特集
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RSSへの取り組み
かつてMicrosoftは、Webサイトが自身のメタ情報(タイトル、著者、情報の概要など)を発信し、ユーザーはそのWebサイトを「購読(subscribe)」することで更新情報を疑似的にプッシュしてもらうという、「Active Channel」という仕組みを発表したことがある。1997年にInternet Explorer 4.0でその実装が提供され、筆者も初めて作ったWebページで導入した経験がある(ちなみにいまでもオンライン)。
だがこの仕組みは、当時のマシンスペックにしては重すぎた「Active Desktop」、当時のネットワークにしては帯域幅を食いすぎたプッシュ技術(「PointCast」覚えてますか?)の2つが破たんしたことで、それほど広まることなく消えてしまった。
しかし、Active Channelと同種の競合技術が消えてからも、「メタ情報をWebサイトから発信して、更新通知に利用する」という発想は地道に進化を続けていた。そしてこのコンセプトは、数年前からブログの普及とともに再び表舞台に登場する。今度は「RSSフィード」という名前で。
ところが、多くのWebサイトがRSSによりメタ情報を発信し(MicrosoftのWebサイトでもRSS情報は発信されている)、WebサイトをWebブラウザではなくRSSリーダを使って閲覧するユーザーが増えてきたにもかかわらず、Microsoftは自社の製品にRSS機能を組み込めないでいた。
デスクトップ用のRSSリーダ・アプリケーションは高機能化してWebブラウザの代替にすらなり始め、RSS機能が組み込まれたWebブラウザが台頭しつつある状況の中で、Microsoftはこの分野において目に見えて遅れている。RSSに始まったXMLによる情報発信技術は、いまや単なるメタ情報発信フォーマットの枠組みを超えて、Webサイト構築の基盤となろうとしているにもかかわらずだ。
Internet Explorer 7のRSS対応
ビル・ゲイツ氏の基調講演の中で行われたデモでは、さまざまな新製品が持つRSS関連機能がいくつか紹介された。
Firefoxという非常に分かりやすいライバルがいるInternet Explorer 7(IE7)には、現行のFirefoxに存在する機能以外にも、目新しい機能がいくつか実装される。
■RSS自動発見
IE7では、Firefox同様、閲覧中のWebサイトにRSSフィード(RSS情報の提供)が存在する場合、ボタンを「点灯」して知らせてくれる。
IE7のRSSフィードを知らせるRSS自動発見機能 |
閲覧中のWebサイトにRSSフィードが存在する場合、ボタンを「点灯」して知らせてくれる。 |
ただし、この機能を利用するには、RSS AutoDiscoveryのタグをHTMLに含めておかなくてはならない。@ITのサイトのように、せっかくRSS情報を公開していても、それぞれのページにRSS AutoDiscoveryの情報が含まれていないと点灯しない。
■RSS表示
Internet Explorer 6(IE6)では、(HTMLではなく)RSS情報を返すURLを表示すると、XMLが表示されることが多かった。
IE6でRSS情報を開いた場合の表示例 |
RSS情報を返すURLを表示した場合、XMLデータがそのまま表示される。 |
IE7ではスタイルが適用され、人間が読める表示になる。また、enclosure要素(RSSにおいて添付データを指定するための要素)にも対応しており、この画面からポッドキャストなどをダウンロードすることもできる。
IE7によるRSS情報の表示例(1) |
IE7では、RSS情報は単なるXMLデータではなく、人間が読める形で表示される。RSS情報内にポッドキャストなどの添付データが含まれている場合は、この画面よりそれをダウンロードできる。なお日本語が正しく表示されていないのは、PDC05で配布されたWindows Vista英語版に付属のIE7であるため。 |
さらに、表示しているRSS情報はそのページから「お気に入り」に登録できる。
IE7によるRSS情報の表示例(2) |
IE7で表示したRSS情報は「お気に入り」にも登録できるようになっている。 |
