Insider's EyeVisual Studio 2005は一体いつ入手できるのか?デジタルアドバンテージ 一色 政彦2005/11/26 |
|
2005年11月17日、Visual Studio 2005(以降、VS 2005)のローンチ・イベント「the Microsoft Conference 2005 ― 東京」(以降、日本イベント)が開催された。このイベントは、米マイクロソフトが11月7日(現地時間)に開催したローンチ・イベント(以降、米国イベント)に続くものである。
しかし米国イベントと日本イベントでは、発表内容が異なっていた。米国イベントではVS 2005やSQL Server 2005の正式リリースが発表され、実際の製品が入手可能だが、日本イベントでは製品のリリースではなく、リリース予定が発表されただけだ。
実は日本のマイクロソフトは10月31日にも、「VS 2005 Team Edition with MSDN Premium Subscription先行特別パッケージ」を2005年12月2日から発売することを発表しており、リリース情報が複雑で分かりにくくなっている。
そこで本稿では、VS 2005のリリース予定やリリースされる製品情報についてあらためて整理してみた。
米国におけるVisual Studio 2005のリリース過程
まずは米国版VS 2005のリリースについて確認しておこう。
米国では、10月27日(米国時間)の時点でVS 2005(およびSQL Server 2005)の開発が完了し、すぐにMSDNサブスクライバ(=MSDN会員向けWebサイト)でダウンロード提供が開始された。そこから11月7日のローンチにこぎ着けたわけである。
しかしここで完成したのは、あくまで米国英語版(=ENU RTM版)のみである(ただし“All Language”対応のため日本語環境でも使用できる)。これ以外の版(例えば、日本語のJPN RTM版など)の開発は、まだ終わっていなかったわけである。
Visual Studio 2005の製品ライン
米国版のリリースでは、VS 2005の各エディションのうち以下のものがリリースされた。なお以下のカッコ内で示している価格は、日本語版通常パッケージを国内で新規購入した場合の推定小売価格である。
●VS 2005 Express Editions(学生、入門者向け)/Standard Edition(個人開発向け)
- Visual Basic 2005 Express Edition(4800円)
- Visual C# 2005 Express Edition(4800円)
- Visual C++ 2005 Express Edition(4800円)
- Visual J# 2005 Express Edition
※ 価格はパッケージ版の価格で、ダウンロードで提供されたり、書籍や雑誌に添付されたりするプロモーション版は、1年間限定で無償となる(米国版については提供開始からちょうど1年後の2006年11月6日まで。日本語版についてはまだ告知されていないが、恐らく同様の扱いになるだろう)。なおパッケージ版には参考書籍などが添付されたり、パッケージ代や製造コストがあることを考えると、パッケージ版も格安だといえるだろう。ちなみにJ# Expressについては、日本での利用ユーザー数が少ないという理由で日本語版は提供されないことが決定している。 |
- VS 2005 Standard Edition(2万9800円)
※ Standard Editionは、Visual Studio .NET 2002/2003の場合とは異なり、Visual Basic、C#、C++、J#などの全言語が含まれている。 |
●VS 2005 Professional Edition(プロフェッショナル向け)
- VS 2005 Professional Edition(12万8000円)
- VS 2005 Tools for the Microsoft Office System(12万8000円)
※ VS 2005 Tools for Officeの内容は、Professional Editionとほぼ同等。違いはProfessional版にはないOffice向け開発環境が存在する代わり、Professional Editionにある64Bits対応とモバイル開発対応などが省略されていることだ。 |
- VS 2005 Team Edition for Software Architects(75万円)(MSDN会員1年分付き)
- VS 2005 Team Edition for Software Developers(75万円)(MSDN会員1年分付き)
- VS 2005 Team Edition for Software Testers(75万円)(MSDN会員1年分付き)
※ この3つの製品をセットで「VS 2005 Team Suite(150万円)」として購入できる。個別の各製品は「VS 2005 Team Edition」と呼ばれる。以降の説明では「Team Suite」と「Team Edition」の違いに注意してほしい。 |
しかし、VS 2005 Team Systemでチーム開発を行う際のリポジトリとなる以下のプロダクトはまだ正式リリースされていない。
●Team Foundation Server(38万円:サーバ・ライセンスの場合)
※ Team Foundation Serverについては現時点でBeta 3が提供されているだけで、製品版(米国RTM版)のリリースは2006年の第1四半期とアナウンスされている。Team Foundation Server日本語RTM版は、2006年前半中に開発完了させると発表されている。 |
以上の製品群の機能や価格の違いの詳細については、以下のそれぞれのリンク先を参照してほしい。
日本語版Visual Studio 2005のリリース予定
それでは肝心の日本でのVS 2005のリリース予定について説明していこう。
前述したとおり、VS 2005の日本語版はまだ開発中である。これは恐らく、日本語関係の対応作業(例えばドキュメントの翻訳など)が必要となるからだろう。実際の完成は「2005年12月15日」であるとアナウンスされている。開発作業が完了し次第、すぐにその「VS 2005日本語RTM版」がMSDNサブスクライバでダウンロード提供される予定だ。
