特集:デビッド・チャペル氏への特設インタビュー

クラウドとWindows Azureの“もやもや”解消!

デジタルアドバンテージ 一色 政彦
2009/11/10
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Windows Azureに向くアプリケーションとは?

―― 先ほどの「Windows Azureの経済的なメリット」に対する回答の中にも少し出てきましたが、やはりBtoBの業務系アプリケーションよりも、BtoCのコンシューマ系アプリケーション(例えばmixi)の方が、Windows Azureに向いていると考えてよいでしょうか?

デビッド 確かにそうです。例えばもし次世代FacebookのようなWeb 2.0型のアプリケーションを開発したいなら、Windows Azureは良い選択です。

 ちなみに、クラウドに向くアプリケーションの例については、パネル・ディスカッションでもお話しします(詳しくは「特集:アーキテクトS+Sサミット・レポート」の記事を参照)。

―― 逆にいえば、業務系アプリケーションにWindows Azureはあまり向いていないということでしょうか?

デビッド 先ほどのエンタープライズ・アプリケーションと同じ話になりますが、「既存の業務系アプリケーションすべてを何も変更せずにクラウドの中に移行して、マイクロソフトに運用を任せ、お金を節約しよう」という考えなら、Windows Azureは向いていません。少なくとも現時点では、Windows Azureをそのような使い方で考えるべきではありません。

―― では、業務系アプリケーションをクラウドで使いたい場合、例えばAmazon EC2なら大丈夫でしょうか?

デビッド それは可能かもしれません。技術的に見て、Windows AzureとAmazon EC2の重要な違いは、ユーザー権限のみの提供か、管理者権限が提供されるかということです。今日の多くのアプリケーションは、管理者権限での実行を想定しています。しかし現時点のWindows Azureでは、管理者権限が必要なアプリケーションは実行できません。マイクロソフトは、いずれWindows Azureでも管理者権限が利用できるようにするといっていますが、取りあえずWindows Azureの初版では利用できません。

 ちなみにわたしの想像では、アマゾンに同様の質問をしたら、「安くなるわけではないので、そういったシナリオで使われることは想定していない」と、わたしと同じように答えるのではないかという気がします。

 ここで1つ、とある大企業の事例をお話ししましょう。その企業はITアウトソーシング(=情報システム関連業務の外部委託)系のサービスを提供していて、「何がITコストか」を熟知しており、実際、自社のデータセンターを非常に低コストで運用できるように実装しています。その企業の従業員いわく、ビジネス・アプリケーションを開発して、クラウド・プラットフォーム上に移行してみたが、まったく安くなく、かえってコストがかさんだ。「なぜわざわざクラウドの中に移行する必要があるのか?!」と話していました。

 やはり現時点では、「クラウドの中へ移行することで、コスト削減が行える」という想定はすべきではありません。

クラウド・プラットフォーム業界におけるWindows Azureの立ち位置は?

―― マイクロソフトはWindows Azureのエンタープライズ用途での認証システムとして、次期AD FS v2(Active Directoryフェデレーション・サービス・バージョン2。コード名:“Geneva”)を開発中です。この製品を使えば、企業内のActive DirectoryとクラウドのID連携(=IDフェデレーション)が可能になります。つまり、Windows Azure上のアプリケーションの認証をActive DirectoryのIDで行えるようになるわけです。

 マイクロソフトが「次期AD FSでエンタープライズ領域をカバーしています」と宣伝することによって、特にGoogle App Engineなどのクラウド・プラットフォームとの比較において、人々に「Windows Azureはエンタープライズ寄りのクラウド・プラットフォームだ」という強い印象を与えていないでしょうか。Google App Engineはコンシューマ向けのWebアプリケーションに向いていて、Windows Azureはエンタープライズ向けのWebアプリケーションに向いていると、単純に判断されるケースがよくある気がしています。ほかのクラウド・プラットフォームと比べたとき、Windows Azureの立ち位置が見えにくいと感じるのです。

