.NET開発者中心 厳選ブログ記事 LINQの仕組み&遅延評価の正しい基礎知識 2011/08/10 |
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本稿は、ブログ記事「neue cc: LINQの仕組みと遅延評価の基礎知識」に簡単な校正・加筆を行ったうえで転載したものです。第2回のブロガー「尾上 雅則 氏」によるお勧めブログ記事です。 |
本稿では、LINQについて基礎から理解することを目的に、その仕組みと遅延評価について最初から解説します(※「何をもって最初/基礎とするか」は人により異なると思いますが、本稿の解説はあくまで、わたしなりの基準における基礎です)。
なお、ここではLINQ to ObjectsとIEnumerable<T>オブジェクトの連鎖についてのみ扱います。すべてのコード例はC#で記述します。
■メソッド・チェーン != return this
単純なコードで、IEnumerable<T>オブジェクトに対するLINQ to Objectsのメソッド・チェーンの例を示します。
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IEnumerable<T>オブジェクトに対するLINQ to Objects(メソッド構文)のメソッド・チェーンの例 |
「1〜10をそれぞれ二乗した10個の数値のうちの、先頭の5つを出力する」という、それだけのコードです。
LINQ文をドット(.)でつなげていると、実体が隠れてしまいがちなので、下記のように分解します。
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LINQ to Objects(メソッド構文)のメソッド・チェーンの分解 |
変数だらけでゴチャゴチャしているので、余計に分かりにくい。よく分からないものは、図にしましょう。
分解されたLINQ to Objects(メソッド構文)と各変数の図 |
こうなっています。中に、1つ前のものを内包している新しいオブジェクトを返しています。
「メソッド・チェーン」というと、いわゆるビルダ的な、もしくはjQueryのような仕組みを想像してしまうのではないでしょうか? 例えば、チェーンごとに内部の状態が変化して、それを「return this」として返却するか、もしくは完全に新しいオブジェクトを生成して返す(例えば、「array.filter.map」したら「.filter」のチェーンで完全に新しい配列が生成され、それが戻り値として返り、「.map」のチェーンでも同じように別の新規オブジェクトが作成されるなど)という仕組みを想像してしまう方も少なくないでしょうが、実はそのどちらでもありません。
LINQのメソッド・チェーンは、元の包み(=オブジェクト)を中にしまい込んで新しい包みを返します。この仕組みは、次の画面のようにVisual Studioのデバッガで確認できます。
Visual Studioのデバッガで確認できる、LINQのメソッド・チェーンの仕組み |
特に、各変数の型(=各メソッドの戻り値)と、各変数に所属するsourceフィールド変数の型を確認してください。 |
Takeメソッドの戻り値であるTakeIterator型のオブジェクトは、そのフィールド変数「source」として、中にSelectメソッドの戻り値であるWhereSelectEnumerableIterator型のオブジェクトを抱えており、Selectメソッドの戻り値は、Rangeメソッドの戻り値であるRangeIterator型のオブジェクトを、中に抱えています。このような連鎖が成り立っていることが、上の画面で示したデバッガにより、しっかりと確認できました。
余談ですが、この結果で興味深いのは、Selectメソッドの戻り値の型が「WhereSelectEnumerableIterator」となっていて、名前のとおり、WhereとSelectが統合されていることです。これは、「Where」->「Select」が頻出パターンなので、それらを統合することでパフォーマンスを向上させるためでしょう。
■遅延評価と実行
xxxEnumerable変数(=前述の「selectEnumerable」/「takeEnumerable」などのIEnumerable<T>オブジェクト)の中に包まれている状態では、まだ何も実行は開始されていません。そう、LINQは遅延評価されます!
このままWhereメソッドやSkipメソッドをつないでも、新たなxxxEnumerable変数で包んで返されるだけで、クエリの実行はされません。「では、いつ実行されるか?」といえば、IEnumerable<T>オブジェクト以外の、何らかの結果を要求したときです。それは、例えばToArrayメソッドであったり、Maxメソッドであったり、foreach文であったりが、呼び出されたときです。具体的には、メソッドやforeach文がIEnumerable<T>オブジェクトのGetEnumeratorメソッドを呼ぶときです。上記に示したコードでは、foreach文の時点でクエリ処理が実行されます。
foreach文を実行したときのLINQによるクエリ実行の流れを、図で見ると、次のようになります。
foreach文を実行したとき(=遅延評価されたとき)の、LINQ実行の流れ |
●上の図の左端:
まず最初は、最外周のtakeEnumerable変数に対してGetEnumeratorメソッドを実行し、IEnumerator<T>オブジェクトを取り出します。そして、取り出したIEnumerator<T>オブジェクトに対してMoveNextメソッド(=列挙子が持つ、次の要素に移動するメソッド)を実行すると、そのメソッド内ではまた、中に抱えたIEnumerable<T>オブジェクトに対してGetEnumeratorメソッド実行でIEnumerator<T>オブジェクトを取り出し……、という連鎖が、大本(この場合はrangeEnumerable変数)に届くまで続きます。
●上の図の中央:
大本まで届いたら、いよいよMoveNextメソッドの結果(=true:移動できたか、false:移動できなかったか)が返されます。trueの場合は、通常は即座に現在値(=Currentプロパティの値)の取得も行うので、Currentプロパティの値が大本から最外周まで降りていくイメージとなります。
