解説インサイド .NET Framework第3回 アセンブリのアイデンティティ(後編)インフォテリア株式会社吉松 史彰 2002/05/23 改訂版はこちら(2003/07/02) |
署名検証機能の無効化
.NET Frameworkには、アセンブリに署名をせずに公開キーだけの埋め込みを可能にする遅延署名機能があることを前回の最後で説明した。今回はまず、遅延署名したアセンブリを作って、それを利用するコードを書いてみよう。例えば次のようなコードからアセンブリを作る。
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遅延署名したアセンブリを生成するサンプル・コード(util.cs) |
これを次のコマンドでコンパイルする。
% csc /t:library util.cs
util.dllというファイルだけで構成されるシングル・ファイル・アセンブリが作成された。今度は、これを利用するコードを書いてみよう。
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上記のアセンブリを利用するサンプル・コード(user.cs) |
これを次のコマンドでコンパイルする。
% csc /r:util.dll user.cs
お見事! コンパイルできたはずだ。ここで、出来上がったuser.exeをildasm.exeで確認してみると、次のようにuser.exeがutilアセンブリを参照している様子を確認できる(抜粋)。
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user.exeがutilアセンブリを参照している様子を逆アセンブラildasm.exeで確認する(抜粋) |
実際の値は、読者の公開キーに対応する値になるので上記とは異なるはずだが、参照できていることは確認できるだろう。
ではこれを実行してみよう。コンソール・プログラムなので、コマンドラインでuser.exeを実行する。すると、次のようなエラーになってしまう。
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作成したuser.exeを実行したときに表示されるエラー |
これはどういうことか? 共通言語ランタイム(CLR)は、厳密名付きアセンブリをロードするときには、ほとんどの場合にロードする直前に署名の検証を行う。つまり、インストールされたアセンブリが、開発者が秘密キーで署名をしたあとに改ざんされていないことを確認するわけだ。ところがここで作ったアセンブリは遅延署名しているので、まだ秘密キーで署名されていない。にもかかわらず厳密名を持っているので、CLRは署名の検証を行い、改ざんされたとみなしてアセンブリをロードしてくれないのだ。
これでは結局開発作業が進まないので、遅延署名したアセンブリは一時的に署名の検証を無効にする必要がある。これもsn.exeで行うことができる。
% sn.exe -Vr util.dll
sn.exeに“-Vr”オプションとアセンブリのマニフェストを持っているファイル名を指定すると、そのアセンブリに対しては署名の検証を行わないようになる。何だかセキュリティ・ホールを作り出しているような気がしてしまうが、これはあくまでも開発中の一時的な処置だ。
これでもう1度user.exeを実行してみると、今度はきちんと実行できるはずだ。
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遅延署名機能を一時的に無効化してuser.exeを実行する |
アセンブリの厳密名が変わらない限り、“sn.exe -Vr”は1度だけ行えばよい。アセンブリをビルドするたびにやり直す必要はない。ただし、アセンブリの厳密名とは、簡易名だけではなくバージョン、カルチャ、公開キーが含まれていることに注意しなければならない。バージョンを変えてしまったりすると、“-Vr”はもう1度やり直しだ。ちなみに、Visual Studio .NETのプロジェクトには、デフォルトでAssemblyInfo.cs(Visual Basic .NETの場合にはAssemblyInfo.vb)というファイルが作られている。このファイルには、以下のとおりバージョン番号がデフォルトで指定されている。
[assembly: AssemblyVersion("1.0.*")]
こうなっていると、バージョン番号はビルドするたびに変わってしまうので注意が必要だ。この場合、ビルドするたびにバージョン番号が“1.0.xxx.yyy”になり、xxxとyyyの値がどんどん変わってしまう。そうなると“-Vr”はそのたびにやり直しである。Visual Studio .NETを使っている場合には最後の“*”は取り除いておいた方がいいだろう。
遅延署名アセンブリへの署名
さて、開発が完了して出荷プロセスに入ったら、今度こそ本当にバルマーCEOに承認をもらって秘密キーで署名しなければならない。アセンブリをインストールするお客さまは、決して“sn.exe -Vr”などやってはくれない(し、やってはいけない)からだ。何とか30個ほどハンコをもらって秘密キーを入手できる体制になったら、再びsn.exeの出番だ。今度は“-R”オプションで署名を行う。
% sn.exe -Rc util.dll CspContainer
これでutilアセンブリは正しく署名された。あとはzipファイルに固めるなりCDに焼くなりして配布されるのを待つばかりだ。なお、あらかじめコンパイルしてあるuser.exeを再度コンパイルする必要はない。user.exeはもともと公開キーしか参照していないので、署名されようがされまいが、マニフェストに記述される内容には変化はないからだ。
署名検証機能の再有効化
アセンブリはすでに正しく署名されているので、utilアセンブリに対する署名検証機能を再度有効化する必要がある。最後にもう一度sn.exeの出番がある。
% sn.exe -Vu util.dll
“-Vu”オプションで署名検証機能を有効化する。なお、“-Vx”を使えば、これまでに無効化したアセンブリの署名検証機能をすべて破棄して、デフォルトの状態(すべての厳密名付きアセンブリが検証される)に戻すことができる。
INDEX | ||
解説 インサイド .NET Framework | ||
第3回 アセンブリのアイデンティティ(後編) | ||
1.遅延署名したアセンブリを試す | ||
2.アセンブリの名前の参照 | ||
3.まとめ | ||
「解説:インサイド .NET Framework 」 |
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