![](/flinux/rensai/desktop04/linux3_bar.gif)
第4回 オフィスソフトはMS Officeに追いついたか?
|
宮原徹
2001/6/26
さて、今回は一般的にPCをデスクトップ用途として使いたい場合に必ずといってもいいほどポイントとして挙げられる「オフィスソフト」について、実際に検証していきたいと思う。
そもそも「オフィスソフト」あるいは「オフィススイート」という呼び方は、例えば携帯型のテーププレーヤを「ウォークマン」と総称してしまう(編注)のと同じように、製品名がジャンル名に転じたものだ。一時期はいくつも「オフィス」の名の付いたパッケージが販売されていたが、Windowsの世界においては「Microsoft Office」がほぼ市場を制したといっても過言ではないだろう。その勢いは、OSでは競合関係にあるMacintoshにもおよんでいる。まあ、もともとExcelなんかはMacintosh用に作られていたものなわけだから、里帰りしたようなものだと思うこともできなくはない。
編注:つい他社製品も「ウォークマン」と呼んでしまうが、ウォークマンはソニーの登録商標で厳密には間違い。製品ジャンル名としては「ヘッドフォンステレオ」という。同様に、「宅急便」はヤマト運輸固有のサービス名で、サービス形態全般は「宅配便」となる。 |
そんな勢いのMS Officeも、うわさはあるもののLinuxの世界へとは押し寄せていないため、いくつかのオフィスソフトがLinux上にマーケットシェアを獲得しようと頑張っているわけだ。ここでそれらの製品をピックアップしてみよう。
●Star Office(Sun Office)
もともとヨーロッパのStar Office社が開発していたが、同社をSun Microsystemsが買収。どのように展開していくのかが注目されていたが、商用UNIXベンダのGNOMEサポート表明と併せてGNOMEへ統合していくことを発表。国際化を行いながら開発を行っているため、英語だけでなく日本語を含めたいくつかのマルチバイト言語を同一バイナリでサポートすることになると思われる。もしこれが完成すれば強力なフリーのオフィスソフトウェアが市場に出てくることになるだろう。ちなみに、Star
OfficeはNECのグループウェアと同名のため、日本国内では「Sun Office」と呼ぶことになっている。
●Applixware
Linux上で動くオフィスソフトとしては比較的老舗になる、草分け的存在。Applix社が開発。一昔前まではTurbolinuxにバンドルされていたので使ったことのある人も多いと思う。
●HancomOffice
韓国のHancomLinux社の製品。これまで触ったことがなかったので、今回使用してみることにした。
「オフィスソフト」とは、
- ワープロ
- 表計算
- プレゼンテーションツール
といったものがセットになっている、いわゆる「スイート」を指すのが普通だが、単品製品も存在するので代表的なものを紹介する。
●一太郎Ark for Java
Java環境上で動く一太郎。厳密にいえばLinux用ではないが、Linuxでも使えるということでここに含めることにした。
●MagicPoint
「俺はLinuxしか使わないよ」という人がプレゼンテーションをする場合にはこれ。GUIではなくテキストエディタでHTMLのようなマークアップを使って記述する。慣れてくるとかなりの芸当ができるらしいのだが、GUIに慣れてしまった人にはなかなか使い難い。HTMLエディタみたいなヤツがあるといいのだが……。
これら以外にも、GNOMEやKDEでは標準アプリケーションとして表計算ソフトなどが付属している。
早速、HancomOfficeをインストールすることにする。今回は雑誌の付録CD-ROMからHancomOfficeを探し出してインストールしてみることにした。オフィスソフトが雑誌の付録になることはめったにないのだが、購入するとなると1ライセンス当たり1万円以上するだけに、試用してから購入したいのも人情というもの。
そんなこんなで『UNIX USER』(2001年1月号)の付録に収録されていた「HancomOffice 1.0 beta (60日体験版)」を発見。若干古い感じがするが、バージョンを確認するとワードプロセッサの「HancomWord」は最新版もR5だし、それ以外のソフトについてはバージョンが0.2上がった程度。実際、最新版の1.2は「DoOffice」という、Vine Linuxとのセットでしか販売していない。今夏に発売予定の1.5が次の単品売りパッケージになるということなので、試用目的の範囲内では問題なしと判断。
