特集
Windows Azure Platformの新機能

クラウドの本命となるか? 進化するWindows Azure

デジタルアドバンテージ 一色 政彦
2009/12/11
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クラウドとオンプレミスの接続

 まず、クラウドとオンプレミス、つまりWindows AzureとWindows Serverを連携させる接続性のカテゴリとして、マイクロソフトは以下の4つのカテゴリを取り上げた。

  • データ・サービス
  • サービス・バス
  • アクセス・コントロール・サービス
  • “Project Sydney”
PDC09で示されたWindows AzureとWindows Serverを連携させる接続性

 データ・サービスについては、SQL AzureとSQL Serverのデータ同期機能や、先ほど述べた“Dallas”などがあるが、ここでは詳細は割愛する。以降では、それ以外の項目についてそれぞれ説明していく。

サービス・バス:アプリケーション・メッセージ

 オンプレミスのアプリケーションとクラウドの中のアプリケーションを連携させるには、その両者間のやり取り(アプリケーション・メッセージ)が重要になってくる。そこで活用できるのが、昨年のPDC 2008で発表された.NET Services(新しい「AppFabric」に含まれる。これについては詳細後述)のメッセージ・バス、正確には「サービス・バス(Service Bus)」というサービスだ。

 このサービス・バスにより、自社データセンターで動作するアプリケーションと、Windows Azureクラウド・サービスや取引会社のアプリケーションなどが接続できるようになる。

アクセス・コントロール・サービス:アイデンティティの連合(Federated Identity)

 こうやって互いに接続されたシステムでは、必ずアイデンティティ(ID)管理が必要となる。そこで使えるのが、同じく昨年のPDC 2008で発表された.NET Services(これもAppFabricに含まれる。詳細後述)の「アクセス・コントロール・サービス(Access Control Service)」である。

 このアクセス・コントロール・サービスによって、オンプレミスの認証システム(典型的にはActive Directory)に接続してID認証を行えるようになり、取引会社やWindows Azureクラウド・サービス間でシングル・サインオンが実現できる。

“Project Sydney”:オンプレミスへの直接連携

 アプリケーション・メッセージによるアプリケーション間連携は、クラウド・コンピューティングにおいて非常に重要になってくる可能性があるが、そのような高水準の連携ではなく、もっと低水準で直接的なネットワーク・アクセスによる連携を行えるようにしたいというニーズもある。

 そのニーズに応えるのが、“Project Sydney”(プロジェクト・シドニー)という開発コード名の新プロジェクトである。“Project Sydney”は、2010年からベータとして提供されることが予定されている。

 “Project Sydney”とは、Windows Azure内で実行されているサービスが、自社データセンター内の既存のサービスに接続できるようにするためのWindows Azureの機能である。例えばPDC09では、「Giving Auction」というWindows Azure上で動作するWebアプリケーションが、オンプレミスで実行されているSQL Serverへ接続するデモンストレーションが実演された。

 このようにクラウドからオンプレミスへの接続を可能にするには、Windows Azureポータルで“Project Sydney”の[Azure Connectivity Agent(Azure接続エージェント)]ウィザードを実行すればよい。このウィザードを実行すると、オンプレミス環境にAzure接続エージェントがインストールされる。次の画面は実際にこれをインストールしているところ。

[Azure Connectivity Agent(Azure接続エージェント)]ウィザード

 インストールが完了すると、Windows Azureポータルで[External Resource(外部リソース)]として「SqlServer」(オンプレミスのSQL Server)が利用可能になる。これは、オンプレミス・サーバとWindows Azure環境の間にコネクションが作成されたことを意味する。なお、このコネクションでは、2地点を安全につなぐためにIPv6のIPSec(暗号化技術)が使われている(IPv4については言及されなかったので不明)。

[External Resource(外部リソース)]として利用可能になった「SqlServer」

 このように“Project Sydney”が実現すると、Windows Azureクラウド・サービスが、これまで培ってきた既存資産を「そのまま」生かせるようになるというメリットがある。

新アプリケーション・サーバ「AppFabric」

 スケールアウトでき、高い可用性を持った、弾力性のあるアプリケーションを構築するための鍵は、プロセスを単純化するアプリケーション・サーバを持つことである。これを目指し、マイクロソフトが新たに提供するアプリケーション・サーバが「AppFabric」だ。

PDC09で示されたAppFabricを説明するスライド

 AppFabricには、Windows Server向けとWindows Azureプラットフォーム向けの2種類がある。

Windows Server AppFabric

 Windows Server AppFabricは、分散キャッシュ機能(開発コード名:“Velocity”)と、ワークフロー&サービス管理機能(開発コード名:“Dublin”)を組み合わせたオンプレミス用のアプリケーション・サーバである。正式リリースは2010年内を予定しており、現在はベータ版が提供されている。

 分散キャッシュ機能は、分散された複数のサーバのメモリ上にデータ・キャッシュを持つことで、データベースへの負荷を減らし、IIS上で実行されるWebアプリケーションの応答性を高められる。

