イベントウォッチ 第24回 ソフトウェア品質シンポジウム

“揺らぎ”と“仮免許”でソフトウェア品質向上を

生井 俊
2005/9/30


第24回ソフトウェア品質シンポジウムが9月8日・9日の2日間、西新宿の新宿NSビルで開催された(主催/財団法人日本科学技術連盟、後援/経済産業省、文部科学省)。2日間のセッションから、印象に残ったものを紹介する。(→記事要約へ)

 かつて、“品質立国”といわれた日本のIT品質を高めるにはどうすればよいのか──。従来の『ソフトウェア生産における品質管理シンポジウム』から名称変更となった今回は、「ビジネスを成功に導くソフトウェア品質〜ユーザ、ベンダー、組込、エンタープライズの枠を越えて〜」をテーマに、ソフトウェア開発に関する論文発表とチュートリアルセッションが行われた。会場には例年を大きく上回る参加者が詰め掛け、立ち見が出るセッションもあった。

 発表は、「ソフトウェア要求」「人材育成」「レビュー&テスト」など多岐にわたったが、品質向上のためには上流工程の品質を高め、経営者とユーザーはITに関する知識の深化を、システム開発者は業務プロセスの理解とシステム要求を開発する能力を高める必要があるといった内容が多く聞かれた。

- 基調講演から

基調講演で「Q-Japan構想」について語る東京大学大学院工学系研究科教授の飯塚悦功氏
 初日の基調講演は、「Q-Japan構想〜品質立国日本再生に向けて〜」と題し、東京大学大学院工学系研究科教授の飯塚悦功氏が講演した。

 高度成長期に品質立国・日本を支えたのは、全員参加による“改善”だ。「全員参加」という点が小さいようで大きな意味がある。現在は経営ニーズが進展し、「ものの提供」「質と効率の追求」という段階を経て、「存在意義の追求」の段階に入っている。それに伴い、労働環境・労働意識の中で、人間性や労働、個、関与・役割に対する考え方が変化し、みんなで頑張ろうという時代ではなくなっている。

 時代は変わっても、成功する組織は「強い製品・サービス」を持っている。製品競争力を持つためには、顧客や経営環境の変化など「外に対する的確な対応ができること」「コアコンピタンスを認識しリソースを集中すること」「人材・人財」の3点が不可欠だ。経営環境が変化したいま、あらためて品質マネジメントの考察が必要になっている。

 「Q-Japan構想」では、時代が求める「精神構造の確立」「産業競争力」という視点での品質の考察、「社会技術」のレベル向上を図ろうとしている。産業競争力として注力すべき分野は、製造業での高付加価値製品の提供、組み込みソフトウェア開発競争力とサービス生産性の向上だ。また、年内の発行が予定される『JIS Q 9005 クオリティマネジメントシステム−持続可能な成長の指針』(現TR Q 0005)を踏まえ、組織が環境の変化に俊敏に適応し、組織の総合的なパフォーマンスを改善していく必要がある。そのための組織とは、金太郎あめのように、どこを切っても同じというのではなく、揺らぎがあった方が良い。つまり、時代が変われば違う才能を持つ人が成功するということだ、という。

 日本のソフトウェアは、情報システム構築、組み込みソフトウェア、ゲーム・アニメのドメインで世界一流になる力がある。組み込みソフトウェアは、ハードウェアとの組み合わせにおいて高信頼性、高品質が要求されるだけでなく、設計・現実に「擦り合わせ」が必要な製品分野。優位に立つためには、「中級の技術者・管理者を10万人養成する」といった数が重要ではないかと考えている。今後、製品がより複雑化するため、手軽にそして早く製品検証ができる試験場を作るべきではないか。その社会・産業インフラ整備を国家的規模で進める必要があるだろう、と締めくくった。

- Openthology(Open Enterprise Methodology)

 
「Openthologyのコンセプトと特徴」
講演: 株式会社豆蔵 取締役 萩本 順三氏
 
「要求開発におけるPDCAフレームワーク」
講演: 清水建設株式会社 情報システム部 情報コンサルティング・グループ システム開発課長 安井 昌男氏

 ソフトウェア要求のフレームワーク「Openthology」について、初日に株式会社豆蔵の萩本順三氏が、2日目に清水建設株式会社 情報システム部の安井昌男氏が講演した。

 要求開発の体系化を目指す有志団体「要求開発アライアンス」がまとめたOpenthologyは、「要求はあるものではなく、開発するものである」というコンセプトから生み出されたもの。現在は要求開発アライアンスのサイトからOpenthologyのコアとプラグイン(Ver.0.6)がダウンロードできる。

