特集:Amazon Web Services最新情報

クラウド“AWS”東京リージョンまとめ【.NET開発者視点】

デジタルアドバンテージ 一色 政彦
2011/03/10

 2011年3月2日(米国時間)、ついに世界有数のクラウド・サービス群である「Amazon Web Services」(以降、AWS)のデータ・センターが「東京リージョン」(=東京を拠点とする領域)にやってきた。

 クラウド上に構築する.NETシステムを提案した際などに、国内ユーザー企業から「クラウドのデータ・センターが日本国内に所在しており、安心して使えること」を重要な要件として提示されることも少なくなかったのではないだろうか。そのような要件が、世界的なクラウドであるAWSで達成できるようになった(広報ブログ記事:「【AWS発表】 クラウドが日本に上陸: AWSの東京データ・センターが開設」)。これは国内のクラウド・コンピューティングの歴史に残る出来事である。

 冒頭で述べた「AWSが東京リージョンにやってきた」というのは、「日本でも本格的にAWSのクラウドが使えるようになった」というだけの単純な話ではない。AWS東京リージョンの誕生により、「RightScaleなどのAWS関連サービスまでもが日本にやってくる」ことになりそうなのだ(参考:「NewsInsight:米RightScaleが日本に本格進出、クラウド利用の高度化推進」)。つまりこれから、AWSエコシステム(=生態系)そのものが日本にやってくるのである。そういう意味で、日本においてのこれまでのクラウドは序章でしかなく、いままさに夜が明け、新しい太陽が昇ろうとしているのかもしれない。

 今回のニュースは、もちろん.NET開発者にも関係のある話題である。そこで本稿では、AWS東京リージョンについて、.NET開発者の視点でまとめる。

AWS東京リージョンと.NETの関係/利用方法

.NETが使える代表的なクラウド・プラットフォーム

 現時点で、.NETアプリケーションを運用できる代表的なクラウド・プラットフォームといえば、マイクロソフトの「Windows Azure」と、アマゾン・ドットコムの「Amazon EC2」の2つが挙げられる(このほかには、国内ベンダが提供するニフティ・クラウドなどもある)。

 後者のAmazon EC2は、AWSの中の1つのインフラストラクチャ・サービスである。すでに、ニューヨーク・タイムズのアーカイブ・サービス「TimesMachine」(英語)Dropbox(英語)東芝の事例を筆頭に世界中で広く利用されており、最も成功しているクラウド・プラットフォームの1つといえる(なお、コンピューティング・インフラストラクチャそのものをクラウド・サービスとして提供しているので、Amazon EC2は厳密には「IaaS:Infrastracture as a Services」に分類される)。

AWS東京リージョンの利用方法

 AWSの東京リージョンを利用するのは簡単だ。AWS Management Console(英語)にサインインして、目的のインフラストラクチャ・サービスの[Region:]コンボボックスから「Asia Pacific (Tokyo)」を選択するだけだ。次の画面は「Amazon EC2」で「Asia Pacific (Tokyo)」を選択しようとしている例だ。

Amazon EC2での東京リージョンの選択

Amazon EC2でWindows&.NETを利用する方法

 上の画面例を見て分かるように、残念ながら現時点ではAWS Management Consoleは日本語化されていないようだ。従って、Amazon EC2でWindows&.NETを利用する手順は、海外のデータ・センターを利用する手順と変わらない。

 下記のリンク先の記事は、AWSの契約からAmazon EC2でWindowsを利用するまでの手順を丁寧に解説しているので、AWSを使うのが初めての方はぜひ参考にしてみてほしい。

AWS東京リージョンに関する情報

利用可能なインフラストラクチャ・サービス群

 AWSの東京リージョンでは、現時点で以下のインフラストラクチャ・サービスが利用できる。

 そのほか、下記のようなAWSの機能が利用できる。

  • Amazon CloudWatch
    AWSクラウド・リソース(=CPU使用状況、ディスク読み込みや書き込み、ネットワークトラフィックなど)のモニタリング機能。
  • AWS CloudFormation(英語)
    テンプレートを用いて効率的にサービス構成が行える機能。詳しくはこちらの記事を参照されたい。
  • Amazon Route 53DNSサービス。

 基本的にほとんどすべてのインフラストラクチャ・サービスと機能が利用できるようだが、一部(東京リージョンでは)利用できない例外もあるので注意してほしい。例えば、膨大なデータを効率的に処理できる「Amazon Elastic MapReduce」は、東京リージョンでは利用できない。

