Linux Book Review
Linux精神のルーツを知るための4冊
中澤勇
@IT編集局
2001/7/20
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WindowsとLinuxは、まったく異なる歴史、文化の中で発展してきた。各OSの根底にある思想の違いは使い勝手にも影響を及ぼし、これが新規ユーザーを混乱させる。Linuxをより理解したいと望むなら、その精神的な背景も知っておかなければならない。
Linuxの背景にあるものを挙げるなら、それは「UNIX」と「オープンソース」になるのではないだろうか。無論、この2つがすべてではないし、見方を変えれば不正確な面もある(Linuxに含まれるツールの多くがGNU版であることを考えると、「フリーソフトウェア」という用語の方がふさわしいかもしれない)。ただ、UNIXとオープンソースが欠かせない要素であることは間違いない。
この観点から、4冊の書籍を選んでみた。UNIXの歴史やその哲学、UNIXやLinuxの開発の基盤となったオープンソースという開発形態や思想、そして作者自らが語るLinux誕生秘話など。新たにLinuxの世界に入ってきた人にとって、これらは新鮮で刺激的な体験を提供してくれるだろう。そこには、Windowsでは得られなかった「何か」がある。
UNIX哲学に触れてみよう |
UNIXという考え方 Mike Gancarz 著 オーム社 2001年2月 ISBN4-274-06406-9 1600円 |
WindowsからLinuxの世界に足を踏み入れると、初めはその違いにカルチャーギャップを感じるだろう。この2、3年でKDEやGNOMEが登場し、Windowsに「近い」使い方もできるようになったが、古参UNIXユーザーにとって、それは「UNIX的ではない」と感じさせるかもしれない。
では、「UNIX的」とは何だろうか。本書は、9つの定理を挙げて、UNIX的な「考え方」を説く。それは、「思想」あるは「哲学」と呼んでもいいかもしれない(実際、原題は『The Unix Philosophy』である)。「プログラムは小さく」「単機能に」「シェルスクリプトで書け」などのUNIX的な考え方を紹介しながら、なぜそれがうまくいくのか、UNIX的でないプログラムがなぜ失敗するのかを明快な論法で明らかにしていく。
全体的に、プログラムの使い方というよりプログラムの作り方に対する話が多く(「移植性を高めろ」「早く試作しろ」など)、一見するとエンジニア向けともとれるかもしれない。しかし、自分でコードを書かない人にとっても、UNIX的な考え方から学べることは多い。本書を読めば、LinuxやUNIXのコマンドがなぜかくも無愛想なのかが理解できるだろう。本書で、Linuxの根底に流れているUNIX哲学に触れてみてはいかがだろうか。
UNIXはなぜ生まれたのだろうか? |
UNIXの1/4世紀 ピーター・H・サルス 著 アスキー 2000年12月 ISBN4-7561-3659-1 2400円 |
本書は、UNIXの誕生からSystem VとBSDへの分岐、Sun Microsystemsなどの登場を経て現在にいたるまでの4分の1世紀を、多くの「ハッカー」たちの活躍を交えて叙述したものだ。
周知のこととは思うが、UNIXはある日突然完成したわけではない。現在、当たり前のように使われているlsやcp、catといったコマンド、viなどのエディタが実装された時期はバラバラで、当然オリジナルの作者も異なる。UNIXが現在の形に形成されていく過程は実に興味深い。また、UNIXの開発、普及に際しては、現在でもコンピュータ業界の重鎮として活躍する人々の名が各所に現れる。「そろそろ彼が登場するハズ」などと思いながら読み進めてみたり、思いがけない名の登場に「この人、こんなことにもかかわっていたのか」と驚いてみたり、まったく知らなかった事実を知ったり。予備知識量に応じてさまざまな読み方ができるのも本書の魅力だ。
最後に、個人的に気に入っている部分を紹介しよう。
メール着信を通知する「biff」はHeidi氏の飼い犬の名であり、郵便配達員にいつも吠えた(結果として、手紙の到着が分かる)という故事に由来することはあまりにも有名だ。しかし、Heidi氏によると実際は……。
中心人物たちが語るオープンソース運動 |
オープンソースソフトウェア 彼らはいかにしてビジネススタンダードになったのか クリス・ディボナ、サム・オックマン、マーク・ストーン 編著 オライリー・ジャパン 1999年7月 ISBN4-900900-95-8 1900円 |
いまや、決して無視できないムーブメントとして各所で取り上げられている「オープンソース」。しかし、それは最近になって登場した「流行」ではない。それは、多くの人々(そして、本書に寄稿している人々)の手によってはぐくまれてきた文化なのだ。
本書は、「フリーソフトウェア」あるいは「オープンソース」運動の中心人物たちが、それぞれの立場からオープンソースを語ったものである。伝道師エリック・レイモンド、フリーソフトウェアを提唱するリチャード・ストールマン、Perlの作者ラリー・ウォール、Red Hat創立者ボブ・ヤングそしてリーナス・トーバルズなど。それぞれ異なる立場、考えを持つ14人がオープンソースを浮き彫りにする。
テーマは同じ「オープンソース」だが、筆者によってその切り口には大きな違いがある。文化的あるいは歴史的側面ならエリック・レイモンドやリチャード・ストールマン、カーク・マクージェックが面白い。ビジネス的側面についてはマイケル・ティーマンやボブ・ヤングらの章が興味深い話を提供してくれる。
オープンソース運動とは何か? 本書がその答えを教えてくれるだろう。
作者本人が語る「Linux」とは? |
それがぼくには楽しかったから 全世界を巻き込んだリナックス革命の真実 リーナス・トーバルズ、デイビッド・ダイヤモンド 著 小学館プロダクション 2001年5月 ISBN4-7968-8001-1 1800円 |
いまさら紹介するまでもないとは思うが、やはり本書を外すわけにはいかないだろう。「UNIX」ではなく「Linux」のルーツを求めるのに、これほどふさわしいものはない。
本書は3部構成になっている。第1部は家族や少年時代、コンピュータとのファーストコンタクト。第2部はLinux開発のきっかけから公開。第3部はなぞに満ちたトランスメタ就職と米国移住から現在までが語られる。
基本的な縦軸の各所には、「すべての始まり」としてあまりにも有名な「Due to a project I'm working on (in minix)……」というニュースグループへのポスト、タンネバウム氏との論争(これについては前掲の『オープンソースソフトウェア』が詳しい)、Linuxの商標問題、リチャード・ストールマンやスティーブ・ジョブス、ビル・ジョイとの邂逅といった有名なエピソードが織り込まれている。以前からLinuxに注目していた人にとっては新味に欠けるかもしれないが、本人によってあらためて語られると違ったおもむきがあって面白い。また、Linuxやオープンソースに対する彼の考え方も、本書で明確に示されている。
日本語訳はあまり誉められるレベルではないが(「Apacheは、ウェブ・サーバーで使われてる中で、一番人気のある商用リナックスだった」って何だ?)、それを差し引いても有り余る魅力が本書にはある。「ビッグ・ブルー」をも動かしたLinuxがなぜ生まれたのか、本書であらためて確かめてほしい。
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Linux Square Book Review |
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