しかしこのVS 2005日本語RTM版が利用できるのは、あくまでMSDN会員のみである。このMSDN会員とは、2005年11月1日より新設された「Visual Studio with MSDN Subscription」の会員のことである。
それ以外の開発者は製品パッケージがリリースされるのを待たなくてはならない。困ったことに、時期が年末であるためか、一般の開発者が店頭などで購入できるVS 2005日本語RTM版のパッケージがリリースされるのは、「2006年2月」とのことである。
VS 2005リリース・スケジュール |
あくまで予定であることに注意すること。図中の「A.S.A.P」は“As Soon As Possible”の略で、「できる限り早く提供する」の意。 |
Visual Studio 2005 Team Systemの早期入手とアップグレードについて
●VS 2005 Team Editionへのアップグレード
実は、2005年10月31日まで販売されていた従来のMSDNサブスクリプションのUniversalもしくはEnterpriseを購入すれば、新しいMSDNサブスクリプション(Visual Studio with MSDN Subscription)へ「無償アップグレード」できるキャンペーンが行われている。現在はこれらのMSDNは店頭に残っている在庫(Visual Studio .NET 2003 MSDN Deluxe Edition)のみである。格安でアップグレードしたい場合には今すぐ購入した方がよい(11月30日まで)。
この無償アップグレードでは、「Visual Studio Team Edition with MSDN Premium Subscription」の1つ、つまり「Software Architects」「Software Developers」「Software Testers」(=いずれも推定小売価格は75万円)のいずれかのMSDN会員(以降、MSDN Team Edition会員)に無償で移行することができる(ただしVisual Studio with MSDN Subscription のリリース前にMSDN会員になっていることが条件だ)。
それでは「現在MSDN会員以外の開発者は、VS 2005を翌年2月まで待つ以外に方法はないのか!?」というと、それを回避するためのパッケージが用意される。それが、冒頭でも触れた本年12月2日より店頭で発売開始される「VS 2005 Team Edition with MSDN Premium Subscription先行特別パッケージ」(以降、先行パッケージ)である。
この先行パッケージでは、MSDN Team Edition会員(新規パッケージ1年の契約)に登録することができる。これにより、(予定では)12月15日の完成後すぐにMSDNサブスクライバでダウンロード提供される「VS 2005 Team Edition日本語RTM版」の1つをダウンロードで入手可能になる(もちろん1年間はMSDN会員としてWindows XPやSQL Server 2005などの製品を開発目的でダウンロード可能)。さらに後日、パッケージ完成後に日本語RTM版のメディアキットも送られてくるということだ。
この先行パッケージの推定小売価格は、通常パッケージと同じ75万円なので価格的なメリットはない。これを購入するメリットの1つは、このように現在MSDN会員でない人がいち早くTeam Edition日本語版を入手できることだろう。もちろん、2005年11月1日から販売が開始されている「Visual Studio with MSDN Subscriptionボリューム・ライセンス」でMSDN会員になることも可能だが、この場合2年契約となるため初期費用が若干高くなる。高いといっても、年単位で見ると格安である(新規2年で92万3000円で、更新はこの半額になる。新規購入を年単位にすると46万1500円で少し安くなる)。
それでは先行パッケージの最大の魅力は何かというと、それは既存のVisual Studioユーザー(例えばVisual Studio 97/6.0、Visual Studio .NET 2002/2003などのユーザー)がVS 2005 Team Edition(Software Architects、Software Developers、Software Testers)のいずれか1つに安価でアップグレードできることである。実は各Team Editionの通常パッケージでは、アップグレード版が提供されない。従って、この先行パッケージのアップグレード版が、Team Editionにアップグレードできる最後のチャンスである。
なお先行パッケージ・アップグレード版の推定小売価格は、先行パッケージ・新規版の約半額(具体的には31万5000円)である。
Team Edition | 金額(※推定小売価格) |
通常パッケージ(新規) | 75万円 |
先行パッケージ(新規) | 75万円(「通常パッケージ」と同額) |
先行パッケージ・アップグレード | 31万5000円(「先行パッケージ」の半額) |
VS 2005 Team Edition価格比較表 | |
VS 2005 Team Editionの「Software Architects」「Software Developers」「Software Testers」のいずれも同額である。 |
この先行パッケージ(および先行パッケージ・アップグレード)は、VS 2005日本語RTM版が正式リリースされるまで、つまり予定では「2006年2月」まで店頭販売される。
以上の内容をまとめたのが次の図だ。
Visual Studio 2005 Team Edition先行パッケージのスケジュール |
ここまではVS 2005 Team Editionの話だったが、それでは3つのTeam EditionをセットにしたTeam Suiteは格安で早期に入手できないのだろうか。
●VS 2005 Team Suiteへのアップグレード