もっとも、PDC05で配布された「Windows Vista」に含まれるIE7では、RSS表示をお気に入りに登録しても、それは単にWebサイトをお気に入りに登録したのと同じことにしかならない(Firefoxの「ライブブックマーク」のように、更新された情報が表示されたりはしない)。今後は、RSS表示画面でRSS情報に含まれる各項目を並べ替える機能や検索する機能なども提供される予定だ(Channel 9:Longhorn (heart) RSSを参照)。
RSS配信とは直接関係ないが、IE7から搭載されるツールバー上の検索ボックスには、既定でいくつかの検索エンジンが登録される予定だ。これに加えて、追加の検索エンジンを登録する際には、A9.comで策定された「OpenSearch 1.1」の形式を利用することが、Internet Explorer開発チームのブログで発表されている。
このOpenSearch仕様は、(検索キーワードを指定した)検索URLを構築する仕組みや、検索結果をRSS形式で返すことなどが盛り込まれた仕様である。残念ながら、この機能についてもPDC05で配布されたWindows Vistaに含まれるIE7には搭載されていない。
Outlook 12のRSS対応
PDC05では、Office 12の実装が公衆の前で初めて披露された。「Outlook 12」には、「RSS Subscriptions」というフォルダが追加されている。
すでにOutlookにはExchange Serverなどから取り込まれたメールをオフラインで読む機能があるが、Outlook 12ではRSS Subscriptionsフォルダに取り込まれたRSSの項目もオフラインで読むことができるという説明がされた。ちなみに、筆者の手元にはまだないが、PDC05の参加者全員にはOffice 12ベータ版へのアクセスが与えられるということだ。
Windows VistaのRSS対応
これまでのRSSリーダは、それぞれが独自にRSSの状況(未読アイテム数など)を管理していたため、例えばRSSリーダを別のものに乗り換えた場合には未読アイテムなどの管理は一からユーザーがやり直さなければならなかった(※4)。
※4 NewsGator(http://www.newsgator.com/)など、この問題にソリューションを提供しているツールもある。 |
筆者もブログやRSSというものの存在に気付いた当初は、デスクトップ用のRSSリーダを利用していたが、この問題がイヤで、現在はWebサーバ上で稼働しているRSSアグリゲータを利用している。
■Windows Vistaに実装されるRSS API
しかしWindows Vistaでは、RSSフィードを管理する機能がプラットフォームに組み込まれて提供される。これは単に、Windows Vistaに標準搭載されるIE7にRSS購読機能が付加されるというだけの意味ではない。RSSをバックグラウンドで取得し、フィードをフォルダに整理し、アイテムの未読管理を行う機能がOSそのものに実装されるということである。
さらに、この機能に対するAPIが公開されるため、このAPIを利用して開発されたRSSリーダの間では、アイテムの未読や既読の管理を独自にする必要がなくなる。例えば、IE7で購読したRSSフィードを、このAPIを利用するほかのRSSリーダで参照することができる。もちろん未読の状態は2つのアプリケーション間で共有される(※5)。
※5 PDC05で配布されたWindows Vistaに含まれるIE7は残念ながらこのAPIを利用していないので、実際に動作している様子は前掲のChannel9の映像を参照してほしい。 |
なお、このAPIの提供形態は.NET Frameworkのライブラリではなく「COM」である。PDC05でこの機能に関するセッションを担当したAmar Gandhi氏は、この理由をリーチが広がるからとしていた。Windows Script Host(WSH)上のスクリプトやC++&Win32ベースのアプリケーションなどにも間口を広げるためにCOM形式を採用したそうだ。もちろん、COMコンポーネントのAPIであっても、正しくタイプライブラリを用意すればCLR上のプログラムからアクセスは可能だ。
■Simple List Extensions仕様の実装とWindows VistaのGadget
また、Windows VistaのRSS機能には、Microsoftが策定した「Simple List Extensions仕様」の実装も含まれる。この仕様は、RSSフィードに含まれるアイテムを単に更新日付順に並べるだけでなく、ある要素の値でグループ化したり、更新日付とは別の要素の値で並べ替えたりすることを可能にする。
