Windows Azure Platform速習シリーズ

Windows Azureのローンチに向けて知っておくべき4つのこと

Windows Azure Community 市川 龍太
2009/10/28
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Windows Azureの制約を知る

 Windows Azureは大きな可能性を秘めたクラウド技術であることは間違いないが、逆に制約について知っておくこともまた重要である。そのため、ここではWindows Azureの制約について解説する。

大量データの移行

 オンプレミスの大量データ(例えばテラバイト・クラスのデータ)をWindows Azure上に移行しようとした場合、現時点ではネットワークを介して移行するほかないのだが、これでは時間的にもコスト的(使用した帯域幅で課金されるため)にもデメリットが大きい。

 これについてAmazonでは、USB形式の外付けハードディスクなどをAmazonに直接郵送してデータをアップロードしてもらうAWS Import/Exportというサービスを提供している。これは一見すると随分アナログなやり方に見えるが、ある意味ではコロンブスの卵といえる方法でもあり、Windows Azureもこの方法を採用する可能性が高いのではないかと筆者は考えている。

インスタンスあたりのスペック

 Windows Azureのコンピュート・サービスは1ロールごとに仮想マシンが作成されるという点は先に解説したとおりであるが、この仮想マシンのスペックは下表のようになっている。

分類 性能値
CPU 1コアの1.5〜1.7GHz (x64)
メモリ 1.7GByte
LAN 100MBit/秒
ハードディスク 250GByte
OS Windows Server 2008(IIS 7.0、.NET 3.5)
仮想マシンあたりの推定性能
2008年に公表されたデータであり、ローンチ時点でのスペックは未発表。

 ビジネス用途で使用される一般的なサーバと比べると、やや物足りなさを感じるスペックであるが、もし実運用においてスループットの増大により性能に影響が出てきた場合は、インスタンス数を増やしていくことで容易にスループットを向上させることが可能であるため、それほど問題になることはないだろう。

ネットワークのスループット

 Windows Azureを利用する場合、利用側の環境とデータセンターはベスト・エフォートのインターネットを経由して接続することになるのだが、インターネットは複数のプロバイダ(ISP)を相互に接続することで成り立っているため、物理的な距離が遠いほどネットワーク遅延が大きくなり、結果としてスループットが低下することになる。

 試しに、筆者がWindows Azureに配置したサンプル・アプリケーションに対してtracertコマンドを打ってみたところ、以下の結果が得られた。

7     3 ms     3 ms     3 ms  122.28.104.178
8    12 ms    12 ms    12 ms  ae-5.r20.tokyjp01.jp.bb.gin.ntt.net [129.250.11.113]
9    99 ms    99 ms   109 ms  as-1.r20.sttlwa01.us.bb.gin.ntt.net [129.250.4.189]
10   151 ms   136 ms   171 ms  as-2.r20.snjsca04.us.bb.gin.ntt.net [129.250.2.164]
11   251 ms   207 ms   212 ms  xe-0.microsoft.sttlwa01.us.bb.gin.ntt.net [129.250.8.62]
12   142 ms   140 ms   142 ms  xe-0.microsoft.snjsca04.us.bb.gin.ntt.net [129.250.8.170]
13   140 ms   138 ms   138 ms  ge-0-3-0-58.sjc-64cb-1a.ntwk.msn.net [207.46.47.251]
14   128 ms   207 ms   209 ms  ge-5-1-0-0.sn1-64cb-1b.ntwk.msn.net [207.46.46.86]
tracertコマンドの結果(一部抜粋)
・1〜8ホップまでは国内のプロバイダ(1〜6までは割愛)
・9〜12ホップまではアメリカのプロバイダ
・13ホップ以降はマイクロソフトのデータセンター

 この結果では、9ホップ目のas-1.r20.sttlwa01.us.bb.gin.ntt.netという恐らくアメリカのプロバイダに入ったあたりから応答時間が100msを超えており、応答時間の低下はスループットの低下に直接つながるため、気になる点ではある。こればかりは物理的な距離を縮める以外に解決策はない。

 このような状況に対してAmazonでは、CloudFrontと呼ばれる高速配信サービスを提供して高速化を図っている。これは世界中の各拠点に配置された配信サーバにストレージのデータをキャッシュしておき、利用側がデータセンターにアクセスしてきた場合は、配信サーバからデータを返す仕組みである。AkamaiなどのCDN(Contents Delivery Network)サービスに近いサービスといえる。

 Windows Azureでも同様のサービスが開始されるのかどうかは現時点では分からないが、物理的な距離の問題を解決するための手段として、Windows Azureでも提供される可能性はあると筆者は考えている。

Windows Azureのセキュリティ

 いざWindows Azureを業務で使用するとなった際に、セキュリティは最大の懸念事項であることは間違いないだろう。しかし現時点でWindows Azureのセキュリティについて、マイクロソフトから明確な説明はなされていない。

 例えば、社内システムをWindows Azure上で動作させた場合は、常に外部のセキュリティの脅威にさらされることになるが、Windows AzureではVPN(Virtual Private Network)でアクセスするサービスなどは提供されていない。

 このセキュリティの問題は、インターネットを経由するクラウド・コンピューティングにとっては共通の懸念でもあるのだが、各サービスともにあまり満足のいく説明がなされているとはいいにくいのが実情である。唯一Amazonは、AWS Security White Paperというホワイト・ペーパーで概要を説明しているが、Windows Azureでも同様の情報を公開してほしいものである。

SQL Azure Databaseの容量

 正式版で提供されるSQL Azure Databaseの容量は、Web Editionで最大1GB、Business Editionでも最大10GBしか使用できない。もしデータのサイズが最大容量を超える場合は、データベースを物理的に分ける必要が出てきてしまうのである。実際、業務アプリケーションではデータベースのサイズが10GBytesを超えることはよくあるため、この制限はとても心もとなく感じるのは確かである。

オンプレミス環境の仮想マシンの移行

 最近のオンプレミス・アプリケーションはHyper-Vなどでホスティングされた仮想マシン上で動作しているものが増えてきており、これら仮想マシンをそのままWindows Azureに移行して動作させることができれば移行の手間が大幅に省けるのだが、現時点ではそのような仕組みは提供されていない。

 Windows AzureでもAmazon EC2のようなHaaS/IaaS型のサービスが提供されればよいのだが、先に述べたとおりWindows Azureも内部ではHyper-Vを使用しているため、将来的には対応してくるのではないかと筆者は考えている。


 INDEX
  Windows Azure Platform速習シリーズ 
  Windows Azureのローンチに向けて知っておくべき4つのこと
    1.Window Azure とは何かを知る
    2.Windows Azureを取り巻く環境(現状)を知る
  3.Windows Azureの制約を知る
    4.Windows Azureの効率的な勉強方法を知る

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