Linux導入事例 (5)
イーエムシーエム

Linuxによる携帯メール転送サーバの
構築と運用

北浦訓行
2001/2/9

 有限会社イーエムシーエム(以下、イーエムシーエム。2月に株式会社化を予定)は、EmCm Service(http://radio.mtc.co.jp/)という、インターネットメールを携帯電話やPHS向けに転送する「メール転送サービス」を企画・運営している。イーエムシーエム自体は、システム・インテグレータではなく、携帯情報端末などを利用したシステムの企画などのコンサルティングを主たる業務にしている。このような会社でのLinuxの位置づけなどに迫ってみる。

EmCm Serviceの概要

 携帯電話やPHSによるインターネット利用は、爆発的な広がりを見せている。特に、電子メールの利用に関しては、若年層を中心として活発に利用されている。ビジネスシーンにおいても、電子メールはかつてのFAXのように欠かすことのできないツールである。会社のメールアドレスあてに届くメールを、自分の携帯電話に転送するように設定している方も多いだろう。

 しかし、インターネットメールをそのまま携帯電話に転送すると、

・メッセージ長の制限によって、肝心な部分が読めないことがある
・改行や引用などが含まれていて、読みにくい

といった問題が発生する。特に、最初の問題点は致命的だ。これらの問題を解決するために開発されたのが、EmCm Serviceなのだ。

EmCm Serviceのホームページ。Web上ですべての設定手続きが可能だ

 EmCm Serviceを利用するには、利用申請を行い、転送先の携帯メールアドレスを登録する。EmCmからは、転送用のメールアドレスが1つ交付されるので、会社あてのメールをEmCmの転送用メールアドレスに転送する。転送されたメールは、EmCmのメールサーバ内にあるさまざまなフィルタによって携帯メール向けに整形され、携帯電話あてに送信される。

EmCm Service概念図

 EmCmのフィルタには、選択転送・非転送、転送時間帯指定、分割転送、自動応答転送、メール圧縮、ヘッダ挿入、例外メール指定などの機能がある。また、Webコンテンツのテキスト部分だけを抽出して、携帯メールアドレスあてに送信する機能もある。

EmCm Serviceの開発と運営

 EmCm Serviceは、Red Hat Linuxで開発され、運営も同OS上で行われている。ハードウェアは、120MHzのPentiumに4GbytesのHDDと64Mbytesのメモリを搭載してスタートしたが、会員数の増加によってCeleron 300MHzA+6Gbytes HDD+64Mbytesメモリ、Pentium III+8Gbytes HDD+256Mbytesメモリへと強化され、現在では500MHzのPentium IIIに8Gbytes HDDと256Mbytesのメモリを搭載した3台のPCで運営されている。

 Red Hat Linuxを採用した理由について、イーエムシーエム 代表取締役社長 竹内宏氏は「EmCm Serviceは、設立に参加したある会社に所属していたときに、業務外で始めたサービスなのです。私はもともとUNIX系のエンジニアですから、PC UNIXであれば問題はなかったのです。そのときはたまたま周囲にLinuxユーザーがいて、サーバの設定を依頼したために、Slackware Linuxのシステムになりました。独立してからは、インストールが簡単なRed Hat Linuxにしたのです」と語る。

有限会社イーエムシーエム 代表取締役社長 竹内宏氏。背後にはおびただしい数の携帯電話が

 EmCm Serviceは、基本的には文字列処理システムなので、PerlとCによって構築されている。「Perlは使いやすく、インタプリタのように作ってすぐに試せます。実験システムを作るには非常に便利なのです。EmCm Serviceは、NIFTY-Serve(当時)のISDNスーパーユーザーズフォーラムで意見を募りながら、試行錯誤しながら作り上げたシステムなので、Perlはうってつけでした」(竹内氏)

 現在は、Perlで記述した部分が80%で、残りがCで書かれている。「EmCm Serviceでは、1通メールを受け取ると、さまざまなプロセスが起動します。過去には、ロードアベレージが90までいったのを目撃したことがあります(笑)。でも、Linux自体がダウンすることはありませんでした。これまでに発生した障害は、プログラムのバグが原因でした。事故でいきなり電源が切断されたことも何度かありましたが、一部のファイルが読めなくなったことが1度あっただけです」(竹内氏)

 MTAはsendmailを利用している。EmCmのようなシステムではqmailの方が効率がいいのだが、sendmail.cfに慣れてしまったので、そのまま使っているとのことだ。

