一志達也のSE、魂の叫び [3]
SEに資格は必要か?
一志 達也(ichishi@pochi.tis.co.jp)
TIS株式会社
2001/5/30
資格は不要といったものの……
前回のコラムでは、SEにはこれといった資格(医師免許のようなもの)は必要ないと書いた。しかし、皆さんもご存じのとおり、実際にはSE(IT技術者)向けの資格が多数存在する。折しも、その中で最もポピュラーな資格といえる情報処理試験(正確には「情報処理技術者試験」)が行われたばかりだから、今回は資格の必要性について話したいと思う。
IT技術者向けの資格とは
情報処理試験は、1969年に通商産業省(現経済産業省)によって、プログラマーを対象とした認定制度として始められたものだ。1984年以降は通産大臣の指定試験機関として、(財)日本情報処理開発協会に試験事務が委譲されたが、いまだにIT技術者の国家資格のように扱われているのが実情である。詳しくは(財)日本情報処理開発協会のサイト(http://www.jitec.jipdec.or.jp/)に紹介されているが、時代の変化に合わせて何度か試験が追加され、試験制度自体も2回ほど大幅な見直しが行われた(ちょうど今回から2度目の見直しを受けた試験が実施されている)。
試験の内容や実施方法の是非は後ほど述べるが、平成12年度の応募者総数が約80万人、今回の応募者総数が約37万人と、半端ではない数の技術者が受験している資格であることは間違いない。それだけに、一般の企業が行う対策講座や対策本の出版、解答速報の提供など、一大ビジネス市場が成り立つほどである。
これに対し、ハードウェアやソフトウェアなどを販売するベンダーが、自社の製品を扱う技術者を認定するための制度が「ベンダー資格」である。ベンダー資格として有名なところでは、
- マイクロソフト
MCP(http://www.microsoft.com/JAPAN/PARTNERS/mtc/mcp/) - オラクル
Oracle Master(http://www.oracle.co.jp/seminar/master/) - サン・マイクロシステムズ
Java認定資格(http://sedap.sun.com/JPN/certification/javamain.html)
などが挙げられる。これらの資格制度はベンダー独自のものだから、情報処理試験のように国家資格のような扱いこそ受けないものの、最近は一般企業での認知度も高いために人気を集めているものもある。
そうはいっても、最も多くの資格者数を保有するとされるものでも3万人程度と、資格の保有者数では情報処理試験の足元にも及ばない。数万円程度は必要になる受験料の高さ(情報処理試験は一律5100円)や、受験対象者を限定してしまう汎用性の低さが災いしているのだろうが、企業単位で資格の取得に取り組む例も見られることから、今後の伸びには期待が高まっている。
ちなみに、ほとんどのベンダーは外部の機関に試験の運営を委託していて、大都市圏であればいつでも試験が受けられることが多い。試験自体も数時間で終了する(情報処理試験は9時から17時ごろまでかかる)から、気軽に受けられるという点ではベンダー資格の方が圧倒的に受験しやすいといえるだろう。
情報処理技術者試験は実務的(適切)か
さて、それでは情報処理試験とベンダー資格、それぞれに内容が実務的(適切)であるかどうか、もっといえば役に立つのかどうかを考えてみよう。
まず情報処理試験。これについては実務的(適切)かどうかと聞かれれば、はっきり「NO」と言い切れる。もちろん、実務知識が備わっているに越したことはないのだが、それだけで合格するのは非常に困難だろう。
筆者も実際に何度か受験し、今回もテクニカルエンジニア(データベース)を受験したが、やはり「試験勉強」が重要であることを痛感した。なぜならば、決して難易度は高くないものの実務ではまず使わない(知らなくても困らない)内容を問われるうえ、製品に依存しないがゆえに幅広い知識が要求されるからである。もっとも、これは午前中に行われる多岐選択式(四択)問題の中で特に感じることで、午後は専門知識にフォーカスされていて、比較的実務的な問題に記述式で解答するから許せる範囲だ。
ところが、午前の問題の正答率が低い(一説には6割から7割が必要らしい)と、その時点で午後の採点はされないのだから、やはり午前の試験に解答するための試験勉強が必要なのだ。逆にいえば、毎回決まったテーマの中で問題が出題されているから、試験勉強さえしておけば、それなりに解答できるのである。
あまりいい過ぎると、落ちたときのための負け惜しみか愚痴にしか聞こえないから、これくらいにしておくが、データベース以外の試験でも状況は似たようなものだ。例えば、従来の2種試験に該当する基本情報技術者の場合、4種類のプログラム言語から自分の得意なものを選択し、それに関する問題(穴埋めなど)に取り組む部分がある。もともとプログラマーの認定試験だから、プログラムに関する問題があるのは構わないと思うのだが、この選択肢の言語がC、COBOL、Java、アセンブラであるところには疑問を感じる(そもそもJavaの採用は今年度からで、それまではFORTRANだった)。
これらの言語が日ごろの業務で使われている受験者にとっては歓迎すべきことだろうが、そうでない技術者も少なくない。少なくとも筆者の周囲では、PerlやPHP、PL/SQL、Visual Basicなどの方がポピュラーであり、かろうじてJavaに取り組む人もいるといった程度である。こうなると、彼らが基本情報技術者と認められるためには、そのためだけにこれらの言語の習得が必要になるわけだ。
