特集:.NETメディア改革論

「.NET開発者中心」は何を目指すのか?

デジタルアドバンテージ 一色 政彦
2009/09/10
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 本日より「VB業務アプリケーション開発研究室」(以降、VB研)がリニューアルした。その名も「.NET開発者中心」だ。

 中心? 中国のショッピング・センター(Center)みたいな名前だなと思った読者は多いだろう。なにせ編集部も変な名前だと思っている。実はこの名前に決まるまでには、さまざまな紆余曲折(うよきょくせつ)があったのだ。

 本稿では、新コーナー設立を記念し、編集部や運営スタッフがどのように考え、どのような思いから新コーナーを立ち上げるに至ったのか、.NET開発者中心がどのようなコンテンツを提供していく予定なのかを説明する。

「.NET開発者中心」というメディア改革が必要な理由

.NETメディアはこれまで、本当に開発者の役に立ってきたのか?

 Insider.NETおよびVB研はこれまで、良き情報源として本当に.NET開発者の役に立ってきたのだろうか。このことに関して、「どうしても理想と現実のはざまでジレンマに陥ってしまう」と感じてきた。

 理想的には、.NET開発の現場で役立つ「身近で、現実的で、実践的な情報」をできるだけ多く提供したいという思いがある。しかし、ある読者のニーズに本当にドンピシャで応える「身近で、現実的で、実践的な情報」が仮にあったとして、それはおそらく、別の多くの読者にとっては、あまり「身近で、現実的で、実践的な情報」ではない可能性が高い。あまりに一読者向けに専門化され、限定された情報だからだ。そのような情報(記事)は、ごく一部の読者に高く評価される一方で、それ以外の読者にはあまり支持されないため、多くの読者には読んでいただけない記事になってしまう。結果、Webメディアでは、記事のPV(=ページ・ビュー:ページ参照数)が低迷することになる。

 @ITを含む現在のWebメディアで、PVは非常に重要な評価指標の1つである。収益のほとんどを広告収入に依存するWebメディアは、多くの読者に読んでいただけなければ成立しえない。メディアに注目している読者のアイボール(眼)の数は、そのメディアの影響力を端的に表す値だ。広告主から見たメディアの価値は、メディアの影響力にほかならない。読者のアイボールを失えば、影響力は下がり、広告価値も下がる。

 多くのPVを獲得できる記事は、その記事に関心を持つ読者を多く獲得できる記事である。従ってPVを狙えば狙うほど、記事は最大公約数化していく。私たちの例で具体的にいえば、入門記事や、できるだけ普遍的な記事ほど、一般的には読者数を獲得しやすい。

 しかしこうした最大公約数的な記事は、個々の読者の「かゆいところに手が届く」記事からはかけ離れていく。私たちが理想とする.NET開発の現場で役立つ「身近で、現実的で、実践的な情報」から乖離(かいり)してしまう。PVは欲しいが、理想とする情報も提供したいというアンビバレント(=二律背反)な状態に陥るのだ。

これまでのメディア戦略の振り返り

 これまで、@IT/Insider.NETおよびVB研では、このような課題に対して、多くの人に関係する普遍的な記事(例えば「次期Visual Studio 2010と.NET Framework 4.0の新機能」など)を軸にすることでPVを稼ぎ、より高度で読者対象が限定的な記事(例えば「アプリケーション・アーキテクチャ・ガイド2.0解説」など)をその合間に少しだけ提供するという手法を採ってきた。つまり、PVが落ちすぎないようにバランスを取りながら、記事企画を考えてきたのだ。

 しかしその手法をいつまでも続けるのは難しくなってきていると感じている。というのも、昨今の手軽で専門的なWebメディア(例えばInfoQ Japan)の登場や、技術系ブログ(例えば米国マイクロソフトのMSDN Blogs)の充実化、つぶやきによる気軽な情報交換(例えばTwitter)などで、より具体的で専門的な情報が得られることが多くなってきているからだ。これらすべてに対抗できるだけの膨大な専門情報を提供することは不可能であるし、だからといって入門記事ばかりにフォーカスすれば、前述の理想からはどんどんかけ離れて行ってしまう。

 いま、まさに、.NETメディアとして何らかの改革が求められている。編集部はそう感じている。

.NETメディアのロング・テール理論

ロング・テール理論とは?

