最終回 LinuxがデスクトップOSとして成功するには
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宮原徹
2001/8/21
これまで、5回にわたってデスクトップOSとしてのLinuxについて評価してきた。この間に状況が若干変わってきているところもあるので、情報をアップデートしたうえで評価を見直し、全体の締めくくりとしたい。
■ディストリビューションはカーネル2.4ベースに
連載第1回で、まずインストールするディストリビューションを選んだ。選択したのは、カーネル2.2の「Turbolinux Workstation 日本語版 6.0 Limited Edition」であった。2001年8月現在では、「Red Hat Linux 7.x」や「Kondara MNU/Linux 2.0」などがすでに登場しており、Turbolinuxも「Turbolinux 7 Workstation」を発表するなど、カーネル2.4を標準採用したディストリビューションが増えつつある。
デスクトップOSという観点から見てカーネル2.4で何がうれしいかというと、やはりUSBのサポートが良くなる点が真っ先に挙げられるだろう。周辺機器のUSB度は高まるばかりであり、それだけにUSBサポートがしっかりしていることがデスクトップOSとしての課題であるといえる。問題は、技術的なことよりもUSB機器のサポート状況を情報としてどのように集約していくかという点にかかっているのではないだろうか? ユーザーが安心して周辺機器を利用できる環境作りが、一番の課題かもしれない。
■ユーザビリティ向上が必要な日本語入力
Linuxにおける日本語入力環境として「Wnn6」と「ATOK X」の2つに触れてみた。個人的には、どうもWnnにはなじめず、ATOK Xの方がDOS/Windowsからの流れをくんでいるということもあって比較的使いやすかった。Wnnも現在では「Wnn7」にバージョンアップし、「入力予測」や「連想変換」(編注1)といった新機能を搭載し、より効率的な日本語入力が可能になっている。ただし、いくら高度な変換機能を搭載したとしても、それをコントロールするための方法が使いやすくなければ意味がない。よりいっそう「ユーザビリティ」を高める方向へも進化してほしいところだ。
編注1:Wnn7の「入力予測」とは、過去に入力した言葉を入力辞書に蓄積しておき、1文字ごとに入力辞書をインクリメンタルサーチする機能。例えば、過去に「原稿まだですか?」と入力していた場合、「g」(ローマ字入力)あるいは「げ」(かな入力)と入力すると「元気ですか」「原稿まだですか?」といった候補が出る。「genko」あるいは「げんこ」まで入力すると、候補は「原稿まだですか?」に絞り込まれる。 「連想変換」は入力語の同義語に変換する、一種のシソーラス辞書機能のようなもの。 |
■活発化してきたWebブラウザ
第2回では「Netscape 6」のインストールにもチャレンジしてみたが、現在ではこれもバージョンアップして「Netscape 6.1」となっている。ただし、正式版になっているのはWindows用だけで、Linux用はまだプレビューリリース版(編注2)である。また、Netscape 6.1の基になっている「Mozilla」も0.9.3になっており、正式版へのカウントダウンがさらに進行中だ。Opera Software社のWebブラウザ「Opera 5.05 for Linux Technology Preview 1」も公開されるなど、Linuxで動作するWebブラウザもこのところ動きが活発になってきている(編注3)。
Linuxはデスクトップだけでなく組み込み用途も考えられるだけに、Webブラウザはそれらの適用用途において一番のキラーアプリケーションであるといえる。より高機能なもの、軽快に動作するもの、サイズの小さいものなど、多くのWebブラウザが出てくるとLinuxの応用範囲もそれだけ広がっていくだけに、一番期待したい領域である。
編注2:これは日本語版の話。2001年8月17日の時点では、英語版はLinux用も6.1の正式版がすでにリリースされている。ちなみに、この時点でのLinux用の日本語正式版の最新バージョンは6.01。 |
編注3:ほかにも、KDEの「Konqueror」やGNOMEの「Nautilus」、Geckoベースの「Galeon」、テキストベースの「lynx」「w3m」など、Linuxで動作するWebブラウザは意外に多い。 |
■熟成が進む電子メール
第3回で紹介した「Sylpheed」も着々と開発が進み、バージョンも0.5.3となっている。しかし、IMAP4対応の強化などが中心であり、「最新の○○機能を搭載!」などという派手なコピーが飛ぶようなバージョンアップではない。「電子メール」というもの自体、技術的に大きな変化を起こすような動きはいまのところないだけに、求められるのは安定性やユーザビリティの向上という、比較的地味な作業であろう。
Linux用でGUIのメーラーにはいまのところ決定版がないだけに、早くそのようなものが欲しいところである。
■Open Officeに期待のオフィスソフトウェア
オフィスソフトウェアも、比較的動きの活発な領域になるであろう。紹介した「HancomOffice」も1.5が発表され(出荷は2001年9月7日)、対応ディストリビューションの拡大やMicrosoft Officeからの文書変換機能が強化されるようだ。Microsoft Officeも「Office XP」になるなど進化しているだけに、互換性の問題はいたちゴッコの観もあるが、Linuxユーザーのためにも高い互換性の確保に頑張ってほしいところである。
