Microsoft.NETが目指す次世代情報環境とは?

1.インターネットの過去・現在・未来


デジタルアドバンテージ 小川誉久
2000/11/15

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 たとえば今、東京にいる読者が、大阪に出張して、取引先の担当者とホテルの会議室でミーティングを行うことになったとしよう。有能な秘書でもいれば、すべての手配を任せられるのだが、あいにく読者はすべての手続きを自分でしなければならない。具体的には、東京−大阪間の往復航空券の予約、ホテルの会議室を予約し、最終的な時間と場所を先方に通知する。さて、過去・現在・未来で、この作業はどのように変わるだろうか。

過去:前インターネット時代

 インターネットが利用できなかった昔なら、電話やFAXを駆使することになるだろう。まずは先方に電話をして、都合のよい日時を問い合わせる。幸い、いくつか候補となる日時をもらえたので、次は航空会社の予約センターに電話をして、時刻表を確認して適当な便を選び、その便の空席状況を確認し、航空券の予約を入れる。空いている時期ならよいが、混雑期にぶつかってしまうと、手頃な便に空席を見つけられないかもしれない。東京−大阪間には各社が多数の便を用意しているので、ある航空会社で適当な便を見つけられなければ、別の航空会社の便を使うことも可能だが、それには別の航空会社の予約センターに電話をかけ直して、再度、最初から条件を告げなければならない。

前インターネット時代には、電話やFAXを駆使して出張予約を行う必要がある。
相手によって対応はまちまちで、別のところに問い合わせるたびに、条件を最初から説明しなければならない。混雑期でどこも予約がいっぱいだったりすると、半日仕事にもなりかねない。精神的な負担も非常に大きい。

 ホテルの予約も同様である。ホテルに電話をして、予約したい日時や必要な会議室の大きさ、プロジェクタなどの必要となる付帯設備を相手に告げ、適当な空きがあるかどうかを調べる。ホテルのグレードにはかなり幅があるだろうから、相手に失礼のないレベルで、かつ予算の範囲内にあるものを選ぶ必要があるだろう。適当な空きがなければ、別のホテルを当たればよいが、この場合もそのたびに条件を説明しなければならない。

 勘どころを押さえていればスムーズにいくかもしれない。しかしそうでなければ、結構な時間をとられるだろう。最終的に決定した日時と場所は、相手にFAXで知らせればよいだろうか。いや、万一別のFAXに紛れてはいけないし、失礼になってもいけないから、直接電話をかけることにしよう。しかし電話をかけたところ、あいにく相手は留守だったので、会議の開催日時と開催場所となるホテル、会議室の番号などの伝言を頼んだ。やれやれ、本当にひと仕事である。

現在:インターネット時代

 あらゆる場面で、というわけにはいかないまでも、インターネットが広く普及した現在では、いちいち電話をかけなくても、Webブラウザを使って航空機の予約状況を確認したり、ホテルの予約を行ったりすることができるようになった。オペレータに面倒な条件を電話で告げたり、オペレータの説明に耳をすましたりする必要はない。会社(あるいは自宅)の机上にあるパソコンでWebブラウザを起動して、航空会社やホテルのホームページにアクセスすれば、現在の予約状況をリアルタイムに確認し、条件を満たす航空券やホテルの会議室を簡単に予約できる。混雑時期では、条件を満たす物を見つけるのに多少苦労するかもしれないが、複数の航空会社やホテルの予約状況を調べるのは極めて容易である。条件の指定にはキーボードから入力したデータを使うので、電話と違って聞き間違いなどがないし、何より本来必要な情報(日時や会議室の受け入れ可能人員など)だけを素早く指定することができる。また好きなだけ比較検討しても、オペレータの手を煩わせることもないから気が楽だ。

 しかし複数の航空会社やホテルにアクセスするには、アクセス先のURLをそれぞれ指定する必要がある。また各社のWebサイトの構成やデザイン、やり取りする情報や手順などのユーザー・インターフェイスはまちまちであり、それぞれの流儀に従って、予約状況を確認したり、予約を入れたりしなければならない。つまり大幅に簡便になってはいるものの、基本的には、「前インターネット時代」における電話が、Webに置き換わっただけと考えてよい。

 都合のよい日を先方に問い合わせたり、最終的な会議の開催日時や場所を先方に通知したりするときには、電子メールを活用することができる。相手の時間に割り込まずにすむし、時間を気にせずメッセージを送信できる点が便利だ。ただし、メールとスケジュール管理は互いに独立しており、ユーザーはそれらを別々に管理し、使用している(ユーザーが手作業でスケジュール帳を確認してメールしたり、もらったメールから会議の開催日をスケジュール帳に反映したりする)。

Webを利用した航空機の空席状況確認

インターネットを利用したB2Cシステムの導入が常識化しつつある現在、航空券やホテルの予約などは、Webブラウザを使って簡単に行えるようになった。しかし複数の航空会社やホテルにアクセスするには、各社のURLを指定してアクセスする必要があるし、ユーザー・インターフェイスなどは各社それぞれの流儀に従う必要がある。画面は全日空のWebサイトで東京−大阪便の予約状況を確認したところ。