 例えば、読者は書店を営んでいるとしよう。店には多数の本が在庫されており、毎日その一部が売れていく。そこで売り上げを集計するために、縦軸を販売部数として、多く売れた順に本のタイトルを横に並べてグラフにするとする。通常、このグラフは直線的ではなく、次のような形になる。

ロング・テール理論のグラフ

 一部のベストセラー・タイトルは集中的に売れるが、そうでないタイトルはわずかしか売れないからだ。このようなグラフを「ロング・テール」と呼ぶ。ロング・テール(=長い尾)とは、グラフの左端が高く積み上がって恐竜の頭(=ヘッド)のようになり、右端の方は平たく長い横ばいで恐竜の長い尾のようになることだ。

 ヘッド部分のベストセラー・タイトルはたくさん売れるから、多少手間をかけて陳列しても、もうけが出る。対してテール部分のタイトルは、それぞれ少ししか売れないから、手間などかけたらすぐ赤字だ。たくさん売れる花形商品をどれだけ売るか。従来型のビジネスは、このグラフのヘッドに注目することが多かった。

 しかしインターネットとそれを支えるコンピューティング技術は、コストをかけずとも「テール商品」をいつでも販売可能な状態で維持し、リクエストがあれば売れるシステムを構築可能にした。通常、ロング・テール理論を語るときには、本の通販を営んでいる「Amazon.com」が例として出される。ロング・テール理論によれば、この長い尾の部分(=あまり売れない商品)であっても、低コストの販売システムを確立し、売り上げを積み上げることができれば、結果的に莫大な利益を獲得できるとされる。つまり、Amazon.comはこの長い尾から多大な収益を得ているというわけだ。

 今回のInsider .NET/VB研の議論において、参照数(PV)を縦軸として、参照数(PV)順に記事のタイトルを横軸に並べると、このロング・テール理論のグラフと同じような形になり、ヘッドの方に普遍的なテーマの記事タイトルが集まり、右側のロング・テールの部分に専門的なテーマの記事タイトルが多くなるだろうと予想される。つまり、このロング・テール理論になぞると、これまでのInsider.NET/VB研が意識してきた記事領域は、主にロング・テール理論でいうヘッド部分だったといえる。いままでよりも積極的に、右側のロング・テール部分の情報を提供できるようにするにはどうすればよいだろうか。

ロング・テール部分の情報を提供するには?

 ロング・テール型の情報は、それを必要とする一部の開発者に役立つだろう。だからといって、メイン・ストリーム(=ヘッド部分)の情報が不要になったわけではない。上質なメイン・ストリームの情報を提供することは、依然としてInsider.NET/VB研の使命の1つだと思う。しかし、人的リソースや予算、公開枠が制限される中で、いままでの作業はそのままに、新たにロング・テール型情報に向けて工数を割くことは困難である。残念ながら、ロング・テールをAmazonのように収益化する仕組みもいまはない。

 検討の結果、私たちが出した結論は、インターネットの双方向性を生かして読者参加の機能をサイトに組み込んで、私たちがカバーできないロング・テール部分については、読者にご協力いただいてカバーできないか、ということだった。つまり、編集部は従来同様メイン・ストリーム記事の提供に注力しながら、読者の協力を仰ぐことで、ロング・テール型情報についても提供できるようにしたいと考えたのである。

 「編集部によるメイン・ストリーム型情報」と「読者によるロング・テール型情報」。この両輪をそろえることで、.NETメディアInsider .NET/VB研はより開発者に役立つ情報共有コミュニティに進化できるのではないか。次のページでは、このうち、ロング・テール型情報の実現方法についてより深く考察していく。メイン・ストリーム型情報については、本稿最終ページで説明する。


 INDEX
  特集:.NETメディア改革論 
  「.NET開発者中心」は何を目指すのか?
  1.メディア改革が必要な理由/.NETメディアのロング・テール理論
    2..NET開発者「中心」という名称の由来/ロング・テール型情報
    3.メイン・ストリーム型情報/セミナー「.NET中心会議」


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