イベントウォッチ JUASスクエア「ITガバナンス2005」

ITガバナンスの課題は「人材」と「PDCA」

生井 俊
2005/9/22


JUASスクエア「ITガバナンス2005」が9月6日・7日の2日間、都内ホテルで開催された(主催/日本情報システム・ユーザー協会、企画/ガートナー ジャパン)。2日間のセッションから、印象に残ったものを紹介する。(→記事要約へ)

 今回で5回目を迎えたITガバナンスは「変化する『ITの使命』〜経営成果の最大化に向けて〜」をテーマに、事例紹介、研究会報告、ディスカッションテーブルなどが行われた。どのセッションもほぼ満席で、ディスカッションテーブルのいくつかは会場から人があふれ、会場ロビーに設けられたサテライト中継所にも人だかりができるなどの盛況ぶりだった。

- 基調講演・基調パネルから

基調パネルでは、ベンダ選定、IT市場の健全性、IT部門の在り方について3氏が意見を述べた
 初日の基調講演は、「デジタル時代の功罪」と題し、JR東日本(東日本旅客鉄道)の松田昌士代表取締役会長が、2日目の基調パネルは、「変化する『CIOの使命』〜経営成果の最大化に向けて〜」と題し、シャープの坂井陽一顧問(前CIO)、イオンの縣厚伸常務執行役、川崎汽船の久保島暁常務取締役の3氏がパネリストとして登場した。

 基調パネルでは、ITが果たす役割が従来のコスト削減や業務効率化のためのツールから、ビジネスを駆動する経営の原動力へ確実にシフトしてきているとの認識を深める体験談が多く聞かれた。それに伴い、CIOが果たす役割や経営層への説明責任は年々重くなり、また、情報システム部門はシステム構築・運用だけでなく、経営戦略に沿ったビジネスプロセスを提案をする機能も必須になってきたと各氏強調していた。

 ディスカッションテーブルなどを見ると、経営品質を上げる取り組みを行っている企業では、「いかに人材を教育し能力を上げていくか」と、「プロジェクトの事後評価をどのように経営のサイクルに組み込んでいくか」の2点に課題が絞られてきているようだ。また、ガバナンスの観点から、情報子会社の在り方についても活発な議論がかわされていた。

- ITに対する投資効果をどう評価するか?

 
「IT投資と効果 〜IT投資と経営戦略をどう結びつけるか〜」
事例紹介者: 東日本電信電話株式会社 技術部 ITイノベーション室長 津田博久氏
株式会社リコー IT/S本部 IT/S企画室 室長 兼 IT/S技術センター 所長 鈴木敏廣氏
議長: 大日本化学工業株式会社 情報システム部長 小田滋氏

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 初日の1番人気となったのがこのセッション。入場制限により、会場からあふれた約70名も、サテライト中継所の画面を食い入るように見ていた。

 経理・人事系システムへの投資では経費や人材の削減という形で効果が出たが、昨今はIT投資に対する効果が見えにくくなっている。そのIT投資に対する効果をどう測ればいいのかがテーマ。ディスカッションに先立ち、NTT東日本とリコーのIT投資に対する事後評価への取り組み事例が紹介された。

 NTT東日本では、プロジェクトチームとは別に、本年4月に評価を専門に行うチームを結成し、この10月からはプロジェクトの外から事後評価し、結果は社内の委員会で報告される予定だ。

 発表に立った津田氏は、「バランス・スコアカードには財務・顧客・業務プロセス・学習と成長という4つの視点があるが、まずは最も影響が大きい1つに絞ってやっていき、最終的には4つになればいい」と、バランス・スコアカードの活用して評価基準を持つ意義を説いた。そして、「小さいことだが、事前評価・事後評価・マネジメントにコミットすることなど、これらの要素をサイクルに取り込んでいくことが大切だ」と結んだ。

 リコーでは、業務をやめる、変えるためにITを上手に活用し、これまで業務革新とIT化に取り組んできた。「プロジェクトの評価については、単独では効果が出ないものをインフラ型と定義している。プロジェクト型でも戦略的なものか、効率化や売上増大を図るためのものかで、評価基準を変えるべきだ」と鈴木氏は指摘。「これまでのプロジェクトを見直し、成功したこと、失敗したこと、思わぬ効果が出たことなど、それらを整理しながら次につなげていくことが大切だ」と話した。