●上の図の右端:
あとは、どこかのMoveNextメソッドがfalseを返してくるまで、上記の流れを繰り返します。
今回は、Rangeオブジェクトが10個の数値を出力し、Takeメソッドがそこから先頭の5個を出力します(このため、Rangeオブジェクトが生成する数値は5個分が余ります)。Takeメソッドは、列挙を途中で打ち切るわけですが、6回目のMoveNextメソッドの戻り値でfalseを流して、クエリの実行を終了させます。SumメソッドやCountメソッドなど、戻り値として値(=IEnumerable<T>オブジェクト以外の、何らかの結果)を返すものは、falseが届いたら、そのメソッドの処理結果を返します。しかし、今回はforeach文なので、「void」、つまり何も返却なしで終了します。
■イテレータの実装
より理解を深めるため、以下ではLINQのクエリ動作の実態である「イテレータ」を実装します。
下記のコード例は、0〜10までの数値を返すだけの、単純なイテレータの実装例です。
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LINQのクエリ動作の実態であるイテレータの実装例 |
上記のイテレータを使うときは、例えば下記のようなコードになるでしょう。
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上記のイテレータの利用例 |
IEnumerator<T>インターフェイスの実装ですが、ここまで見てきたとおり、中核となるのはMoveNextメソッドとCurrentプロパティです。といっても、Currentプロパティはキャッシュした値を中継するだけなので、実質的に実装しなければならないのはMoveNextメソッドだけ(場合により、Disposeメソッドも実装が必要です)。
MoveNextメソッドは、見たとおりに1行で記述された超単純なコード内容です。具体的には、「10」を超えるまでインクリメントされて(戻り値として)「true」を返し、「10」を超えたら「false」を返します。これだと、戻り値が「false」になるときにMoveNextメソッドを呼んだら、呼び出すたびにCurrentプロパティの値がどんどん増加していってしまいます。こんないい加減な実装内容で大丈夫なのか、というと、全然問題ありません。なぜなら、それは利用側の問題であり、実装側が気にする必要はないからです。
MoveNextメソッドを呼び出す前のCurrentプロパティの値は保証されていないので使うな、であり、MoveNextメソッドが「false」を返した後の、Currentプロパティの値は保証されてないので使うな、です。これは、(IEnumerator<T>インターフェイスの実装を直接、利用するうえで)大事なお約束です。
このお約束を守れない人は、生イテレータを使うべからず。LINQのクエリ演算子やforeach文は、そんなお約束を考えないで済むようになっているので、それらを使いましょう。生イテレータを取得したら、負けです(拡張メソッド定義時は除く、つまりライブラリ的な局面以外では避けましょう)。
ちなみに、String型オブジェクトのイテレータは、列挙前/列挙後のCurrentプロパティへのアクセスで例外が発生します。また、List<T>オブジェクトは、列挙前のCurrentプロパティ値は「0」、列挙後も「0」にリセットされ、Enumerable.Rangeメソッドで取得できるオブジェクトでは、列挙後は最後の値が返ります。このように、イテレータの挙動はバラバラです。
実装側が守らなければならないルールは、MoveNextメソッドが一度「false」を返したら、以後はずっと「false」を返し続けること。
その観点で、このZeroToTenIteratorクラスの実装内容を見直すと、(先ほどは「全然問題ない」と書きましたが)実のところ正確には全然ダメです。例えば、MoveNextメソッドがint.MaxValue回呼び出されると、currentフィールド変数の値がオーバーフローしてint.MinValueになって、つまりはMoveNextメソッドの結果も「false」から「true」に変わってしまいます。実装内容が腐っているわけで、本来なら、もっと洗練させるべきです。
今回はイテレータを理解していただくために実装しましたが、今どきはイテレータの手実装なんて、する必要はありません! シンプルなものならばLINQの組み合わせで実現できますし、そうでないものは「yield return」を使えばいいので。手実装しなければならないシチュエーションは、ほとんどないでしょう。
■まとめ
以上、本稿で説明したのは、
- 「LINQのメソッド・チェーンは、『return this』ではなくて、以前のオブジェクトを包含した新しいオブジェクトを返している」
- 「クエリ結果は、配列的なイメージで扱えるけれど、実体はストリームに近い」
- 「Visual Studioのデバッガは素晴らしい」
- 「生イテレータは禁止」
の4点でした。
LINQ to ObjectsのJavaScript移植である「linq.js」も同じ仕組みでクエリ処理を実現しているので、そちらのコードの方がブラック・ボックスでなく、また、素直に書いているので、理解するには分かりやすい面もあるかもしれません。
ところで、「基礎からのLINQ」といえば、紹介したいシリーズが1つあります。
英国ロンドンのGoogle所属の開発者で、かつMicrosoft MVPで、さらに『C# in Depth』の著者で、英語圏で有名な技術系Q&Aサイト「Stack Overflow」ですさまじい回答量を誇るJon Skeet氏が、Blogで「Reimplementing LINQ to Objects(英語)」と称して、これまたすさまじい勢いでLINQの再実装&超詳細な解説を行っているので必見です。
LINQは、今後「ますます」重要になるので、しっかり土台を固めて、未来へ向かおう!
【筆者プロフィール】 Microsoft MVP for Visual C#。特にLINQとその周辺技術(Reactive Extensionsなど)が好みで追いかけている。LINQ好きが高じてJavaScriptに移植したライブラリ「linq.js」も作成、公開中。
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