第1回 最初の壁は日本語入力の設定
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宮原徹
2001/3/2
現在のLinuxの利用状況を見てみると、その動きの中心はサーバ用途であった。そして2001年、サーバ用途の面で一定の評価を得るにいたったLinux市場は、カーネル2.4を受けて新しい局面への展開を図ろうとしている。そこで、まずはその流れの中から幾つかキーワードを拾ってみよう。
- 組み込み(Embedded)
RT(リアルタイム処理)にLinuxを利用し、工場などの機器の制御に利用。
- アプライアンス(=機器)
組み込みに似ているが、こちらはインターネット用サーバなどに利用。ユーザーからはLinuxが使用されていることはほとんど意識されないような形態であり、従来の利用方法から一段高級になった感じ。
- PDA/H/PC
PalmOS機やZaurus、Windows CE機へのLinuxの搭載。アプリケーションの開発・動作環境としてLinuxが使えるところがメリットである。
- デスクトップ
低価格PCと組み合わせて、エンドユーザー向けに機能をある程度限定した利用用途が期待される。
これらの中で、より幅広く、そして身近に利用される可能性があるのがデスクトップ用途であろう。そこで、本連載ではLinuxでデスクトップ環境を構築しつつ、どこまで使えるかを検証していきたい。
それでは、Linuxによるデスクトップ環境で何を行うか、何が必要かをまず考えてみよう。ここで想定しているユーザーは、これまでWindowsで単純にアプリケーションを利用していた人、あるいはこれから仕事などでPCを使い始める人である。
■日本語入力何といっても、日本語の入力はすべての要である。これができなければ何も始まらない。また、この部分が欧米と日本の間でLinuxのデスクトップ利用の差になる原因でもあるといえる。■Webブラウジング
現在のデスクトップで一番使われているのはWebブラウザではないだろうか? LinuxではNetscape Navigatorが標準的であるが、その使い心地を探る。■電子メール
Webブラウザと並んで必要なのが電子メールであろう。Linuxで使いやすい電子メール環境を構築するにはどうすればいいかを考えたい。■オフィス製品
ワープロ、表計算、プレゼンテーションツールは一般ビジネスにおいて必需品になりつつある。Linux上で動作するこのカテゴリの製品も出始めているので、Windows用のオフィス製品とのデータ互換性も含めて評価してみたい。■印刷
業務の現場では最終的に紙への印刷が要求されるだろう。Linuxでは弱いとされている部分であるが、その現状を探ってみたい。
写真1 ぷらっとホームのCompact Base。その名のとおりコンパクトでじゃまにならないのがよい |
デスクトップ環境づくりはまずハードウェアの選定から。筆者の場合、デスクトップマシンの選定の方針はサーバと異なり、「安くていい物」である。
ハードウェアを選ぶうえで気を付ける点は、やはり使用しているグラフィックスチップであろう。最近の低価格PCはインテルのi815などの統合チップセットを使用しているが、ディストリビューションの出荷時期によってはX Window Systemが対応していない。対応チップについては各ディストリビューションベンダのホームページなどで公開されているので、そちらを参照していただきたい。
今回は安心感を重視して、対応確認済みのハードウェアを選んだ。Linux対応確認済みのPCでは老舗である「ぷらっとホーム」のぷらっとホームファクトリー製品の中から「Compact Base」(以下CB)をチョイス。筆者は自宅で以前のモデルである「Compact Station」を愛用しており、ハウスダストで埃だらけになってしまった電源を交換したばかりでもある。
新モデルは電源がATXになったほか、CPUパワーがアップしている。これに伴い厚みが若干増しているが、側面がフラット仕上げになったのでスタンドを使わずに縦置きできるようになり、すき間縦置き派としては実質的にはスリムになった感じである。ただ、前面のロゴに合わせて縦置きにすると、冷却用の通気孔が底面になってしまうのがちょっと気になるところだ。
グラフィックスチップは「ATI 3D RAGE LT PRO」。いわゆるMach64系チップで、このシリーズは昔からX Window Systemのサポートが良い。それほどヘビーに使うのでなければATIのチップはオススメである。CBではこのチップがオンボードで実装されており、8MbytesのRAMで1024×768ドット/フルカラー表示が可能だ。
