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日本企業が「サイバー攻撃はAIのせい」にして目を背ける“本当の原因”:専門家たちは見抜いていた(2/3 ページ)

国内企業を揺るがす一連の不正アクセス被害で、AIによる自律型攻撃ツール「ARTEX」の関与が判明した。短時間で広範囲に仕掛けられる攻撃に注目が集まるが、専門家たちが一様に指摘するのは「使われた侵入経路そのものは従来と変わらない」という厳しい現実だった。有識者たちの視点から、見せかけの先進技術に惑わされず足元を固めるための具体策を探る。

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回答者:杉浦隆幸氏「AIエージェントの侵害能力が、一般的なセキュリティ技術者を上回った」

プロフィール

一般社団法人日本ハッカー協会 代表理事

インタビュー回答日:2026年10月9日

Q:被害増加の背景には何があると考えているでしょうか?

 AIエージェントの侵害能力が、一般的なセキュリティ技術者を上回り、サイバー犯罪にかかる時間とコストが減ったことで手数を増やせるようになったためと予測しています。

Q:企業が今やるべきセキュリティ対策とは何でしょうか?

 やられる前に、自前でAIを使った弱点の検出と修正をすることです。またVPNやCMS、Webサービスなどインターネットの表面に出ている機器やサービスは自動で更新できるようにする必要があります。組織面では更新やインシデント発生時のシステム停止など決済者の判断をあらかじめしておき、上に上げる前に現場ですぐに対応できるようにしておくべきです。後回しにしていた脆弱性対応も忘れずに実施し、サポート切れや未パッチをなくすようにしましょう。

回答者:西尾素己氏「被害企業のほぼ全てが直前に認証情報の売りが出ている」

プロフィール

東京大学先端科学技術研究センター 客員研究員

インタビュー回答日:2026年10月6日

Q:被害増加の背景には何があると考えているでしょうか?

 私は間違いなく、以下のエコシステムが日本にaimしたものと理解しております。

 2019年ごろから散布されていたインフォスティーラーから認証情報が漏れ、それらを用いたイニシャルアクセスブローカー(IAB)による初期侵入と、そのセッションを買った攻撃者による攻撃という流れですね。今回の被害に遭った企業は、ほぼ全てが直前に認証情報の売りが出ています。

 また、IABが認証情報以外に使っているのが、既知の脆弱性を抱えるインフラへのAIを用いたばらまき攻撃です。通常のスキャナーではなく、スキャン後の結果に対して自律的に攻撃をするものもあるので、企業規模にかかわらず幅広に被害が広がりやすいです。

Q:企業が今やるべきセキュリティ対策とは何でしょうか?

 認証情報にある程度的を絞ると、自社の認証情報の管理は、このエコシステムから逆算すればよいです。つまり、売り情報をモニタリングするということですね。

 もちろんこれだけではダメで、脆弱性情報についても張り付いて、なるべく早い適応をしないとスキャナーやAI型攻撃にaimされてしまいます。

回答者:上野宣氏「『日本の被害はAIのせい』と言うと、本当の原因から目がそれる」

プロフィール

トライコーダ 代表取締役

インタビュー回答日:2026年10月8日

Q:被害増加の背景には何があると考えているでしょうか?

 なぜ今、これだけ続いているのか。一言で説明できる材料はまだ出ていません(2026年10月8日現在)。公表された事案を並べてみると、件数の大きいものですら侵入り口まで書いているのは半分ほどです。残りは「第三者による不正アクセス」の一言で終わっています。

 それでも、書かれている分から言えることはあります。やられ方は昔からあるものばかりです。Webアプリケーションやミドルウェアの既知の脆弱性を突かれた。管理画面に正規のIDとパスワードでログインされた。フィッシングで「Microsoft 365」や「Google Workspace」のアカウントを奪われた。どれもペネトレーションテストでは定番の入り方で、目新しい手口はほとんど見当たりません。委託先のSaaSの管理サイトに不正ログインされ、それを使っていた複数の会社の顧客情報がまとめて危険にさらされた事案もありました。

 では、何が新しいのか。私は、手口ではなく「試す速さと量」だと見ています。

 同じ時期に韓国では、複数の金融機関から情報が盗まれました。報道によれば、侵入り口になったのは、ある銀行では融資仲介業者向けの審査進捗(しんちょく)の照会サービス、別の銀行では職員向けのモバイル業務システムです。CrowdStrikeが2026年10月7日(現地時間)に公表した分析では、攻撃者のサーバの公開ディレクトリから、中国で開発されたAIペネトレーションテストツール「ARTEX」の設定ファイルと、AIエージェントとのやりとりの履歴が見つかっています。9月下旬から10月初旬にかけて、ARTEXと大規模言語モデル(LLM)で韓国の金融機関を攻撃していた記録で、標的は報道された被害組織と重なっていたそうです。