CD-ROMをマウントしてreadme.txtをviで見る。「installファイルを実行しろ」と。早速実行。すると「Permission Denied.」。これだからなあ……。こうやってエラーが出ただけでは、特に初心者では手も足も出ないだろう。Office XPは、エラーが出たときはちゃんと謝るらしいし、そういうところはマイクロソフトを見習うべきなのかもしれない。
気を取り直してls -lコマンドでパーミッションを確認してみると、実行パーミッションは付いている。ということはマウントの問題だなと判断し、一度アンマウントした後に再度マウント。-o execと、明示的にCD-ROMのファイルを実行可能に指定することも忘れてはいけない。もう一度installファイルを実行すると、今度は問題なくインストーラが起動。Windows系の「Install Shield」などに比べてLinux用はイマイチなものが多いインストーラだが、HancomOfficeのそれはなかなかよくできている。インストール方法も「標準」「最小」「全部」「カスタム」といった感じで、Windowsに慣れた人にも分かりやすい選択肢を用意するというツボもきっちりと押さえている。
HancomWordを起動すると、最初にダイアログで個人情報の入力を求められるのだが、ここで問題が。ATOKを起動しても変換できないのだ。アレコレいじっていると突然日本語入力できるようになるのだが、いったん変換・確定を行うとATOKがOffになってしまう。個人情報の入力もそこそこに、ワープロ画面に移って入力を行おうとしても、やはり変換・確定ごとにATOKがOffになってしまう。
あまりにもしんどいので、HancomLinux社のホームページのQ&A掲示板で確認したところ、次期バージョンで解決されるとのこと。ATOKはアプリケーションとのやりとりに「IIIM」(Internet Intranet Input Method Protocol)という標準プロトコルを採用しているのだが、そのインターフェイス部分がうまく取れていない可能性もある。さすがにこれではどうにもならないので、やむを得ずATOKの使用はここであきらめてWnnに戻すことにした。ATOKインストール時に行ったことを逆に無効にしてWnnを使用できるようにしたが、ここでも問題発生。高機能な入力クライアント「xwnmo」でもやはり入力がうまくいかないのである。
結局、最もベーシックなkinput2にすることで入力できるようになった。HancomLinux社のホームページではHancomWordとATOKの組み合わせがOKになっているにもかかわらず、このような問題が起きてしまうのはちょっとツライものがある。この辺りの組み合わせ情報が最も肝の部分だけに、もう少ししっかりとした情報提供をお願いしたいところである。
とりあえず日本語入力が問題なくなったところで、Windows側のファイルをLinuxで読み込ませてみることにする。私が通常使っているMicrosoft Word 2000の文書を、SambaでLinux側に送り込み、開いてみた。
![]() |
画面1 これが元になるWord文書。これをHancomWordに読み込ませてみる(画像をクリックすると拡大表示します) |
![]() |
画面2 HancomWord R5の画面。罫線の再現性は高いが一部の文字が化けてしまう(画像をクリックすると拡大表示します) |
今回は組みが重要で、業務でよく使われるであろう請求書を使ってみたのだが、ぱっと見た限り、かなり高い精度で変換されている。ただし、以下の点に問題があった。
- 読み込み時になぜかハングルのフォントが使われていると表示される
- 金額の「¥」(円マーク)が「バックスラッシュ」になってしまっている
「¥」と「バックスラッシュ」は文字コードが同じだが、フォントによって表示が異なる。欧米系のASCIIコードフォントには「¥」は存在しない。フォントを選んでも直らない。どうしてだろうか?
- 「渋谷」が「渋穀」に、「年」がよく分からない漢字(季節の「季」に似ているが…)に化けてしまっている(編注)
これも文字コードの問題?