周辺機器として、ディスプレイは省スペース性を考慮してEIZOのL350(15インチ液晶ディスプレイ)を使用。1024×768ドットまで表示できる。また、すでに稼働しているWindowsマシンと共存をはかるために、キーボード、マウス、ディスプレイを4台のマシンで共有できる切り替えスイッチ「PShare4」を導入した。スイッチ1つで3つの機器の接続を切り替えられるスグレモノである。
写真2 PShare4で周辺機器を共有。複数のマシンを使っているのに、デスクの上はこのとおり。キーボードもマウスもディスプレイも、1セットあればOKだ |
これらの組み合わせにより、非常に限られたスペースでの作業が可能になった。スペースをお金で買えればいいのだが、なかなかそうもいかないもの。そんな人にオススメの構成だ。
次に使用するディストリビューションを選ぼう。
以前にも書いたように、Linuxディストリビューションを選ぶ際の決め手は単なる好みか、とりあえずそのとき手近にあるものを使うのが筆者の流儀。そこで、ちょうど手元にあったものの中で今回の意図に一番適していそうなもの、ということで「Turbolinux Workstation 日本語版 6.0 Limited Edition」を選んだ。
パッケージに含まれているのは
- カーネル2.2.13
- glibc 2.1.2
- XFree86 3.3.6
- GNOME 1.0.5
- KDE 1.1.2
という無難な組み合わせである。無難が一番である。
またバンドルアプリケーションとして
- Wnn6 Ver.3(日本語入力)
- RYOBI日本語フォント 5書体
- Netscape Communicator
- プリンタドライバ
- Adobe Acrobat Reader
- Macromedia Flash
といったものが含まれているので、とりあえずひととおり入れただけでデスクトップ環境として使えそうなのもよい。足りないのはオフィス製品あたりだが、これはおいおい調達してインストールすればよいだろう。
インストールで特にひっかかるところはなかった。X Window Systemの設定もチップを自動認識してくれたので、解像度を1024×768ドットに設定すれば問題なく表示することができた。デスクトップ環境にはGNOMEを選択した。
インストールが完了して動き出したLinux。まずは標準状態でどこまで使えるのかを試してみた。
テキストエディタとして、画面下部のパネルから「gEdit」(Windowsの「メモ帳」ぐらいか)を起動し、Wnnでの日本語入力を試みる。Wnnの起動は[Shift]+[Space]キー。このあたりはMacintoshの日本語入力をほうふつとさせる。デフォルトはローマ字入力になっており、ローマ字デフォルトの筆者は特に問題なくそのまま入力を開始できた。
しかし、いろいろと動作をカスタマイズしたいと思うので、入力サーバをkinput2からxwnmoに変更して、幾つか動作状態を変更してみた。特に問題なさそうに動いているのだが、1つ困ったことが。“「」”(全角かぎ括弧)を入力しようと思うのだが、環境設定で括弧入力モードを“「」”にしても、キーを押すと“[]”(半角の角型括弧)が出てくるのだ。
現在、この原稿はWindows上で書いているが、今後はこのデスクトップ環境上で執筆したいと思っているだけに、この状態はかなり使いにくい。致命的といってもいい。ヘルプなどを見ても要領を得ないので、とりあえずメーリングリストで質問して先人の知識をお借りすることにする。
日本語入力といえば、Windowsで定評のあるATOKもLinuxに移植されている。ATOKは以前からSolaris版が提供されていたなど、非Windows環境でも稼働している実績があるだけにそれほど不思議な話ではない。次回はATOKもインストールして、Wnnとの使い比べをしてみようと思う。
筆者自身、以前Linuxをデスクトップとして使ってみようと思ったことがあったが、まずX Window Systemの設定で、そして日本語入力のあたりでも情報の少なさで入り口からつまずいた経験がある。しかし、今回は若干の問題は残っているものの、比較的すんなりと最初の環境構築を行うことができた。特にGNOMEやKDEといったデスクトップ環境が進歩してきていることの功績が大であろう。
次回は宿題として残ってしまった日本語入力の問題を解決しつつ、ATOKの追加インストール、WebブラウザであるNetscape Navigatorの使い心地のチェックなどを行ってみようと思う。
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