 ARTEXは、大規模言語モデル(LLM)を使った複数のエージェントが自分で計画を立て、偵察から脆弱性の探索、検証までを進めるツールです。ペネトレーションテストで私たちが人手でやっている工程を、そのまま機械に回させる作りです。オープンソースで公開されていて、誰でも手に入ります。

 ただし、この攻撃者は既知のグループとはひも付けられていません。CrowdStrikeの評価も、中国語話者で金銭目的の可能性が高い、というところで止まっています。日本の一連の事案でARTEXやAIエージェントが使われたことを示す公表も、私の知る限りまだありません。ここを混同して「日本の被害はAIのせい」と言ってしまうと、本当の原因から目がそれます。本当の原因とは、対策側の不備です。

 とはいえ、ペネトレーションテストなど攻める側の仕事もしている人間として、この流れは無視できません。韓国の事案は金融業界に絞った攻撃でしたが、同じ攻撃者が2週間ほどで複数の組織に入っています。CrowdStrikeも、AIによって金銭目的の攻撃者が短期間に複数の侵入をこなせるようになった、と評価しています。

 偵察して、脆弱性を探して、ログインを試す。この作業はとにかく人手と時間を食います。だからこれまでの攻撃者は、狙う相手を選んでいました。AIエージェントがこれを休まず並列で回せるようになると、「わざわざ狙う価値があるか」という判断が要らなくなります。インターネットに出ている端末を、端から全部試せば済むからです。

 日本で業種も規模もばらばらの組織が短い期間に並んだ背景にこれがあるのかは、まだ分かりません。ただ、同じことが日本で起きても何の不思議もありません。

Q:企業が今やるべきセキュリティ対策とは何でしょうか?

 攻撃側の手間が減ったのなら、守る側も前提を変えなければなりません。「うちのような会社をわざわざ狙う人はいない」は、もう通用しない考え方です。かといって、特別なことが要るわけではありません。効くのは地味な対策です。

  • 外から見える自社の資産を、攻撃者と同じ目で棚卸しする:インターネットに公開しているサーバ、VPN機器、管理画面、APIを、外から洗い出してください。攻撃者が最初に見るのはここです。入り口になるのは、たいてい担当者が把握していないものです。古いキャンペーンサイトや検証環境、取引先や従業員向けの業務システム。韓国の事案でも、侵入り口は顧客向けの本体ではなく、仲介業者向けの照会サービスや職員向けの業務システムでした。AIで端から試されるなら、残っている脆弱性は早晩見つかります。パッチを当てるまでの日数は、四半期単位ではなく日単位で管理してください。
  • ログインの入り口を、大量に試される前提で守る:会員サイトやアプリのログイン画面、委託先が提供する管理画面は、流出したIDとパスワードを機械的に試される場所です。試行回数の制限、自動化されたアクセスの検知、普段と違うログインの監視を入れてください。管理者アカウントは接続元を絞り、パスキーのようにフィッシングに強い多要素認証を使います。ただ、パスキーまで設定していたのに乗っ取られた事案も、今回公表されています。多要素認証は入れたら終わりではありません。異常なログインに気付ける仕組みとセットで考えてください。
  • 委託先とSaaSを、自社のシステムの一部として扱う:顧客の個人情報を預けているサービスを一覧にして、それぞれの管理画面に誰がどうやってログインできるのかを把握してください。契約書に「適切なセキュリティ対策を講じること」と一行書いてあるだけでは、何も守れません。攻撃者から見れば、委託先の管理画面も自社の入り口の一つです。
  • 攻撃者より先に、自分で試す:攻撃者がAIで脆弱性を探すなら、守る側も同じ道具で先に探せます。AIを使った脆弱性の点検は、既に製品やサービスとして利用可能な状況にあります。ただし、こういったツールが報告するのは「見つけた」ものだけです。業務の流れを悪用する欠陥のようにツールでは見つけにくいものは、人の目での診断と組み合わせてください。
  • 漏れた後を前提に準備する:ログがなければ、「漏えいはなかった」とは言い切れません。今回も、閲覧されなかったことを確かめる記録がないとして、漏えいの可能性を認めた事案がありました。ログをどれだけの期間残すのか、誰がそれを見るのかを決めておいてください。委託先の分も含めて、インシデントが起きたときの連絡と公表の手順も決めておく必要があります。

 組織として一番大事なのは、経営層がこれを「IT部門の話」で片付けないことです。被害は、飲食や小売のアプリ、大学、報道機関、証券会社にまで及んでいます。攻撃者は「価値のある情報がありそうで、入りやすい」ところを選んでいるだけです。そして今後は、その選別すらAIがやるようになります。入りやすい入り口を閉めるための予算と人を出せるのは、経営層だけです。

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