ネットワークのスループットやレイテンシ

 東京リージョンの新規開設でうれしいのは、他国のデータ・センターを利用するよりも距離が近くなるので、当然ながらスループットが向上することだ。これまで、米国生まれの代表的なクラウド・プラットフォームを利用しようとすると、「通常の国内ホスティング・サービスなどを利用する場合と比べて、ネットワークの遅延(=レイテンシ)が大きく、結果としてスループットが低いのではないか」と懸念される場合が少なくなかった。

 この懸念は、東京にあるデータ・センターを利用する東京リージョンであれば解消されるだろう(一般的なサーバ利用であれば、ほとんど問題にはならないと考えられる)。実際、下記のブログ記事などを参照すると、AWSのデータ・センターから隣接ISP(=インターネット・サービス・プロバイダ)までたどり着く際のレイテンシが最速で3ms(ミリ秒)を切る結果が出ており、文句の付けようがないほど高速なようである。

AWS東京リージョンの料金

 気になるAWS東京リージョンの料金だが、米国のバージニア北部にあるデータ・センターを使う場合と比べて(特にWindowsを選択する場合は)基本的に差異がない。

 例えばAmazon EC2のスタンダード・オンデマンド・インスタンス*1の場合、(執筆時点では)下記の表のような料金が設定されている(唯一差異があるのは、マイクロ・オンデマンド・インスタンスが、バージニア北部リージョンが「$0.03/時」なのに対し、東京リージョンは「$0.035/時」である点。「$0.03/時」は、1時間に0.03米ドルを意味し、日本円に換算すると1時間で3円程度である)。

インスタンスの種類 Windows 料金
スモール(デフォルト) $0.12/時
ラージ $0.48/時
エクストララージ $0.96/時
Amazon EC2のスタンダード・オンデマンド・インスタンスの料金表

*1 「オンデマンド・インスタンス」とはいわゆる従量課金制度で借りる仮想マシン・インスタンスのことである。このほかにも、「リザーブド・インスタンス」という定額制前払い制度や、「スポット・インスタンス」という需給に応じて変動するスポット価格による支払い制度が用意されている。

 東京リージョンの各サービスの利用料金については、下記の各リンク先を参照してほしい(リンク先で東京リージョンの料金を表示するには、[Region:]コンボボックスから「アジアパシフィック − 東京」を選択する)。

 ちなみに、以上の説明では、料金は米国ドルで課金されることになっているが、数カ月後には日本円で支払えるオプションが提供される予定である。

 また、AWSでは「無料利用枠(Free Tier)」も提供されている。「まずは無償で検証してみたい」という場合には、下記のリンク先のページを訪れて無料利用枠の内容を確認してほしい(そのページから利用申請も行える)。

AWS東京リージョンに関連するサポートやコミュニティ

 最後に、AWS東京リージョンに関連するサポートやコミュニティに関する各オンライン・リソース情報を簡単にまとめておこう。

 AWSでは、東京リージョン開設に伴い、日本語テクニカル・サポートが開始された。詳しくは下記のリンク先を参照してほしいが、無償のベーシック・サポートと有償のプレミアム・サポートの2種類が提供されている。

 ベーシック・サポートでは、オンライン掲示板で自由に質問を投稿でき、それに対してAWSの技術スタッフなどが丁寧に返答しているようだ。プレミアム・サポートでは、ブロンズ/シルバー/ゴールド/プラチナの4段階でさまざまなサポートが提供されている。金額やサポート内容は、公式ページを参照してほしい。

 また、AWSに関する情報交換を行うためのユーザー・グループが盛んに活動している。AWS東京リージョンの利用を検討している方は、ユーザー・グループに参加して日本国内のAWS利用者同士で助け合ってみてはいかがだろうか。

 海外ではすでに、AWSの.NET事例もいくつか出てきている(参考:「AWS事例の「Windows & .NET」カテゴリ(英語)」)。このような(AWSをインフラストラクチャとして用いた).NETアプリケーションは、今後、日本でも多数出てくることが予想される。AWS東京リージョンに興味を持った.NET開発者は、本稿を機に日本での.NET事例をたくさん作り上げていってみてはいかがだろうか。AWSでの.NET開発者の活躍に期待したい。end of article



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