解説実例で学ぶWindowsプログラミング第1回 MDI型Windowsアプリケーションの基礎開発デジタルアドバンテージ2004/11/10 |
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■メニュー項目の処理の実装
メニュー項目の処理を実装するには、それぞれのメニュー項目のClickイベント・ハンドラを追加する必要がある。これには、先ほど作成したメニュー項目をそれぞれダブルクリックしていけばよい(ただし親メニュー項目である[ファイル]、[ウィンドウ]、[ヘルプ]は子ニュー項目をまとめるだけのものなので、これらに対するClickイベント・ハンドラは追加しなくてよい)。さらに、フォームをダブルクリックして、Loadイベント・ハンドラも同時に追加する。すべてのイベント・ハンドラの追加が終われば、各ハンドラに次のコードを実装しよう。
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メニュー項目の処理を行うサンプル・コード(C#) | |
VB.NETのサンプル・コード(winexp01_01.vb)
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これらのコードは非常に単純なので詳しく説明する必要はないだろう。よってここでは、ごく簡単に説明するにとどめる。
menuItemStartMenuコントロール(メニュー項目の[スタート メニュー])のClickイベント・ハンドラと、MainWindow(メイン・ウィンドウ)のLoadイベント・ハンドラでは、それぞれの子ウィンドウのインスタンスを生成して表示する処理を実装している。ここで注意が必要なのは、そこで生成した子ウィンドウ・オブジェクトのMdiParentプロパティに、メイン・ウィンドウのオブジェクト(this)を設定しているところだ。これにより、そこで生成されたウィンドウがMDIアプリケーションの子ウィンドウとして機能する。
menuItemCascadeコントロール([重ねて表示]メニュー項目)、menuItemTileHorizontalコントロール([上下に並べて表示]メニュー項目)、menuItemTileVerticalコントロール([左右に並べて表示]メニュー項目)のClickイベント・ハンドラでは、フォームのLayoutMdiメソッドによりウィンドウの整列を行っている。LayoutMdiメソッドについては、MSDNのドキュメントを当たってほしい。
menuItemAllCloseコントロール(メニュー項目の[すべて閉じる])のClickイベント・ハンドラでは、すべてのMDIアプリケーションの子ウィンドウを1つずつ取り出して、それらを順に閉じていく処理を行っている。
以上でメニュー項目の処理を実装できた。ここまでで実装してきたアプリケーションを実際に実行してみよう。
実装したMDIアプリケーションの実行画面 |
MDIアプリケーションを実行すると、メニュー項目の処理はすべて正常に実行できることが確認できる。しかし、1点だけ、開発者の意図どおりに動いていない個所がある。それは、メニュー・バーの[スタート メニュー]を選択すると、StartMenuWindowウィンドウがいくつも表示できてしまうことだ。次に、この問題を修正するために、StartMenuWindowウィンドウに対して1つのウィンドウしか表示しない仕組みを追加することにしよう。
■シングルトンの実装
オブジェクトが1つしか生成できないことを保証する設計の仕組みは、デザイン・パターン(=よく使う汎用的な設計パターンをまとめたもの)の世界では、「シングルトン・パターン」と呼ばれる。このシングルトン・パターンをStartMenuWindowフォームに適用すれば先ほどの問題を解決することができる。具体的には、「StartMenuWindow.cs」に次のコードを加筆・修正する(追加・変更するのは太字の部分のみ)。
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Windowsフォームにシングルトンを適用するサンプル・コード(C#) | |
VB.NETのサンプル・コード(winexp01_02.vb)
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このコードでは、StartMenuWindowクラスのインスタンスを生成する手段を静的メソッドの「GetInstanceメソッド」のみに限定し、さらにそのインスタンスを静的フィールド変数の「instanceフィールド変数」に1つだけ保持・管理するような仕組みとなっている。これにより、クラス構造のレベルで、StartMenuWindowオブジェクトが確実に1つしか存在しないことを保証する。
たとえもし、クラス外部でnew演算子によりStartMenuWindowオブジェクトを生成しようとするコードを記述しても、StartMenuWindowクラスのコンストラクタのアクセス修飾子が「private」となっているために、クラス外部からStartMenuWindowクラスのコンストラクタにアクセスできず、コンパイル・エラーとなる。
よって、new演算子を使ってStartMenuWindowオブジェクトを生成していた先ほどのコードは、StartMenuWindow.GetInstanceメソッドを使ったコードに置き換える必要がある。具体的には次のように修正する。
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修正前:
StartMenuWindow startMenu = new StartMenuWindow();
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修正後:
StartMenuWindow startMenu = StartMenuWindow.GetInstance();
本稿でこの修正が必要な個所は次の2カ所である。
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menuItemStartMenuコントロール([スタート メニュー]メニュー項目)のClickイベント・ハンドラ
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MainWindow(メイン・ウィンドウ)のLoadイベント・ハンドラ
これらの修正を行って再度プログラムを実行すると、StartMenuWindowウィンドウが常に1つしか起動しないのを確認できる。もちろん本稿のようにわざわざシングルトンを使わなくても、同様の処理は実現可能である。例えば、子ウィンドウのインスタンス(=この例では「StartMenuWindowウィンドウ」)が作成されたかどうかのフラグを、メイン・ウィンドウのクラス内に作成して、そのフラグを使って(メイン・ウィンドウ側で)子ウィンドウのインスタンスが1つしか生成されないように管理すればよい。しかし、それではメイン・ウィンドウと子ウィンドウの依存性が増してしまう。2つのクラスの依存性が増すと、一方のクラスの変更が、もう一方のクラスに(知らないうちに)影響を与える可能性が高くなる。よって、本稿のようにシングルトン・パターンを使ってクラス内で自身のインスタンス管理を完結させた方が、(ほかのクラスからの影響に対して)より頑健なクラスになるといえるだろう。
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以上で今回は終わりだ。ここまでの実装でMDI型Windowsアプリケーションの基礎部分が作成できたことになる。次回以降の解説で、さらにこのMDIアプリケーションを拡張していく予定だ。
次回は、業務アプリケーションでは欠かせない「使いやすさを追求したスタート・メニュー画面の構築」について解説する。スタート・メニュー画面とは、業務処理画面に簡単にアクセスするためのメニュー画面である。次回もお楽しみに。
INDEX | ||
解説:実例で学ぶWindowsプログラミング | ||
第1回 MDI型Windowsアプリケーションの基礎開発 | ||
1.本連載で開発するWindowsアプリケーションについて | ||
2.MDIアプリケーション開発の準備 | ||
3.MDIアプリケーションへのコントロールの追加 | ||
4.MDIアプリケーションのメニュー項目処理の実装 | ||
「解説:実例で学ぶWindowsプログラミング」 |
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