「3年以内に車はランサムウェアに狙われる」 9割の開発者が回答:日本の開発者が抱く危機感
ソフトウェアのアップデートが提供される自動車車両(SDV)が本格的に普及した場合の最大のリスクは何か。その問いへの答えとして開発者たちが挙げたのが「サイバーセキュリティの脆弱性」だ。回答者の中には3年以内に車がサイバー攻撃に狙われると考えている人もいるという。
BlackBerryは2026年10月27日、傘下のQNXが委託した自動車ソフトウェア開発者調査「Under the Hood: SDV Developer Report 2026」の日本市場分析を発表した。
日本の開発者の60%が、ソフトウェア定義車両(SDV:Software Defined Vehicle)の展開における最大のリスクとして「サイバーセキュリティ脆弱(ぜいじゃく)性」を挙げた。SDVとは購入後もスマートフォンのように通信経由でソフトウェアがアップデートされる車のことだ。
前年の41%から19ポイント上昇し、調査対象8カ国で最も高い割合となった。一方、開発工程ではソフトウェアの統合や調達に課題があり、業界横断の協業を重要視する意識と、自社の取り組みとの間にも隔たりが見られた。
「3年以内に車はランサムウェアに狙われる」 開発者たちの懸念
調査はQNXの委託を受けたOnePollが2026年7月20日〜8月4日にオンラインで実施した。対象は日本や米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、中国、韓国の組み込み自動車ソフトウェア開発者1100人で、日本からは100人が参加した。前年調査とは対象国の構成に一部違いがある。
日本では、87%が「3年以内にSDVがサイバー攻撃の主要な標的になる」と回答した。今後5年間で重要になるスキルとしてサイバーセキュリティを挙げた割合も、前年の53%から64%に上昇した。AI・機械学習の統合も63%に達している。
AIが今後3年間に最も大きな影響を与える領域としてサイバーセキュリティを挙げた割合は30%で、グローバル平均の15%を上回った。AIが変革的な役割を果たす、あるいは大きな役割を担うと考える割合は日本で75%、世界全体で87%だった。
こうした結果からは、SDV開発においてセキュリティが重要な課題として認識されていることがうかがえる。ただし、調査は開発者の意識を尋ねたものであり、実際の攻撃件数や脆弱性の発生状況を示すものではない。
開発現場を圧迫する統合の複雑さ 協業の必要性と実行体制にもギャップ
開発プロセス上の課題として、日本では「統合の複雑さ」と「長い開発サイクル」がそれぞれ45%を占めた。世界全体で最も多かった「デバッグ・テスト」は日本では29%だった。
前年との比較では、「調達・ライセンス取得の遅れ」と「SoCの柔軟性不足」がそれぞれ16ポイント上昇し、39%、37%となった。開発者が基盤ソフトウェアの統合に費やす工数は、日本、世界全体とも平均35%だった。
日本では、統合・検証時間の短縮を求める割合が43%となり、ソフトウェア再利用の拡大を挙げた21%を上回った。事前統合済み商用プラットフォームの採用率は17%で、世界平均の8%を上回っている。
開発遅延の要因としては、2026年の調査で「非効率な開発プロセス」が60%、「人材不足」が57%を占めた。前年調査では「規制の遅れ」が52%で最も多かったが、今回は開発プロセスや人材に関する課題が上位に浮上した。
業界横断的な協業を重要と考える割合も、前年の83%から97%に上昇した。一方、自社が協調的な開発プラクティスを支援していると回答した割合は77%にとどまる。両者の差は20ポイントで、世界平均の6ポイントを大きく上回った。
協業の必要性は広く認識されているものの、それを支える社内の仕組みや実践が十分とは限らない。SDVの開発では、セキュリティ対策だけでなく、複数のソフトウェアや関係組織を横断して開発を進める体制も課題となっている。
規制への見方は改善、対応の自信は低下 問われる開発体制の整備
規制への評価には変化が見られた。「新規制によって開発スケジュールが加速した」とする日本の回答は、前年の32%から43%に増加した。遅延したとする回答は35%から27%に減少した。「規制の枠組みがSDVの進化に追い付ける」と考える割合も、67%から85%に上昇した。
一方、規制への継続的な適合に「非常に自信がある」と回答した割合は、前年の16%から9%に低下した。「ある程度自信がある」を含めた合計も74%で、前年の78%を下回った。対応が難しい規制としては、サイバーセキュリティが56%、AI・機械学習関連が41%を占めた。
規制の見通しが改善しても、自社で継続的に対応できるという確信が高まっているわけではない。サイバーセキュリティやAI関連の要件に対応しながら、複雑化する開発工程を管理する体制が求められている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
日本企業が「サイバー攻撃はAIのせい」にして目を背ける“本当の原因”
国内企業を揺るがす一連の不正アクセス被害で、AIによる自律型攻撃ツール「ARTEX」の関与が判明した。短時間で広範囲に仕掛けられる攻撃に注目が集まるが、専門家たちが一様に指摘するのは「使われた侵入経路そのものは従来と変わらない」という厳しい現実だった。有識者たちの視点から、見せかけの先進技術に惑わされず足元を固めるための具体策を探る。
国内Web侵害119件、“情報漏えいドミノ”の背後でいま何が起きているか
毎日のように企業が情報漏えいを公表している。国内Web侵害の公表件数は2026年10月6日時点で119件。この異常事態を引き起こす要因は何か。専門家のデータから、従来の攻撃者像だけでは説明しにくい動きと、WAFや脆弱性診断だけでは通用しないWebの穴が見えてきた。あらためて企業がすべきセキュリティ対策を問う。
PHP脆弱性問題は“また起こる” 事件の裏にあったエンジニアの根深い課題
多くの日本企業を混乱の渦に巻き込んだPHP脆弱性問題。深夜のアップデート対応に追われた担当者もいることだろう。この問題はなぜ起きたのか。その背景には一朝一夕ではいかない開発者全体に関わる根深い課題があった。
PHPの重大脆弱性「php2shell」、パッチ公開まで待てない GMOが示した暫定策と注意点
PHPに深刻度9.2の重大脆弱性「php2shell」が見つかった。外部から任意のコードを実行される恐れがあり、PHP開発チームは2026年10月21日23時に修正パッチを公開する予定だ。パッチを待つ間、企業は何をすべきか。GMO Flatt Securityは独自分析を基に暫定策と緊急対応の指針を示した。