アーキテクチャ・ジャーナル 環境に優しいインフラストラクチャ設計 Lewis Curtis2009/09/08 |
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■システム全体の確認
各階層の各レイヤーを注意深く検討する必要があるとはいえ、アーキテクチャモデルの全体を見なければ、ターゲットとして選択した環境影響の評価指標にどれほどの成果が表れるかを見極めることはできません(図 9)。
図 9: システムの全体図 |
システムの全体をチェックするときには、以下の質問を考慮して、アーキテクチャの設計がグリーン化の目標を達成できるかどうか判断します。
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予想される負荷条件において、ノードごと、または階層ごとにどれほどのエネルギーが消費されるか。
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環境ライフ サイクル アセスメントに関する企業のポリシーにしたがって、アーキテクチャを特定の環境評価指標に換算できるか。
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このアーキテクチャは、データ センターの基幹システムやビジネス運用アクティビティの消費エネルギーまた環境影響にどのような効果をもたらすか。
アーキテクトは、しばしばあまりにも多くの時間を割いて回答ベースのパターンに取り組んでいます。回答ベース パターンの基本的な方針は、「この特定の状況下では、これを行う」というものです。アーキテクチャに関するそれぞれの回答自体は有効なものであっても、それらの回答パターンを積み重ねて完成されるソリューションは、使用に適さなかったり、安定性に欠けていたりする場合があります。
そのため、多くのアーキテクトは質問ベースのパターンを活用して、アーキテクチャに関する意思決定の影響を総合的に見極めるようになっています。では、環境影響を把握しようと思えば、どのような質問が常に有効といえるでしょうか。環境影響の分析は今後ますます重要となるため、質問ベースの分析テクニックはアーキテクトにとって欠かせないものとなるでしょう(質問ベースのアーキテクチャ影響分析フレームワークの詳細については、「参考資料」にリストされている「パースペクティブベース アーキテクチャ手法の参考資料」を参照してください)。
■環境に優しいアーキテクチャ設計のベスト プラクティス
環境に優しいアーキテクチャを設計するには、さまざまな複雑な要素を整理しなければなりません。これは簡単な作業ではありません。そこで、複雑さの度合いや規模に関係なくアーキテクチャの設計を検討する際に活用できるリストを以下のように絞り込みました。
以下のベスト プラクティスは、この記事で考察してきたガイドラインをまとめたものです。
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環境に関するビジネス目標を定める。規制機関、ビジネス、一般の人々、環境など、誰または何を目標のターゲットとするのか(あるいはターゲットから外すのか)を決定します。
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エネルギーの消費と環境への影響を理解する。データ センターのどの部分でエネルギーが消費されているのか、データ センターが周囲の環境にどのような影響を与えているのかを把握します。
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環境モニタリング戦略を策定する。環境モニタリングを使用して、消費量や出力を測定し、評価指標を策定します。また、対象とする(あるいは無視する)指標を定めます。
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システム SKU のセットを明確に設定する。各階層領域でシステム SKU のセットを明確に設定し、エネルギー効率と環境影響の基準を適用します。
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変更および構成の管理プロセスにグリーン化対策を組み込む。データ センターの変更管理プロセスおよび構成管理プロセスに、グリーン化対策を組み込みます。多くの IT 企業には、変更と構成の管理を盛り込んだプロセス運用モデルがあります。これらのプロセス モデルの目的は、新しいテクノロジの採用時に適切な検証プロセス(変更管理)を実施すること、また複雑さを緩和するために標準化を進める(構成管理)ことです。強力な運用プロセス モデルは、セキュリティの脆弱性を改善し、新しいテクノロジ導入の影響を見極めるのに役立ってきました。IT 企業が発展を遂げるには、今、これらの運用プロセスにエネルギー消費と環境影響/ 差別化の対策を組み込んでおく必要があります。
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環境影響の基準をアーキテクチャの処理能力計画モデルに適用する。当面の成功を得るのは、難しいことではありません。しかし、エネルギーの消費とGHG の影響を削減する継続的な戦略を推進することは、決して容易ではありません。まず問題の核心部分から着手する必要があります。アーキテクチャの理能力を計画する段階で過剰な設備を排除すれば、むやみに拡大して、大量に GHG を排出しエネルギーを消費することを防げます。
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インフラストラクチャの各階層の細部を最適化する。インフラストラクチャの各階層の細部にも注意を払い、基幹システムのエネルギー消費量と環境への影響を削減します。
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アーキテクチャの複雑さを緩和する。階層の数を減らし、コンポーネントの依存関係を単純化して、システムの過剰な使用を抑えます。また、統合テクニックを活用して、階層システムをまとめます。
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可能な場合は、環境転移を活用する。転移を使用すると、外部のクラウド プロバイダーが提供するソフトウェアやサービスを活用して、企業の GHG 排出量やエネルギー消費量を大幅に削減できます。その際には、環境影響に関する適切なサービス レベル契約(SLA)が結ばれていることを確認する必要があります。
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包括的な設計アプローチを使用する。アーキテクチャに対して包括的な設計アプローチを使用します。階層ごとに環境に影響を及ぼす要素を注意深く調査するとともに、ソリューション全体を支える外部システムの環境影響についても考慮する必要があります。そのためには、テクノロジ、プロセス、戦略を包含する行動計画を立てます。
環境への影響およびエネルギー消費量は、瞬く間に IT アーキテクチャ設計を考慮するうえで無視できないシステム品質となっています。したがって、アーキテクトはこの新しいシステム品質に対する理解を深め、成功事例をドキュメント化して、環境に優しいソリューションの今後の分析や設計に役立てる必要があります。
環境目標にピントを合わせつつ、厳密な設計基準によってインフラストラクチャを系統的に分析することで、アーキテクトは環境に優しい IT プロジェクトをより確実かつ効果的に成功へと導くことができます。
■参考資料
●パースペクティブベース アーキテクチャ手法の参考資料
著者について Lewis Curtis は、マイクロソフトの DPE プラットフォーム アーキテクチャ チームの主席アーキテクトであり、次世代エンタープライズ インフラストラクチャ アーキテクチャおよびアーキテクチャのグリーン化の問題に取り組んでいます。講演者また執筆者として活躍する Lewis は、いくつかのジャーナル(『アーキテクチャ ジャーナル』、『IEEE ITPro』など)に寄稿し、ベスト プラクティスや IT アーキテクトが直面する課題について研究しています。初代マイクロソフト認定アーキテクト(MCA)の一員として、顧問委員会の発足当初からシニア アーキテクチャ リーダーのトレーニングと育成に力を注いできました。また、パースペクティブ ベース アーキテクチャ手法およびシステム品質による影響分析の発案者として、アーキテクトが活用できる質問ベース パターンを推奨しています。家庭においては、妻と 2 匹のセントバーナードと過ごす時間を大切にしています。あまり知られていないことですが、IT 業界に入るまではプロのサックス奏者として活躍し、いくつかのバンド(ジャズとロック)のマネージャーをしていました。Lewis のブログは、「Thoughts from the raised floor. Lewis Curtis Blog site」で公開されています。 |
INDEX | ||
[アーキテクチャ・ジャーナル] | ||
環境に優しいインフラストラクチャ設計 | ||
1.ビジネス目標の認識/エネルギー消費と環境影響 | ||
2.包括的な設計アプローチ/インフラストラクチャ環境の分割 | ||
3.プレゼンテーション層/ビジネス層/情報リソース層の最適化 | ||
4.環境に優しいアーキテクチャ設計のベスト・プラクティス | ||
「アーキテクチャ・ジャーナル」 |
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