また、実は最初に日本語のファイル名を付けたファイルを変換しようとしたのだが、HancomWordのファイルダイアログではこのファイル名を表示し、読み込むことができなかった。おそらく文字コードや日本語化の問題だと思うが、日本語ファイル名が徐々に当たり前になりつつある現状においては、データファイル交換という点から大きな課題となるだろう。
編注:HancomWord R5における漢字の文字化けについては、2001年6月25日にパッチが公開された。同社Webページによると、MS
Word文書のインポート時に一部の漢字が文字化け(または旧体字化)する問題が解決するとのこと。詳しくは下記URL参照。 http://www.hancom.co.jp/support/list_total.htm |
さて、HancomWordの評価はとりあえずこれぐらいにして、ほかのツールも見てみよう。HancomOfficeには以下のツールが含まれている。
- HancomSheet(表計算ソフト)
- HancomPresenter(プレゼンテーションソフト)
- HancomPainter(ペイントソフト)
HancomSheetはMS Excelに、HancomPresenterはPowerPointに相当するので、それぞれExcel 2000、PowerPoint 2000のファイルを読み込ませてみることにする。
表計算の場合、簡単な関数(合計を出すSUM())の認識や数値計算は合っているが、やはり「¥」は「バックスラッシュ」になってしまう。フォントを変えても同様。日本円は鬼門なのだろうか?
![]() |
画面3 HancomSheetの画面はExcelにそっくり(画像をクリックすると拡大表示します) |
また、PowerPointのファイルは読み込むことができなかった。私はもっぱらPowerPointでプレゼンテーション資料を作成するのが仕事なので、PowerPointのデータ変換ができれば資料を公開した際にLinuxで仕事をしている人にも見てもらうことができて助かるのだが、難しいようだ。
いままでは、例えばディストリビューションにオフィスソフトがバンドルされていたとしても必要性がないため使っていなかった。あらためて評価してみると、現在の問題点が浮き彫りになってくる。
1つは文字コードの問題。オフィスソフトは、Windowsという圧倒的なサイズを誇る領域を常に意識しないといけないだけに、流儀もある程度合わせなくてはいけないが、X Window SystemのようなUNIX系の領域をそれに合わせていくのは一筋縄ではない。基本的にWindowsと同程度の操作性や利便性を備えていなければ、オフィスソフトを使うユーザーは、わざわざ苦痛を味わってまで現在の快適な環境から乗り換えてはくれないだろう。
あとは、全体的な使用感である。今回使ってみて、反応速度が遅い、ドラッグ&ドロップが使えない、フォントがあまり奇麗ではないなど、いくつかの「まだまだかな?」と感じるところがあったことは否めない。これは現在のX Window Systemが抱えている課題ともいえるかもしれない。果たして、このまま21世紀もXをGUIのベースコンポーネントとして進むのか、それとも新たな実装を模索していくのか。1つの分岐点に来ていることを感じさせるような評価となった。
|
![]() |
連載 デスクトップもLinuxでいこう! |
- 【 pidof 】コマンド――コマンド名からプロセスIDを探す (2017/7/27)
本連載は、Linuxのコマンドについて、基本書式からオプション、具体的な実行例までを紹介していきます。今回は、コマンド名からプロセスIDを探す「pidof」コマンドです。 - Linuxの「ジョブコントロール」をマスターしよう (2017/7/21)
今回は、コマンドライン環境でのジョブコントロールを試してみましょう。X環境を持たないサーバ管理やリモート接続時に役立つ操作です - 【 pidstat 】コマンド――プロセスのリソース使用量を表示する (2017/7/21)
本連載は、Linuxのコマンドについて、基本書式からオプション、具体的な実行例までを紹介していきます。今回は、プロセスごとのCPUの使用率やI/Oデバイスの使用状況を表示する「pidstat」コマンドです。 - 【 iostat 】コマンド――I/Oデバイスの使用状況を表示する (2017/7/20)
本連載は、Linuxのコマンドについて、基本書式からオプション、具体的な実行例までを紹介していきます。今回は、I/Oデバイスの使用状況を表示する「iostat」コマンドです。
![]() |
|
|
|
![]() |