾向がある。
一方で、定型的な変換作業には高い適性を示した。JavaからKotlinへのコード変換、HTTPクライアント「Retrofit」から「Ktor」への置き換え、ViewModel層の導入といった、手法が確立された確定的な変換処理においては、125以上のファイルや8000行を超えるコードベースでも一貫したパターンを適用できる能力が確認された。
しかし、実行時の検証が必要なタスク(依存関係注入グラフの欠落など)や、フレームワークの破壊的変更を伴うタスク、未公開ライブラリなど「知識の空白」に直面するタスクでは性能が大幅に低下する。
クロスプラットフォームアプリケーションのAndroid移植は依然として難易度が高く、通過率100%を達成したモデルは存在せず、最先端のモデルでも完了率は最大80%にとどまった。
エージェント評価を初導入 OpenAIの「GPT-6 Astra」が首位
Android Bench 2.0では、開発現場のワークフローに合わせた「エージェント評価」も組み込まれた。まずはモデル提供元が用意するエージェントツールと組み合わせた検証から開始している。
OpenAIの「GPT 5.6 Sol」を「Codex」で実行し、Googleの「Gemini 3.8 Flash」をエージェント環境「Google Antigravity」で稼働させて検証した。実行環境の設計が開発効率に与える影響は大きく、プロンプトキャッシングやツールのコンテキスト枠の最適化により、消費トークン数を削減できることが確認されている。
リーダーボードには最新のモデル群が追加された。Googleの「Gemini 3.8 Flash」「Gemini 3.7 Flash」、OpenAIの「GPT-6」、Anthropicの「Fable 5.1」、Moonshot AIの「Kimi K3」、Alibaba Cloudの「Qwen 3.8 Max」などが並ぶ。
長期タスクにおいて最高通過率を記録したのはOpenAIの「GPT-6 Astra」で、通過率は28%だった。従来のタスクで記録されていた約91%と比較すると、大幅に低い水準となっている。
Googleは今後、さまざまなモデルとエージェントツールの組み合わせによる評価結果の拡充を予定している。長期タスク、マルチモーダル評価、エージェント環境、連続スコアリングを組み合わせることで、開発者が最適なAIツールを選択できる透明性の高い環境を整える方針だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
Google Antigravityでアプリ開発はどう変わるのか エディタとエージェントマネジャーがもたらす新たな世界
Googleが発表したAntigravityはAIエージェントを開発の中心に置いた新たな開発体験を提供しようとしている。その体験がどんなものか、どんな要素が組み合わさっているのかについて紹介します。
複数のAIエージェントを部下のように管理 OpenAIの「Codex」デスクトップアプリ版は何ができる?
OpenAIは、コーディングエージェント「Codex」のデスクトップアプリケーションを提供開始した。複数のAIエージェントを同時に管理し、並列で作業を実行できる「エージェントのコマンドセンター」として設計されているという。
5大コーディングエージェントの比較で分かった「バイブコーディング」の落とし穴
サイバーセキュリティ企業のTenzaiは、「Cursor」「Claude Code」「OpenAI Codex」「Replit」「Devin」という5つの主要なコーディングエージェントを取り上げ、セキュアコーディング能力を比較した結果を公開した。
AIコーディングはなぜ後から苦しくなるのか? 技術負債に続く「理解負債」「認知負債」という新たな落とし穴
AIコーディングが普及する中で注目され始めた「理解負債」と「認知負債」。従来の技術負債と合わせた「AIコーディング時代の三大負債」を整理し、なぜ開発が後から苦しくなるのかを分かりやすく解説する。