もちろんTeam Suiteへの格安なアップグレード手段も提供される。それが、前述の先行パッケージと同時(2005年12月2日)に発売される「Visual Studio Team Suite with MSDN Premium Subscriptionステップアップ・パッケージ」(以降、ステップアップ・パッケージ)である。ステップアップ・パッケージは、従来のMSDN会員(UniversalレベルとEnterpriseレベル)とMSDN Team Edition会員を対象に提供される。
ステップアップ・パッケージの推定小売価格は16万5000円となっており、かなりお得である。ただしMSDN会員の期限が延長されるわけではない。従って例えば、現在のMSDN会員期間が後1カ月しか残っていなければ、ステップアップ・パッケージを購入してアップグレードしても1カ月で会員期間は終了してしまう。
Team Suite | 金額(※推定小売価格) |
通常パッケージ(新規) | 150万円 |
ステップアップ・パッケージ | 16万5000円(ほぼ10分の1の価格) |
VS 2005 Team Suite価格比較表 | |
この価格設定ならば、いったんMSDN Team Edition会員(もしくは従来のMSDN会員)に登録して、ステップアップ・パッケージを購入した方が若干お買い得になるだろう。 |
ステップアップ・パッケージ(=店頭販売)でなく、Visual Studio with MSDN Subscriptionボリューム・ライセンスでも、ステップアップが提供されている。対象は従来のMSDN会員(Universalレベル)とMSDN Team Edition会員だ(従来のMSDN Enterpriseサブスクリプションの会員は入っていない)。ステップアップ・ライセンスの販売は、2005年11月1日から2006年6月30日までに期間が限定されている(なおステップアップ・パッケージの方の販売期間についてはプレスリリースで言及されていないため不明だ)。
以上で示した先行パッケージやステップアップ・パッケージの対象製品、またMSDN会員の価格などについては、以下のリンクを参照していただきたい。
- マイクロソフト・プレスリリースの添付資料
- Visual Studio with MSDN Subscription 価格
- Visual Studio Team Suite with MSDN Premiumステップアップ・キャンペーン(ボリューム・ライセンス)
以上、VS 2005のリリース・スケジュールについて一通り解説したが、ご理解いただけただろうか?
簡単にいえば、何度も発表がありながらも、日本ではなかなか実物が入手できない状態が続いているというわけだ。なぜ正式発売まで発表を待てなかったのか。“VS 2005”という年号が付いてしまった製品を2006年にリリースするわけにはいかなかった、と考えるのはうがった見方だろうか。理由はどうあれ、MSDN会員ではない多くのプログラマは、2006年にならなければ“VS 2005”を入手できない(ただしExpress Editionsについては本年12月15日予定の完成後にダウンロード提供されるかもしれない)。
マイクロソフトのVS 2005戦略
このようにリリース・スケジュールについては少し難があったが、VS 2005におけるマイクロソフトの戦略については非常に面白いと考えている。
今回のVS 2005の発表で一番反響があったのは、やはりVS 2005 Express Editionsが1年間無償で提供されることだろう。また、新登場するVS 2005 Team Systemが明らかに大きく取り扱われている一方で、VS 2005 Standard EditionやProfessional Editionなどの既存のVisual Studio開発者層を継続的にサポートする製品は、今回はあまり目立っていない。
このことからマイクロソフトは、VS 2005 Express Editionsの提供による「.NET開発の普及路線」(主に学生やホビー・ユーザーの開拓)と、VS 2005 Team Systemの提供による「エンタープライズ分野への進出路線」(大規模システム開発)に力を入れきているのではないだろうかと思われる。米イベントでも、デモで力点が置かれていたのはこの2つだった。
これらはこれまで特にJavaが強かった分野だという印象がある。Javaには無償で利用できる統合開発環境「Eclipse」がある。.NET Framework SDKは無償ではあるものの、当然ながら取っつきやすさでは統合開発環境にははるか及ばない。またJavaに比べると、.NET開発は(特にVisual Basicによるクライアント/サーバ型システムなど)中小規模システムの開発というイメージが強く、大規模なエンタープライズ分野(特に基幹系や勘定系など)ではまだまだ敬遠されることが多かったのではないだろうか。これらのウィーク・ポイントの克服が、今回のVS 2005の戦略テーマになっているように思えるのだ。
今回のVS 2005の提供は、「既存ターゲットである中小企業中心の開発者市場から外に足を一歩踏み出して、新たな開発者市場を切り開こう」とするマイクロソフトの新たな挑戦のように映る。この試みがどれくらい成功するかは未知数だが、VS 2005の登場はマイクロソフトの開発環境の歴史のうえで大きなエポックになる可能性を秘めているだろう。
Insider's Eye |
- 第2回 簡潔なコーディングのために (2017/7/26)
ラムダ式で記述できるメンバの増加、throw式、out変数、タプルなど、C# 7には以前よりもコードを簡潔に記述できるような機能が導入されている - 第1回 Visual Studio Codeデバッグの基礎知識 (2017/7/21)
Node.jsプログラムをデバッグしながら、Visual Studio Codeに統合されているデバッグ機能の基本の「キ」をマスターしよう - 第1回 明瞭なコーディングのために (2017/7/19)
C# 7で追加された新機能の中から、「数値リテラル構文の改善」と「ローカル関数」を紹介する。これらは分かりやすいコードを記述するのに使える - Presentation Translator (2017/7/18)
Presentation TranslatorはPowerPoint用のアドイン。プレゼンテーション時の字幕の付加や、多言語での質疑応答、スライドの翻訳を行える
|
|