 また、ワークフロー&サービス管理機能では、WF(Windows Workflow Foundation)やWCF(Windows Communication Foundation)による(N階層における)中間層サービスを容易に構築・ホスト・管理する機能を提供する。サービスの健康状態を監視する機能もあるので、高い可用性を発揮できる。

Windows AzureプラットフォームAppFabric

 一方のWindows AzureプラットフォームAppFabric(Windows Azure platform AppFabric)は、昨年のPDC 2008では「.NET Services」として発表されたもので、サービス・バス(Service Bus)とアクセス・コントロール・サービス(Access Control Service)の機能を提供する、クラウドの中のアプリケーション・サーバである。この2つの機能については前述したのでここでは繰り返さない。

 現在、以下のような各開発言語向けのSDK(ソフトウェア開発キット)が提供されている。

 Windows AzureプラットフォームAppFabricについては将来的に機能強化が行われることになっており、そのベータ版が2010年中に提供される予定だ。その機能強化の内容は、筆者が知る限り、説明されなかった。分散キャッシュ技術に関するPDC09のセッションでは、SQL Azureデータベースを複数のWorkerロールに分散キャッシュするデモを将来技術として説明していたので、この辺りの機能が入ってくるのではないかと予想される。

クラウド&オンプレミス共通のシステム管理

System Center“Cloud”

 マイクロソフトはシステム管理ソリューションとしてSystem Centerを提供しているが、これがクラウド領域(パブリック・クラウド/ホスティング/プライベート・クラウド)にまで拡大されることになる。つまり、オンプレミスもクラウドも、同じSystem Centerによって管理できるようになるわけである。そのSystem Center“Cloud”のベータ版のリリースが、2010年内に予定されている。

 System Center“Cloud”では、System Center Operations Managerを使って、Windows Azure上で実装されるサービスの健康状態をモニタリングし、障害やSLA(=サービス・レベル契約)違反が発生しているインスタンスの詳細情報を取得し、必要があればそこからロール・インスタンスを手動で増加させたりできる。もちろんこの作業を自動化して自動スケールするようなことも可能である。

 次の画面は、障害を検知してWebロールをスケールアウトしているところである。

System Center Operations Managerによる障害検知とスケールアウト

 以上のような業務システム/エンタープライズ・システム向けの新機能がWindows Azureに導入される。Windows Azureは、徹底的に現場のニーズに応える現実路線でクラウド・コンピューティングを実現しようとしているようだ。実際に多くの開発者が、「Windows Azureがかなり魅力的な存在になってきた」という感想を持ったのではないだろうか。

 今回のPDC09で筆者は、例年にはないマイクロソフトの意気込みを感じた。それは「マイクロソフトが(.NETにこだわらず)あらゆる技術にオープンになる姿勢を明示した」ことである。

 例えばWindows Azure上で、Tomcat(=JavaサーブレットやJSPを処理するアプリケーション・サーバ)を活用するJavaアプリケーションの開発や、MySQLとmemcachedを活用したPHPアプリケーションの開発を披露したり、世界中で1000万人のブロガーが利用する最も成功したオープンソースのブログ・ツール「WordPress」のデモ実行を発表したりと、.NET以外の開発技術のサポートを積極的に宣言した。

 この姿勢は、数年前のJava/PHPから.NETへの移行を推進する姿勢とは相反するものである。

Windows Azure Platformが採用する非マイクロソフト系のテクノロジ

 あくまで以下は筆者の見解であるが、マイクロソフトの戦略はここにきて少しずつ変化してきていると感じる。いまの時代、これからの時代、自社技術を発展させてその利用者を増やすことでビジネスの拡大を続けるという従来の手法が、マイクロソフトにとってそれほど価値のあるものではなくなってきている。そのような戦略を採用するよりも、むしろ(Rubyなどのオープンソース技術といった)多様化する開発技術と共存・共栄する道を模索しているのではないだろうか。

 そもそもマイクロソフトの生命線は、Windowsであり、Officeだ。マイクロソフトにとって一番大事なのは、プラットフォームとしてWindowsブランドのサーバ「Windows Server」とクラウドOS「Windows Azure」を広く使ってもらうことである。マクロソフトはこれまで以上に、それに注力しようとしているのではないだろうか。

 2009年11月初めに日本を訪問したマイクロソフトCEOのスティーブ・バルマー氏も同様の発言をしていたが、マイクロソフトはクラウド・コンピューティングに対してかなり本気に違いない。多数のベンダが真剣に取り組むのだから、やはりクラウド・コンピューティングはますます発展していくことになるだろう。

 この波に遅れず、うまく乗るために、まずはWindows Azureを試すことから始めてはいかがだろうか(いまならまだ無償で利用できる)。End of Article

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 INDEX
  Windows Azure Platformの新機能 
  クラウドの本命となるか? 進化するWindows Azure
    1.機能強化ポイント/オンライン・マーケットプレイス
  2.クラウドとオンプレミスの接続&共通化

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