デビッド Google App Engineは、まずPython言語で開発できるようにしたことから考えても、明らかにWeb 2.0型のアプリケーションをターゲットにしていますね。もちろんWindows AzureもWeb 2.0型のアプリケーションを.NET言語やPHP言語で開発できます。しかしWindows Azureはそれだけでなく、もっと適用範囲が広いのです。Windows Azureの解決領域は、Google App Engineの解決領域の上位集合(Superset)に当たります。

―― ほかのクラウド・プラットフォームとの比較において、Windows Azureは上位集合的な特徴を持つクラウド・プラットフォームとしてとらえればいいわけですね。

Windows Azureは米国でも盛り上がっているのか?

―― ところで、米国の開発者はWindows Azureをどのように受け止めているのでしょうか?

デビッド 日本でもそうだと思いますが、Windows Azureは米国の開発者の間でも盛り上がっています。Windows Azureを含めたクラウド・コンピューティングは、Amazon EC2、Google App Engine、セールスフォース・ドットコムのForce.comといった各種ベンダが取り組む、業界全体の変革です。わたしが思うに、この変革は、われわれがどのようにコンピューティングするかという本質的な変化です。この新潮流は普通の現象ではありません。何か大きなことが起こっているのです。

 米国で働くかなり多くのソフトウェア開発者は、わたしと同じように感じているようです。先週はヨーロッパのパリ、ロンドン、ミュンヘンに滞在しましたが、ヨーロッパの開発者も同じように感じていました。

 日本の事情に詳しくないので比較はできませんが、わたしのこれまでの経験でいえば、日本/西欧/米国は技術的な関心が非常に似ていますので、日本で関心が高いことは、西欧や米国でも同じように関心が高いと思います。

クラウド利用の普及により、IT Proは仕事を失ってしまうのではないか?

―― クラウド・コンピューティングに何か大きなものを感じる一方で、不安もあります。クラウド・コンピューティングの時代が今後数年のうちに到来するとして、開発者はそれでも大した問題はないかもしれませんが、システムの運用・管理(SQL ServerのインストールやWindowsサーバへのパッチ適用など)を担うIT Pro(ITプロフェッショナル)は仕事を失ってしまうのではないでしょうか?

デビッド わたしも、そうなると推測します。繰り返しになりますが、もちろんすべてがクラウド・コンピューティングに移行するわけではありません。移行しないにしても、明らかに今後20年ぐらいは、オンプレミスで作業するIT Proの需要は減り続けるだろうと思います。

 しかしながら、これは悪いことではありません。たとえ新技術がどんなにIT Proの仕事を減らすとしても、それは「技術」において自然なことです。すべての技術は進歩し、いくつかの仕事を一掃していくのですから。例えば「自動化」という技術が進歩すればどうなるかを考えてみてください。

 IT Proの仕事は、これまでも少なからず変化してきました。だからこそ、そのような未来も想定すべきです。IT Proという人材は、より役に立ち、より効果的な方向で活用されるようになると思います。そのとき、IT Proだった人たちは再トレーニングを受け、新しいことを覚えていかなければなりません。IT Proの皆さん、21世紀へようこそ。

―― 恐れずに、果敢にクラウド・コンピューティングに取り組みたい気持ちになってきました。

 それでは続いて、実際にWindows Azure Platformを使うと想定して、より技術的な内容に話題を移していきたいと思います。


 INDEX
  [特集] デビッド・チャペル氏への特設インタビュー
  クラウドとWindows Azureの“もやもや”解消!
    1.クラウド時代は来るのか?/Windows Azureの経済的なメリットは?
  2.Windows Azure向きアプリとは?/米国事情は?/IT Proは仕事を失う?
    3.既存システム移行時の問題は?/RDBか? Key-Valueストアか?
    4.SOAPか? RESTか?/MapReduceは必要なのか?/開発者へのアドバイス

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