 なぜ、NIFTY-ServeのISDNスーパーユーザーズフォーラムで意見を募ることになったのであろうか。「ISDNユーザーズフォーラムは、1995年にISDNフォーラムが分割・拡大してできたフォーラムで、技術レベルの高い人たちが集まっています。当時開始されたPHSがISDNのシステムを利用していたため、ISDN技術に関心を持っている人たちが、PHSにも興味を持ち、意見交換が行われたのです」(竹内氏)

 ちなみに、EmCmというネーミングは、「Email to きゃらメール」に由来している。きゃらメールとは、NTTドコモが行っているPHS向けのメッセージサービスで、PHS間だけではなく、インターネットメールの受信も可能だ。ところが、インターネットメールを単純にPHSあてに転送すると、ヘッダの一部に問題があり、受信することができなかったため、転送されたメールのヘッダを一部編集して、きゃらメールのサーバに送出するゲートウェイを用意した。これが、現在のEmCm Serviceの始まりである。

イーエムシーエムにとってのLinuxの位置づけ

 丸紅テレコムは、イーエムシーエムからライセンスを受けて、有料サービス「TEL METHOD(テルメソッド)」(http://www.telmethod.com/)を開始している。それに伴い、実験サービスであるEmCm Serviceは、2月末に新規登録受け付けを終了し、3月末にはサービス自体を終了する予定だ。「イーエムシーエムとしては、現時点で売り上げの70%がコンサルティング、30%がライセンスです。すでに数社と業務提携を行い、われわれがご提案したモバイル活用サイトの『e-do』(http://www.e-do.ne.jp/)、『EmCmオークションCLIP! for イーベイ』(http://www.auctionclips.com/)、携帯待ち受け画像・着信メロディ格納交換サービスの『パンドル』(http://www.pandoru.com/)、モバイル端末向け地図情報サービスの『てれらん』(http://www.teleran-net.com/)などが公開されています」(竹内氏)

携帯待ち受け画像・着信メロディ格納交換サービスの「パンドル」。竹内氏の提案によって実現したサービスの1つ。Linux上でサンプル用のプログラムを作成し、プレゼンテーションを行った

 Linuxは安く、ロースペックのPCでもすぐにサーバが立てられる。その分、開発に予算を回すことができる。大手PCメーカーもLinuxのサポートを始めているので、以前は二の足を踏んでいた企業も、Linuxの導入に踏み切っている。ハードもソフトも安くなったので、企業はその上で何をやるか、どういうソフトウェアを作るかという、バリューを付ける部分に予算をつぎ込めるようになったのだ。「PCにしても携帯電話にしても進化が速く、どんどん新しいものが出てきます。そうすると、以前のようにシステムを3年リースで導入して使い続けるということが難しくなります。ハードやソフトの予算を下げて、すぐにシステムを変更できるようにしなければ、進化についていくことはできないのです。Linuxだと、ちょっと試してみたい、導入してみたい、ということが簡単にできます。これからのエンジニアは、ノウハウを売る部分でしのぎを削ることになるでしょう」(竹内氏)

 現在、EmCm Serviceの会員数は約4万人だ。携帯電話などのユーザー数から考えると、会員数はもっと増えてもおかしくないのだが、メール転送サービスの概念が初心者向きではない、機能が豊富であるがゆえに初心者には設定が難しいといった理由の結果がこの数字なのだろう。また、フリーのメールサービスと勘違いされることもあるようだ。一般的に考えるならば、これらの点を改善して、課金もしくは広告収入を得るというビジネスプランもあったはずだ。この疑問に対する竹内氏の回答は以下のようなものだった。「EmCm Serviceを行ったおかげで、コンサルティングのご相談をたくさんいただきます。われわれにとって、EmCm Serviceはセールスツールなのです。私は、あのようなシステムをプロデュースすることができます。運用もしてきています。それだけのノウハウがあるので、困っている顧客に明確な回答をすることができるのです」

 「世の中の方向性やニーズをシステムに結び付けられる力があれば、Linuxのインストールはできなくても構いません(笑)。私はたまたまPerlやCのプログラムが組めますが、Linuxのことを教えてくれといわれても、教えることはできません。だけど、私は現にLinuxでビジネスをしているのです。ただ、常に新しいものを使ってみるということにはお金をかけています。モバイル系の新しいアイテムが出れば必ず買います」(竹内氏)。実際には、アイデアの提案を行う際には、Linux上でサンプルプログラムを作成し、具体的なプレゼンテーションを行うとのことだ。そのためか、竹内氏のコンサルティングによって実現したサービスの多くは、Linux上で稼働しているという。

「Linux導入事例集」



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