Simple List Extensions仕様を策定するために、MicrosoftはRSS 2.0仕様の実質的所有者であるDave Winer氏と共同で作業を行ったと伝えられている。Winer氏と共同作業を行うこと自体に賛否両論があるのも事実だが、これもMicrosoftが必死で後を追いかけようとしていることの1つの表れだろう。
さらに、Windows Vistaには「Gadget」(ガジェット)と呼ばれる小さなアプリケーションをデスクトップにいくつも並べる機能があるが、RSSリーダ機能を持つGadgetも標準提供されるようだ。
RSSリーダ機能を持つWindows VistaのGadget |
Gadgetはサイドバーやデスクトップに並べることのできる小さなアプリケーションである。 |
当然、Gadgetを作成するためのAPIも公開される予定であり、Gadget形式の独自RSSリーダを開発することも可能になる。
■RSS対応でOSとしての優位性を高めるWindows Vista
Windows VistaにRSS管理機能を標準搭載することで、デスクトップとインターネットをより強く結び付けるという、Windows 95のころからいっていたMicrosoftの目指すものが実現しつつある。Active DesktopからRSSへと手段は変わっても、デスクトップ・クライアントがインターネットを最大限に活用できるようにすることで、MicrosoftとしてはデスクトップOSをもっと使ってもらうのが目的だ。
Webサイト側では、OSにRSS管理機能が標準搭載されることで、インターネット上にあるデータをより簡単に消費者の手元に届けることができるようになる。いまはまだRSSというとブログやニュース・サイトの更新通知くらいにしか思われていないが、例えばオンラインショッピング・サイトがタイムセールの情報をRSSで届けたり、カテゴリごとのお薦め商品を紹介したりすることにももちろん使える。
セッションでも触れられたが、今後はWeb上にある読み取り専用データのほとんどがRSSの仕組みを介して消費者に届けられることになるだろう。OSの標準機能としてAPIを用意し、アプリケーションの開発を促し、WebサイトがRSS情報を提供する動機が強まれば、Windows VistaのOSとしての優位性になる。
単にRSSを現在のRSSとして対応するだけではなく、そこにいまよりもよい世界を見せることで後追いのハンデを埋める。Microsoftらしい動きが見える。
INDEX | ||
[特集] PDC05レポート | ||
巻き返しが始まるMicrosoftのRSS/Ajax戦略 | ||
1.PDC05の3つのテーマ | ||
2.RSSへの取り組み | ||
3.Ajaxと新世代Webアプリケーション | ||
動的プログラミング言語へと発展するC# 3.0とVB 9.0 | ||
1.動的型付言語への憧憬 | ||
2.型推論とラムダ式/Extension Methodsの導入 | ||
3.クエリ構文の統合「LINQ」/DLinqとXLinq | ||
4.Visual Basicを再び動的プログラミング言語にする試み | ||
- 第2回 簡潔なコーディングのために (2017/7/26)
ラムダ式で記述できるメンバの増加、throw式、out変数、タプルなど、C# 7には以前よりもコードを簡潔に記述できるような機能が導入されている - 第1回 Visual Studio Codeデバッグの基礎知識 (2017/7/21)
Node.jsプログラムをデバッグしながら、Visual Studio Codeに統合されているデバッグ機能の基本の「キ」をマスターしよう - 第1回 明瞭なコーディングのために (2017/7/19)
C# 7で追加された新機能の中から、「数値リテラル構文の改善」と「ローカル関数」を紹介する。これらは分かりやすいコードを記述するのに使える - Presentation Translator (2017/7/18)
Presentation TranslatorはPowerPoint用のアドイン。プレゼンテーション時の字幕の付加や、多言語での質疑応答、スライドの翻訳を行える
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