  関連リンク
  要求開発アライアンス

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 萩本氏は「ビジネスがデザインできないと、システムは作れない。ビジネスをモデルとして可視化することが、合意形成、追跡・説明可能性、および継続的改善にとって重要だ」と前置きし、「現在はBDA(Business Driven Architecture)コンセプトの上にOpenthology要求開発方法論(コア部分)、その上に要求開発ガイドライン(プラグイン部分)という構成となっている。プラグイン部分は時代とともに変わっていくもので、そこへ各社のビジネスモデリングが抜き差しできる仕組みだ。また、要求開発では、少しずつTo beのイメージを見せ評価する“変形V字モデル”が重要だ」と述べた。

 安井氏は要求開発における品質について説明した。「私案だが、要求開発フレームワークでは、準備、立案、構築、移行というフェイズに対し、計画(P)、仮説と検証(D、C)、対応(A)という内容がある。それぞれのシーンでやるべきことを書き出したが、これをプロセスキャビネットととらえ、全体最適の観点を持ち整理していく。例えば、2カ所で必要だった承認を1カ所にするなどといった業務フローの改善は、システムを導入するまでもないこと。そういったことは、すぐやることが大切」と話した。また、エンドユーザーが分かりやすいようにLFD(lane flow diagram)を利用した業務フロー図の書き方などを紹介した。

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- プロジェクトマネージャの「仮免許」制度

 
「プロジェクトマネジャの育成」
発表: 株式会社アイネス 研修センター 課長 佐藤 達男氏

「プロジェクトマネジャの育成」について発表する株式会社アイネス 研修センター 課長の佐藤達男氏
 「プロジェクトマネージャ育成において“自動車教習所”に着目した」というユニークな人材育成モデルを発表したのが、株式会社アイネス 研修センター 課長の佐藤達男氏。

 佐藤氏がプロジェクトマネージャ育成上の問題点を分析した結果、育成の環境、経験すべき仕事、プロジェクトマネージャの資質という3つの側面に集約されることが分かった。そこで、計画的に必要な経験をさせること、経験させる仕事、資質と結び付いている行動それぞれを「見える化」することが問題点の解決策になるという仮説を立てた。仮説のモデル化に当たり、自動車教習所の仕組みを応用した、プロジェクトマネージャ育成の環境を「プロジェクトマネジャ教習システム」、育成するツールを「教習科目」として体系化した。

 このシステムでは、現場で通用するプロジェクトマネージャ(ITSSレベル3〜4相当)を任命できることを目標にしている。構成は「学科(知識教習)」「演習(ワークショップ)」「実習(OJT)」で、それぞれ修了判定を行う。研修を受講しただけでは修了とせず、修得レベル基準に達している場合に修了者として認定し、プロジェクトマネージャ仮免許、本免許を交付する。期待される効果としては、実践的な育成環境によって実務と明確に区分することで教習生は教習に専念でき、また教習科目により指導・評価が標準化され、育成レベルのバラツキを最小限に抑えることが可能なことだという。今後の課題は、現場のプロジェクトマネージャ育成に対する意識を変革して、全社の共通認識によって組織的に取り組んでいくことだ。

 佐藤氏らの論文『プロジェクトマネジャの育成−プロジェクトマネジャの技術と資質を磨く新しい人材育成方法−』は、第24回シンポジウム優秀報文に選ばれた。

 このほか最優秀報文には株式会社東芝 ソフトウェア技術センター プロセス改善推進担当の飯田卓郎氏の論文『CMMISM 連続表現で組織に合った改善を実施するために−脱!レベル取得−』が選ばれた。

  関連リンク
  財団法人 日本科学技術連盟
  第24回 ソフトウェア品質シンポジウム


■要約
第24回ソフトウェア品質シンポジウムが9月8日・9日の2日間、西新宿の新宿NSビルで開催された。2日間のセッションから、印象に残ったものを紹介する。

基調講演は、東京大学大学院の飯塚悦功教授が「Q-Japan構想〜品質立国日本再生に向けて〜」と題して、「精神構造の確立」「産業競争力」という視点での品質の考察、「社会技術」のレベル向上を訴えた。日本のソフトウェアは、情報システム構築、組み込みソフトウェア、ゲーム・アニメのドメインで世界一流になる力があり、優位に立つには、社会・産業インフラ整備を国家的規模で進める必要があると締めくくった。

「プロジェクトマネージャ育成において“自動車教習所”に着目した」というユニークな人材育成モデルを発表したのが、アイネスの佐藤達男氏。プロジェクトマネージャ育成上の3つの問題点から、「教習システム」と「教習科目」を体系化。「学科」「演習」「実習」でそれぞれ修了判定を行うが、研修受講だけでは修了とせず、仮免許、本免許を分けて交付する。期待される効果としては、教習生は教習に専念でき、指導・評価が標準化されることで育成レベルのバラツキを最小限に抑えることが可能なことだという。


profile
生井 俊(いくい しゅん)
1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコー、都立高校教師を経て、現在、ライターとして活動中。著書に『インターネット・マーケティング・ハンドブック』(同友館、共著)『万有縁力』(プレジデント社、共著)。


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