 事例発表後のディスカッションでは「プロジェクトの事後評価を行っているが、企画した人間が行っているため、なかなか客観性という面では難しい」「コスト削減は分かりやすいが、売上増につながった場合は効果が測りづらい」「投資対効果に目が行きがちだが、のびのびとした雄大な計画が出てこないのが寂しい」などの意見が出た。

- 情報子会社の意義とガバナンスについて

 
「情報子会社の存在意義とそれを支える人材」
議長: インフォコム株式会社 取締役 CSO 経営企画部長 吉野 隆氏
 
「経営基盤としてのITマネジメント体制〜IT部門と経営/ユーザー部門の役割を考える」
議長: 花王株式会社 情報システム部門部長 倉沢 裕氏

所属企業の業種やIT部門の役割などを問うアンケートに、参加者が色画用紙で回答するセッションもあった
 ビジネスにおけるIT活用の重要性が増したことで、経営層はITへの理解が必須となり、IT部門の役割、組織の在り方が大きく変化してきた。その状況下で、IT部門の位置付けや情報子会社の存在意義についてを討議した。

 ディスカッションテーブル「情報子会社の存在意義とそれを支える人材」議長の吉野氏は、「情報子会社は、人的柔軟性の確保とプロフィットセンター化の期待を目的に作られ、欧米にないユニークなもの」とその変遷を紹介した。その中で、外販を行いプロフィットセンター化している会社と、外販を行わずコストセンター傾向にある会社の2極化が進んでいるデータを示した。会場からは「グループ連結になっている今、IT部門を子会社化する意味はない」との意見も出た。

 ディスカッションテーブル「経営基盤としてのITマネジメント体制〜IT部門と経営/ユーザー部門の役割を考える」では、この4月に情報子会社を設立したキユーピーの事例報告があった。子会社化したことで、キユーピーでは本体に残したITの企画・戦略機能を、システム開発中心から現場でいかにITを使わせるかという役割へ特化することができたという。会場からは「情報子会社不要論が出ているが、どれだけ本体に貢献したかをぜひ評価したい」「情報子会社のモチベーションを高める工夫はないか」「情報子会社とSLAを組むことはできないか」といった意見が出た。

 このほか事例紹介トラックでは、大成建設のITガバナンス改革事例、JTB(JTB情報システム)の基幹システム再構築事例、JAL(日本航空、日本航空インターナショナル、日本航空ジャパン)のITマネジメントシステム導入事例などが紹介された。研究会報告では、松下電器産業におけるIT改革本部(中村社長が本部長)を中核とした大改革についてのレポートが行われ、いずれも多くの人が熱心に聴講していた。

  関連リンク
  社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)
  JUASスクエア ITガバナンス2005
  ガートナー ジャパン


■要約
JUASスクエア「ITガバナンス2005」が9月6日・7日の2日間、都内ホテルで開催された。2日間のセッションから、印象に残ったものを紹介する。

基調パネルでは、シャープ・イオン・川崎汽船の役員3氏がパネリストとして登壇した。ITが果たす役割がビジネスを駆動する経営の原動力へ確実にシフトしてきているとの体験談が聞かれた。それに伴いCIOが果たす役割や経営層への説明責任は年々重くなり、システム部門はビジネスプロセスを提案をする機能も必須になってきたと各氏は強調した。

人気が高かった「IT投資と効果」に関するセッションでは、NTT東日本とリコーの取り組み事例が紹介された。NTT東日本ではバランス・スコアカードを活用しているが、4つの視点のうち、「まずは最も影響が大きい1つに絞って行い、最終的には4つになればいい」と説いた。リコーでは、インフラ型かプロジェクト型かなどで評価基準を変えるべきとした。

「経営基盤としてのITマネジメント体制」では、この4月に情報子会社を設立したキユーピーの事例報告があり、キユーピー本体のIT企画・戦略機能を業務の現場でいかにITを使わせるかという役割へ特化することができたという報告が行われた。


profile
生井 俊(いくい しゅん)
1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコー、都立高校教師を経て、現在、ライターとして活動中。著書に『インターネット・マーケティング・ハンドブック』(同友館、共著)『万有縁力』(プレジデント社、共著)。


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