これは果たして実務的なのだろうか。いつかは役立つのかもしれないが、既存の知識を試し、その知識レベルを計ることこそ実務的なのだと思う。少々悲観的になってしまったが、もちろん合格する人も(データベースの場合)7%程度いるのだから、絶対に合格できないわけではない。問題は試験の目的とする、技術知識の認定として正しいかどうかである。
ベンダー資格は実務的(適切)なのか
対するベンダー資格の方はどうなのだろうか。こちらに関しては、ベンダーにもよるし、資格の内容(レベル)も多岐にわたることから、一概に評価するわけにはいかない。しかし、いずれにしても試験勉強が必要となることは、どちらも変わりなさそうである。
というのも、いくらその製品をマスターしているつもりでも、各製品の機能は豊富ですべてを完璧に理解している可能性は低い。例えば、Windows NT(Windows 2000)でドメインを構築して運用できるとしても、知らない機能や使ったことのない機能はたくさん存在する。仮に機能の存在を知っていたとしても、マニュアルなどを参考に一度や二度触れた程度では、いざ試験となると答えられないものだ。
では、どうすれば資格を取れるのか。その答えは「ベンダー主催の研修に参加し、その内容を忘れないうちに試験を受ける」だと思う。筆者の知る限り、ベンダー資格の出題範囲はベンダー主催の研修との同期が取られている。つまり、その研修のテキストに書かれている内容から出題される、と考えて間違いないわけだ。
それだけに、ベンダー資格は金をかければ取れる、ともいわれている。しかし、これは否定的な意味ばかりでもない。研修を受講すれば、その製品に関する深い知識が得られるわけだから、その製品を使っている限り実務で役立つ知識を有することになる。そして、その理解度を確認するのが試験であり、それに合格することは製品を理解したものの証ともいえるからである。
そういった意味では、ベンダー資格の方が実務レベルで役立つのではないかと思うが、これが結局ビジネス(商売)であることも忘れたくない。ベンダーにとっては、資格者を増やすことが製品の認知度や普及率の向上につながり、結果的に利益をもたらす。もちろん、その費用もベンダーの利益になるわけだから、資格制度はベンダーのビジネスとして重要な意味合いを持つからだ。
片や資格者の側や、資格者を雇用する企業にとってみれば、資格を有することで案件獲得の可能性を高められるメリットがある。資格の保有者が多ければ多いほど、顧客への営業トークに使えるし、顧客側も信頼を寄せやすいからだ。実際にこのメリットは大きく、「あの人は○○のベンダー資格を持っているよ」というだけで一目置かれることも多い。
結局のところ、どちらの資格も完全な実務主義とはいいがたいものの、それなりの意味はあるといえるだろう。しかし、そのために実務とは別の勉強が必要となり、その成果が努力に見合うかどうかが難しいところなのだと思う。だからこそ、多くの技術者は資格について論議し、必ずしも前向きになれずにいるのではないだろうか。
資格は必要なのか
それならば、資格は必要なのか、何の役に立つのかを考えておこう。といっても、資格を持っていても邪魔にならないこと、メリットの方が大きいことに関しては、おそらくだれも異論はないだろう。問題は、先にも述べたとおり、どれだけの役に立つのかだ。
これに関しては、すでに答えを書いてしまっているが、「資格とは、簡単に自分の実力を表現し、信用を得るための証明書」以上の何物でもないと筆者は思う。あなたの新しい顧客や、新しく配属された部門の上司、あるいは就職や転職時に面接官の信用を得るには、口頭でどれだけの実績を並べるよりも、所有する資格を簡単に説明した方が効果的だろう。そもそも就職や転職の際には、そんな説明をする機会すら与えられないかもしれないのだ。
もしも、あなたが逆の立場であれば、やはり同じように所有する資格を聞いた方が信用しやすいのではないだろうか。例えば派遣社員の庶務を採用するとしたら、並べられた履歴書の資格欄を参照し、簿記は何級か、珠算はできるのか、を確認するはずだ。これまでの職歴などは、参考にはするものの、資格がなければ判断に迷うことだろう。
もっと極端な例を挙げれば、「車の運転は得意だよ。サーキットでレースをしたら常に上位なんだ。無免許だけどね」という人と、「大型特殊の免許も所有しています。運転歴は5年です」という人、どちらの車に乗るかを考えてみてほしい。たとえ無免許の人の方が運転に長けている可能性があるとしても、その人の実力を証明してもらえるまで、にわかに信用することなどできないだろう。資格とはそういうものだと思う。
「資格なんて必要ない。資格を取ってからいってみたい」と思う筆者であった。
筆者紹介 |
一志達也 1974年に三重県で生まれ、三重県で育つ。1度は地元で就職を果たしクライアント/サーバシステムの構築に携わるも、Oracleを極めたくて転職。名古屋のOracle代理店にてOracle公認インストラクターやサポートを経験。その後、大規模システムの開発を夢見て再び転職。都会嫌いのはずが、いつの間にやら都会の喧騒にもまれる毎日。TIS株式会社に在職中。Linux Squareでの連載をはじめ、月刊Database Magazineでもライターとして執筆するほか、Oracle-Master.orgアドバイザリー・ボードメンバー隊長など、さまざまな顔を持っている。無類の犬好きで、趣味は車に乗ること。 |
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