Linux導入事例 (1)
甲府信用金庫

全店舗に展開する情報系システムを
Linuxデータベースで構築

宮下知起
株式会社グルージェント
2000/8/23

 甲府信用金庫は、全店舗に展開する情報系システムをLinuxで構築した。技術コンサルタントとファイアウォールの構築をシステムインテグレータに委託したが、データベースの構築からコーディング作業までをすべてユーザーの手で行っている。パフォーマンスの高いシステムの構築に成功していると同時に、非常に低コストにシステムが実現している点が注目される。

勘定系のシステムを
信金共同センターに委託

 甲府信用金庫は山梨県甲府市に本店を置き、山梨県内を営業エリアに持つ信用金庫だ。甲府市内に14店舗、県内で35店舗を数える営業店舗を持ち、地域経済の発展を支えている。

甲府信用金庫の電子計算センター。右手のMT装置の左側に設置されているのがUNIXサーバ(NEC EWS4800/360PX)。さらにその左奥に置かれているのが信金共同センターから月次の元帳データを受け取る汎用機(NEC PX7500/10)だ

 同信用金庫は、1997年1月に信金東京共同事務センター事業組合(通称:信金共同センター)に加盟し、勘定系システムを共同利用している。そのため、以降、勘定系の元帳の管理と更新業務は信金共同センターで集中して行われており、信用金庫側では、更新された元帳データのフィードバックをMTおよび夜間転送で受け取っている。

 現在、元帳の月次データは、唯一残っている1台の汎用機を使って、信金共同センターから受け取っている。いまだに汎用機を利用しているのは、月次の膨大な元帳データをMT装置でバックアップするためだ。また、日次データは、信金共同センターからの夜間転送データをUNIXサーバで受けている。UNIXサーバには、月次データがオラクルデータベースに蓄積されており、そこに対して日次データを投げて元帳データを更新している。このプロセスによって、毎日、常に最新の元帳データを利用することができるわけだ。

元帳を全店舗から参照する
情報系システムの構築を検討

 勘定系を信金共同センターに委託した1997年には、250項目以上にも及ぶフラットファイルをそのままOracleに落とし込み、そのデータをAccessを介して参照するというものだった。ただ、これは非常にパフォーマンスが悪く、その後、直接UNIXサーバからSimpWright(*1)を使って参照するシステムに移行する。

*1:SimpWrightは、NECソフトウェア北海道が販売するWeb情報管理システムである。Webサーバ上で、業務データベースのデータを自由なフォーマットで閲覧可能で、条件検索による抽出も容易にできる。

Linuxを自ら検証した結果、不安はまったくなかったと語る石原喜仁氏

 1998年10月、すでに本部の情報系システムは完成していたが、これを全店舗に展開するための情報系再構築の取り組みがスタートした。基本方針は、SimpWrightを使って、元帳データを全店舗からWebブラウザで参照できる情報系システムの構築だ。ただ、250項目以上に及ぶデータをそのままの状態で店舗に見せることはできない。UNIXサーバ上のマスターデータベースから必要なデータだけを抽出し、目的別に複数のサーバにデータベースを分散して持たせる方策が考えられた。

 プラットフォームとなるOSの選択では、何よりも「コストをかけず、安価に構築したい」(甲府信用金庫 事務部 電子計算課 調査役 石原喜仁氏)ことが絶対条件としてあったという。次に、SimpWrightが動くことが条件としてあったが、SimpWrightは幅広いOSに対応しているため、特に問題とはならなかった。

 また、本部で試験導入していたStarOfficeによるグループウェアをどう全店展開するかという問題もあった。StarOfficeは非常に高機能でよいのだが、はたして全店舗の営業担当のパソコン素人に近い人たちが使いこなせるのか、という不安があったからだ。

 さらに、外部向けに公開するWebサーバを設置する必要があり、金融機関であることを考慮に入れた慎重な検討が要求されていた。

全店展開のサーバOSに
Linuxの採用を決定

 情報系再構築の検討と並行して、それまでUNIXサーバで稼動していた「預貸金速報」の機能をFreeBSDのマシンに移植したところ、非常に良い成果が得られた。「1日の預金残高情報などの基本的なデータだけを参照できる速報系サーバをFreeBSDで作ってみました。PC-9821xaという古いマシンでしたが、正直な話、どうしてこんなに軽く動くのかという印象を持ちました」(甲府信用金庫 事務部 電子計算課 主任 成瀬和人氏)

成瀬和人氏。PC-UNIXのパフォーマンスの高さには非常に驚かされたという

 FreeBSDを使ってみて、PC-UNIXに対する印象を非常に良くしたところで、時流はPC-AT互換機に移りはじめていた。PC-AT互換機ならばLinuxだろうということで、Linuxの検証を始めたという。「Windows NT版とLinux版のOracleを自分たちで試して性能評価しました。Linuxはかなり速いという実感を得ました」(石原氏)

 情報系システム構築のコンサルティングは、システムインテグレータとしてNECソフトウェア北海道が加わり行われた。UNIXベースでの構築も視野に入れながら検討を重ねた結果、1999年3月、全店展開時のサーバOSとしてLinuxを採用することに決定した。Linuxの信頼性に対して不安はなく「世界中のエンジニアが寄り集ったコミュニティがあって、そこでバグが修正されたり、改良がなされる体制があるということを知っていましたから、不安はありませんでした」(石原氏)という。