未来:次世代インターネット

 今述べた現代のインターネット・サービスから、より発展したサービスのあり方について考えてみよう。今回の大阪出張のケースで、最も便利なのは、冒頭にも述べた「秘書」に任せきりにすることだろう。会議予算や会議への参加人数など、必要最低限の情報だけを秘書に与えて、先方のスケジュールの問い合わせ、航空券の手配やホテルの手配、最終的な日時と場所の先方への連絡をお願いするというわけだ。

 賢明な読者ならお気付きのとおり、本物の秘書の代わりに、ソフトウェアを使うことができれば安上がりである。インターネットの普及以前には絵空事でしかなかったことだが、多くのコンピュータがインターネットに接続され、これを経由して、コンピュータ同士が互いに情報を交換できる現代なら、少なくともTCP/IPネットワークというレベルでは、それが可能になっている。

 問題はそれよりも上位の通信プロトコルである。前述したとおり、現代のインターネットのWeb情報サービスでは、サーバからの情報はHTMLデータの形式でやってくる。ここに必要な情報が記述されているのだが、形式はまちまちで、ソフトウェアがそこに記述された情報を判別するのは事実上不可能である。「ソフトウェア秘書」が機能できるようにするには、航空会社やホテルのWebサーバが、ソフトウェアで判別可能な状態で情報を提供してくれる必要がある。つまり人間がアクセスできるだけでなく、ソフトウェアがアクセスできるインターフェイスをWeb情報サービスに追加するということだ。これによりソフトウェアは、インターネットを経由して、遠隔地にあるソフトウェアと会話(コミュニケーション)できるようになる。

 次世代インターネットが目指している環境がまさにこれである。ソフトウェアに対し、人間が最低限の情報を与えれば、後はソフトウェア同士が会話し、適切に処理を進めてくれる。今回のケースで、先方のスケジュール情報がソフトウェアからアクセス可能になっているなら、開催可能日の問い合わせや、最終的な開催日時の予定も、ソフトウェアが自動的に予定を読み出したり、予定を繰り入れたりすることが可能だろう。

現代インターネットのその他の問題点

 このほかにも、現在のインターネットには、大きく次のような問題点がある。

  • Webサイト同士は独立しており、ユーザー情報などはそれぞれで登録しなければならない。ユーザーを識別するためにパスワードを指定させるサイトも多いが、困ったことに、パスワードに指定できる文字列の制限がまちまちで(文字数制限や、「必ず数字を1つは含める」などの文字制限など)、同じパスワードを複数のサイトで使い回すことはできない。このためインターネットのヘビー・ユーザーは、各サイトと、そのサイト用のパスワードを記録した膨大なメモを持ち歩かなければならない。

  • Webで使用されるHTTPプロトコルでは、Webページを表示するたびにクライアントがサーバに接続し、1ページ分のデータを受け取ると切断してしまうので、クライアントの現在の状態(ステート:state)をサーバ側でトラッキング(追跡)することが難しい。これを可能にするために、HTTP Cookieを利用したり、URLに呪文のようなコードを添付したりして対処しているが、到底エレガントな方法とは言えない。この副作用として、オンライン・ショッピング・サイトの注文画面において、ブラウザの[戻る]ボタンの使用が禁止されるというものもあるが、経験豊富なユーザーはともかく、使い慣れた[戻る]ボタンを使えない理由を一般ユーザーが理解するのは困難だ。

URLを利用してユーザーのステートをトラッキングしているWebサイトの例

1ページのデータを受け取るたびに接続を切断するHTTPプロトコルでは、一連のWebページにわたるクライアントの操作の状態(ステート:state)をサーバ側でトラッキング(追跡)することが難しい。これを解決する1つの手法は、このようにURLにユニークなIDを埋め込み、これをサーバ側で解釈するというものだが…。

  • 今や電子メールは、企業ユーザーにとって不可欠のツールとなり、毎日大量のメールがインターネット上でやり取りされている。その中には、企業機密に属するような情報も少なからず交換されているものと考えられるが、それらのほとんどは暗号化されない平文(ひらぶん)として、そのままの状態で送受信されている。悪意のあるユーザーがその気になれば、こうしたメッセージを覗き見したり、一部を改変したりできるだろう。

 ソフトウェアが会話可能な情報サービスをインターネット上に展開することに加え、こうした問題点を解消し、より機能性や信頼性の高い情報サービスを利用可能にしようとするのが、Microsoft.NETを始めとする、各社が目指す次世代インターネットの姿なのだ。


 INDEX
  [特集]Microsoft.NETが目指す次世代情報環境とは?
   1.インターネットの過去・現在・未来
     2.HTTP/HTMLからSOAP/XMLへ
     3.マイクロソフトが提唱する次世代インターネット・ビジョン、Microsoft.NET
     4.Web ServiceとWeb Application、Microsoft.NETの関係
     5.次世代インターネットの主導権を握るのは誰か?


 



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