データウェアハウス最前線(3)

「アプライアンスライク」な構成で導入コストを低減

吉村 哲樹
2010/11/29

MPPアーキテクチャを採用した大規模DWH

 Fast Track Data Warehouseは、このハブ&スポークの「スポーク」に位置する製品だ。では、中央の「ハブ」は、マイクロソフトではどのような製品でカバーするのだろうか? このニーズに応えるのが、同社が近々リリースする予定の「Microsoft SQL Server 2008 R2 Parallel Data Warehouse」(以下、Parallel Data Warehouse)だ。

 Parallel Data Warehouseは、MPP構成を採るマイクロソフトの新しい「アプライアンスライク」な製品だ。先述のハブ&スポークの中央に位置するEDWとしてはもちろんのこと、全データを集約する大規模EDWの構築も可能なだけの性能と拡張性を持つ製品だという。

 Parallel Data Warehouseの構造をごく簡単にいえば、SMP構成であるFast Track Data Warehouseを複数台束ねてMPPとしたものだ。Fast Track Data Warehouseと同じ構造になっているサーバを、1つのラックの中に10台格納し、さらにそれぞれのサーバと1対1で対応するストレージ装置を同じく10台格納する。各ストレージはそれぞれ対応するサーバが占有し、複数のサーバが共有することはない。いわゆる、「シェアードナッシング」アーキテクチャだ。また、ユーザーからの要求を受け付け、各サーバに処理を分散したり、各サーバの処理結果を集約してユーザーに返す役目を担う「コントロールノード」というサーバが、別途必要になる。

 先ほど同製品を「アプライアンスライク」な製品と紹介したが、Fast Track Data Warehouseと同様、Parallel Data Warehouseも基本的には汎用のハードウェアとSQL Server 2008 R2だけで構成してある。

 「サーバには、各メーカーの最もよく売れる価格帯にある製品を使っている。価格がこなれており、しかも技術革新のペースが速く、常に最新のプロセッサを搭載できるため、プロセッサの性能向上の恩恵を確実に受けることができる」(北川氏)

 ただし各サーバ間、そしてそれぞれのサーバとコントロールノードを接続するネットワークには超高速インターコネクト機構である「InfiniBand」を利用している。この点だけ唯一、若干高価なハードウェアと使っていると言えるだろう。これは主に、各ノード間でデータを再配置する際の処理を高速化するための仕組みであり、そのシステム構成やアルゴリズムは旧データアレグロの技術を利用している。

 各サーバはおよそ2.5〜3Tbytesの容量のディスクを保持しており、全体では10台のサーバで大体25〜30Tbytesの容量を確保できる。さらに、ラックを最大で4台まで増やすことができるので、最大構成では約150Tbytes程度までスケールアウト可能だ。他社のハイエンド製品の中には、Pbytes級のストレージを扱えるという製品もあるが、Parallel Data Warehouseはそもそもそうした製品とはターゲットが異なると北川氏は言う。

Microsoft
特殊なハードウェアを使う必要がない点がマイクロソフトのDWHアプライアンスの特徴であると語る北川氏

 「マイクロソフトの調査では、Pbytes級のDWHを必要とする企業は、日本国内にはほんの数社しかいないという結果が出ている。もしそうした製品をどうしても必要とするユーザーは、他社の製品で対応してもらえればいい。われわれの製品は、もっと幅広いお客様に、低コストで分析の道具を提供することを目的にしている」(北川氏)

 ただし、性能面で劣っているわけでは決してないと同氏は強調する。

 「各ノードは汎用サーバ機そのものなので、特殊なハードウェアやチップを使わずにプロセッサだけですべての処理をまかなっている。そのため、個々のサーバ1台だけを見れば、専用ハードウェアに比べて性能は劣るかもしれない。しかし、同じ価格帯の専用ハードウェアが3台〜6台程度のサーバしか搭載していないのに対して、Parallel Data Warehouseは最低でも10台のサーバを搭載する。しかも各サーバには、インテル製の最新プロセッサを使っている。ディスク容量当たりの価格性能比では、絶対に負けない自信がある」(北川氏)

全方位で展開していくアプライアンス戦略

 同社はFast Track Data Warehouseに加え、Parallel Data Warehouseを製品ラインアップに加えることで、小規模から大規模まで広範なDWHのニーズに応えていく予定だ。しかも、アプライアンス製品のポートフォリオは今後も拡充していく予定だという。

 DWHだけではなく、OLTP(オンライントランザクション処理)に最適化したアプライアンス製品も投入する予定があるという。DWHアプライアンスも、Fast Track Data Warehouseよりもさらに小規模な、スタートアップ規模のDWHの構築に適した製品や、フロントでエンドユーザーが簡単にBIシステムを構築するための製品のリリースも予定しているそうだ。

 「今後マイクロソフトでは、DWHアプライアンス製品を全方位で展開していく予定だが、あくまで汎用ハードウェアで製品を構成するという“アプライアンスライク”な方向は今後も変わらない」(北川氏)

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Index
「アプライアンスライク」な構成で導入コストを低減
Page 1
汎用ハードウェアとSQL Server 2008で構成
あらゆる分析ニーズに対応する「ハブ&スポーク」構成
→ Page 2
MPPアーキテクチャを採用した大規模DWH
全方位で展開していくアプライアンス戦略
【筆者プロフィール】
吉村 哲樹(よしむら てつき) 早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。 その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。



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