 ところで、金融機関のシステム導入決定に対する判断は民間企業以上に慎重なはずだ。もちろん、Linux導入の最終決定は、役員が参加する理事会で行われた。その場でのLinuxの導入決定に大きな力添えになったのはシステムインテグレータだ。「NECソフトウェア北海道様がLinuxの採用に非常に積極的で、役員へのプレゼンテーションを行っていただきました。その結果OKが出たのです」(石原氏)

 「ある程度の高い信頼をもった会社がシステムの構築に関わることが、金融機関にとっては重要なんです。また、理事長はじめ役員が非常にIT投資に積極的だったことも、Linuxを採用できた理由だと思います」(甲府信用金庫 事務部 副部長兼事務管理課長 山本紀恭氏)

Linuxの採用には、理事長の英断があったと語る山本紀恭氏

 NECソフトウェア北海道は、全体の技術的なコンサルティングとファイアウォールを担当した。よって、コーディングを含めたシステムの実際の構築はすべて内部のスタッフで行った。

 ところで、グループウェアに関しては、結局C言語を使って自分たちでCGIを書き作成することになった。「グループウェアはパソコンに慣れていない営業マンでもシンプルで使いやすいこと、軽いことを目指して作りました」(成瀬氏)。スタッフは、全員がもともとは汎用機のエンジニアであり、1997年頃まではCOBOLしか使ったことがなかったという。それでもC言語を使った理由は「後々の汎用性ということを重視しました。プロプライエタリなものではなく、C言語を使っていれば汎用的で息の長いシステムになる」(石原氏)からだという。最終的には、在籍管理、掲示板、文書管理の機能を持つ、機能としては必要十分なものができあがった。

Linuxサーバにはオラクルを採用
低コストにシステムが実現

 データベースサーバは元帳DBサーバと顧客管理系DBサーバを新たに増設した。すでにUNIXサーバにOracleを導入した経験があることもあって、LinuxサーバにもOracleを採用した。

左がFreeBSDとPostgreSQLで構築した速報系サーバ(PC-9821Xa)。右側の黒いサーバが元帳検索サーバ、顧客管理系サーバ、業務開発用サーバ。機種はDell PowerEdge 1300(PentiumV 500MHz、128MB RAM、20GB HDD)。データベースはOracle8 Work Group Server for Linuxを使用している

 元帳のマスターデータベースを持つUNIXサーバと、これらLinuxサーバの間では、夜間にバッチ処理が走り、データを更新している。用途別にDBサーバが分けられているだけでなく、各DBサーバ内のデータベースは店舗別に顧客情報を管理しているため、各店舗からのデータの参照は非常に高速に行えるという。現在、営業店舗は35店あり、86台のPCクライアントで情報系システムが利用されている。

 「結果としては、非常に安くシステムが導入できした。ハードウェアの部分だけをとったら、UNIXベースで構築する場合の、およそ10分の1の予算で済んでいると思います」(石原氏)

 コストがかからないと思ったところには、予想どおりコストがかからなかったと石原氏は語る。外部に依頼したところLinuxなのに思ったよりもコストがかかったという事例もある中、甲府信用金庫の事例はユーザーとシステムインテグレータがうまく同調した例と言える。「NECソフトウェア北海道のSEが、自分のメーカー製品にこだわらないスタンスを持った方でした。廉価で良いものを使ってくださいというアドバイスをいただき、実際、DBサーバにはNECのマシンではなく、廉価なDellのマシンを使っています」(石原氏)

 「ただ、サポートに関してはお金を惜しみません。どんなシステムであろうが、サポートにかかるコストは同じですから」(石原氏)。

汎用機(ACOS4)には月次データが、UNIXサーバ(EWS4800)には日次データが信金共同センターから蓄積される。UNIXサーバのOracleデータベースには常に最新の元帳データが格納されており、ここから夜間のバッチ処理で元帳DBサーバ、顧客管理DBサーバに転送される。各DBサーバのSimpWrightがミドルウェアとなり、クライアントPCからのデータの参照を容易にしている

今後の課題

 システムは非常に良いパフォーマンスを発揮している。「レスポンスはマシン性能が大きく影響しています。今のところ回線速度はレスポンスに影響していません」「EWS4800のほうが良いと感じたこともありません。Webブラウザからの使用感は、Linuxサーバも同様です」(石原氏)

 とくに大きなトラブルも発生しておらず、順調に稼動しているが、ユーザーのシステムの使いやすさの評価はこれからだという。「導入したところ、Webブラウザでものを見るのがはじめてという人が多かったのが驚きでした」(石原氏)。ユーザーの教育も、今後の課題として大きくある訳だ。

 今後の展開について石原氏は「最近はフリーのデータベースであるPostgreSQLが非常に良くなってきています。将来的にはPostgreSQLに置き換えて、Oracleを使わない方向を考えています」という。今後、さらにデータベースを分散させたり、クライアント数が増えたとしても、フリーのデータベースならばライセンス料がかからない。

 「情報系のシステムでは、ちょっと乱暴な言い方をすれば、一貫したポリシーをもってやれば、押さえるところをしっかり押さえて、手を抜くところは抜いてよい」(石原氏)。限られたスタッフで、限られた予算の中でシステムを構築するためには、要求される用件さえ充分に満たしていれば、過剰な投資は必要ないというわけだ。

情報系システムのサーバは月次データと日次データを蓄積する汎用機とUNIXサーバ以外はすべてLinuxサーバで構成されている。顧客情報とグループウェアは、本部、事務部(情報システム部)、各営業店舗の各所からWebブラウザで利用できる

 

「Linux導入事例集」



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