HancomOffice以外に注目したいのが、Sun Microsystemsが開発を進めている「Open Office」である。デスクトップ環境「GNOME」に標準バンドルするなど、Linuxに限らず多くのプラットフォームサポートを目指すものであり、Sunのような大きな会社が開発を行っているということで期待するところも当然大きい。Open Officeのすごいところは、それなりのオフィスソフトウェア群を無料で提供してしまおうというところである。こんなことができるのも、1つはSunが主にサーバ分野で高い収益を上げているからだと思う。
中長期的に見ると、ソフトウェア市場の状況を変化させる可能性があるソフトだと私は見ている。長い目で注目してもらえればと思う。
■まだ敷居が高い印刷環境
多分、今連載の中で最も苦労したのが印刷環境の整備だろう。特にネットワークプリンタへの出力に関しては、私自身のSambaクライアントについての理解不足もあり、ほとんど歯が立たない状況だった。Windowsなら簡単に設定できるのに……。
幸いだったのは、プリンタがローカル接続できたことである。というよりも、USB専用プリンタではなく、パラレルポートとUSBの両方が使える機種を購入しておいたのが勝因であろう(正確には「逃げ」を打っただけで、全然勝っていないが)。
感覚的には、Linuxからの印刷の設定はWindowsのそれに比べて2段ぐらい敷居が高い。OA利用では最終的に紙の出力が求められるだけに、この点は何とかしたいところだ(というよりも何とかしてほしい)。
また、USBプリンタの接続に関しては、カーネル2.4で基本的には問題ないようであるが、やはりまだ検証実績が少ないのが現状である。このあたりは、ローカル接続だけでなく、例えばSambaを使ったプリンタサーバ構築に影響する部分でもあるので、もう少し実績が出てくれば安心できるようになるだろう。
これまでの結果を踏まえて、「LinuxがデスクトップOSとして使えるか?」という命題への答えを出さなくてはいけない。私の答えは「限定付きYes」だ。その限定条件は以下のとおりだ。
- Linuxをメイン環境にしなければならない場合
仕事がUNIX系のサーバ管理であるなど、主な作業がコマンドラインベースだったりするならば、できるだけメインの環境はLinuxにしておきたいと思うだろう。もちろん、「WindowsなんてWindozeだ」なんてポリシーの問題もあるかもしれない。どうしてもWindowsを使わなければならないときは別のマシンを使ったり、VMwareを使ったり、場合によってはデュアルブートなどで対応することも可能であろう。ともかく、Linuxを相当の頻度で使うニーズがなければ、現状ではLinuxメインでいくのは難しいといわざるを得ない。
- Microsoft Officeの文書を受け取ることはほとんどない
最近はマクロ・ウイルスの問題もあって、Microsoft Officeの文書をメールに添付して送付することはあまりお勧めできないことになりつつある。Windows用のメーラーの中には、それらのファイルをウイルスチェッカーにかけずに開くことに対して警告を発するものもある。
最近では、徐々にではあるが改変の必要がなければ文書のやりとりにPDFを使うという方法も取られるようになってきた。まだだれでもPDFを作れるわけではないが(編注4)、例えば社外文書を外部とやりとりする頻度が高い部署(経理など)ならば、ウイルス対策や互換性の問題を回避するためにPDF化する手段は備えておくべきかと思う。PDFならばLinuxでも閲覧はできるので、先方に「PDFで送ってください」とお願いするなどして、徐々にそういう状況、環境に持ち込んでいくというのも1つの方法かもしれない。それは多少時間がかかるとしても、基本的に電子メールとWebさえあればほとんどの日常業務はこなせるものであるし、これでこなせるならLinuxもWindowsも関係ないであろう。
編注4:「作れない」というより、PDFを作るための「Adobe Acrobat」がオフィスソフトウェアほどには普及していないこと、同ソフトの対応プラットフォームが限られているということ。Acrobatを購入しさえすれば、だれでもPDFが作れる。 |
- 技術力
はっきりいって、LinuxでWindows並みのことをしようと思うと考えなければいけないことが多くてまだ大変である。それらをカバーできるだけの技術力が要求される。
あとは、「どうしてもLinuxをデスクトップOSとして使うんだ」という思い。もう、それはLinuxへの「愛」だろう(笑)。
LinuxをデスクトップOSとして使うのは、現状においてはまだまだといえる。しかし、ディストリビュータも各ソフトの開発元も、より快適に利用できるように継続して開発を行っている。これらの成果は、デスクトップという1つの領域だけでなく、携帯端末などの領域に適用することも可能だからだ。そういった応用分野も含めてビジネス的なメリットを追求し、相乗効果を生みながら進歩していくことが最終的にLinuxの活用分野のポジションを高めていくに違いない。その意味では、デスクトップ用途はそれらの技術や製品のショールームであり実験場であるといえる。
どの時点で「使える」と感じるかは人それぞれであると思う。まだLinuxをデスクトップOSとして使っていない人も、まず試してみる。イマイチだと思ったら、3カ月後ぐらいにもう一度試してみてはどうだろうか? きっと、その進歩に驚くに違いないから。
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