さりゆく20世紀・きたる21世紀

川俣 晶
2000/12/05

21世紀がやってくる

 西暦2000年も終わろうという今、計算上西暦1901年から始まった20世紀も同時に終わろうとしている。一般には、世紀は99年で終わるものだという誤解もあったようだが、いろいろな報道のおかげか、いつの間にか、2001年が21世紀最初の年として認知されたようだ。このあたりの感覚は、実はコンピュータソフトウェアをやっていると、直感的に理解できる。0から数えるか1から数えるかの問題だ。たとえば、BASIC言語で、DIM A(10)として配列を確保すると、10と書いたのに実は11個分確保されてしまうという問題が理解できていれば、2000年が21世紀ではないことも、直感的に分かるようになるだろう。

 ともかく、異論ある人もいるにせよ、西暦2000年12月31日が終わると20世紀は終わり、西暦2001年1月1日から21世紀に入るのである。

 しかし、ある日付を越えたからといって、それで世の中が変わるわけではない。昔は、夢のような21世紀の未来予想イラストなどもあったが、その多くは実現されていない。たとえば、今から30年前の大阪万博では、奇抜なデザインの建物が並び、さまざまな未来イメージが打ち出された。それを見て、幼い子供にすぎなかった筆者は、素直に感動したものである。しかし、万博が終わってみると、すべては夢幻と消えたような状況になり、つまらない日常がダラダラと続く日々が訪れた。このギャップは、筆者やもしかしたら筆者の世代にはトラウマとなって残っているのかも知れない。散々、夢のようなイメージを吹き込んでおきながら、それを実現しようとはしてくれない。そのための準備を着々と進めるということもない。当時の大人達から当時の子供達に対する大いなる裏切りである。これほど豊かな時代に何不自由なく暮らして不満などあるはずがない、という人もいるが、約束された未来を奪われたという不満は確かにここにある。

大人の責任?

 かといって、ただ当時大人であった世代に不満をぶつければよいというものではない。かつての子供も立派な大人になっているのだ。大人には大人の責任というものがある。ただ単に社会が思いどおりの姿ではないからといって、不満をぶちまけるだけでは無責任というものだ。つまり、自ら望む社会に変えていくための努力をすべきだといえる。たとえば、21世紀にできると約束された空飛ぶ車が、未だにないと嘆くのではなく、なければ自ら開発しようと考えるべきだ。

 けして、荒唐無稽な話をしているわけではない。たとえば、ホンダやソニーが開発したロボット達などは、明らかに、夢を自らの力で現実にしようという積極的な活動の成果といえるだろう。これらを見ると、21世紀にはロボットが実用的な道具として活用されることは間違いないと思える。もちろん、20世紀の産業用ロボットのような特定用途専用のものではなく、人間のように独立して移動し判断し、人間とコミュニケーションを取るロボットの話である。

 このように、欲しいものは自ら作り出す、という態度は重要だ。誰かが作ってくれるのを待つだけでは、永遠に何も手に入らないかも知れない。もちろん、自ら開発に参加する以外にも、いろいろなかかわり方がある。ただ応援のメッセージを送るというだけでも、開発者を元気づける効果があるものだ。だが、愚痴だけこぼし続ける、要求だけを出し続ける、というような態度はよくない。できないことまでやれとは言わないが、できることはすべきだ。

ハードルが低いソフトウェア

 欲しいものは自分で作れ、といっても、現実にやるとなると、そう簡単なものではない。だが、コンピュータのソフトウェアに関しては、他の分野に比べて劇的にハードルが低いといえる。

 爆発的に大きな処理能力を要求されるようなケースでなければ、とりあえずパソコンが1台あればよい。しかも、開発ソフトは一般的にそれほど重い負荷がかかるものではない。安いパソコンでも充分に対応可能だ。あとは、基礎知識を学び、開発能力を磨けば、欲しいソフトの自作も射程圏内に見えてくる。

 さらに注目すべきは、オープンソースという思想だろう。オープンソースのソフトウェアを利用することで、足りない部分だけを書き加え、目的のソフトウェアを完成させることができる。

 さあ、ここまでよい環境が揃っていながら、それでも欲しいソフトを自作しない理由は何だろうか? もし、ソフトは誰か他人が作ってくれるのが当然だから、と思い込んでいるのなら、そのような思想は21世紀のものではない。20世紀から21世紀への変わり目は、気持ちを切り替えるにはよい機会ではないだろうか?End of Article


川俣 晶(かわまた あきら)
 株式会社ピーデー 代表取締役、日本XMLユーザーグループ代表、INSTAC XML SWG 委員。1964年東京生まれ。東京農工大化学工学科卒。学生時代はENIXと契約して、ドラゴンクエスト2のMSXへの移植などの仕事を行う。卒業後はマイクロソフト株式会社に入社、Microsoft Windows 2.1〜3.0の日本語化に従事。退職後に株式会社ピーデーの代表取締役に就任し、ソフトウェア開発業を始めるとともに、パソコン雑誌などに技術解説などを執筆。Windows NT、Linux、FreeBSD、Java、XML、C#などの先進性をいち早く見抜き、率先して取り組んできている。代表的な著書は『パソコンにおける日本語処理/文字コードハンドブック』(技術評論社)。最近の代表作ソフトは、携帯用ゲーム機WonderSwanの一般向け開発キットであるWonderWitch用のプログラム言語『ワンべぇ』(小型BASICインタプリタ)。

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