一志達也のSE、魂の叫び [9]
Linuxに引き寄せられる商用UNIXベンダたち

一志 達也(ichishi@pochi.tis.co.jp)
TIS株式会社
2001/9/19

 Linus Torvalds氏がLinuxの開発を始めてから、もう10年がたつのだそうだ。10年前といえば、筆者はまだ高校生でWindowsなど知る由もないころの話だ。MS-DOSが動くNEC PC98を両親に買ってもらい、一太郎でレポートを書くかゲームをするといった程度であった。

 読者諸氏が、そのころのコンピュータとどうかかわっていたかはさまざまだと思う。高校生だった筆者にとって、その当時の世間の状況は推測するしかないが、インターネットはおろかUNIXサーバがこれほどまでに普及すると考える人は少なかったのではないだろうか。ほとんどの方にとって、Linuxの存在を知ったのはここ数年の出来事だろうと思う。

 そのLinuxは、いまやシステム開発に携わる者にとって最も注目を集めるOSとなった。それどころか、商用UNIXを作るベンダにとっても大きな影響を与える存在になっているのである。

AIX 5Lの登場

 コンピュータ業界の巨人IBMは、そのイメージに反してLinuxに柔軟な対応を見せている。

 2001年4月24日、IBMは同社の商用UNIXであるAIXの新バージョン「AIX 5L」を発表した。この新しいOSは、以前のバージョンに比べてそれほど大きな変更は加えられていない。最も大きな変更点といえば、彼らが「Linux Affinity」と呼ぶLinux環境との親和性にある。

 親和性といっても、AIXそのものに変更はないし、RPMパッケージが使えるようになったわけでもない。では何が「親和性」かというと、Linuxで使われているライブラリが搭載され、Linux用に作成されたアプリケーションのソースコードが、そのまま(一切の修正を加えずに)コンパイルできるようになっているのだ。

 例えば、何か新しく発表されたアプリケーションを使いたいと思ったとしよう。しかし、そのアプリケーションはできたばかりでLinux用のソースしか提供されていない。そんなとき、AIX 5LであればLinux用のソースコードをコンパイルして利用できるのである。

 もっとも、(Apacheのような)著名なアプリケーションであれば、商用UNIXまで含めたさまざまなOS用のソースコードが発表時点で用意されている。こういってしまうとメリットを感じないかもしれないが、こう考えるとどうだろうか。

 「システム構築の際に、アプリケーションの開発環境をLinuxで構築しても構わない」

 もちろん、全面的に同じではないから動作テストは必要になるが、高価なUNIXサーバを複数台用意するコストからは解放される。まだまだ万人にメリットを提供できるものではなさそうだが、AIXの実力は興味深いところだろう。

HP Secure OS Software for Linuxの登場

 このように、自社のOSをLinuxに近づけようとするIBMの動きに対し、HPが取った戦略はLinuxに自社の色を付け加えようとするものとなっている。2001年8月22日に発表された「HP Secure OS Software for Linux」は、その名のとおりLinux(kernel 2.4)にHP独自のセキュリティ強化策を施した製品だ。

 このOS製品は、HPが出荷する商用UNIXハードウェアはもちろん、Red Hat Linux 7.1が動作するハードウェアであれば、他社のハードウェア上でも利用できる。価格はおおよそ3000ドル程度と報じられているが、当初は同社の製品にバンドルする形でのみ出荷され、次のバージョンからOS単体での販売が行われるとのことだ。これは米国での話であって、日本での価格や出荷時期などは、日本HPのWebサイトなどを見る限り未定のようである。

 HP Secure OS Software for Linuxの価格は、一般的なディストリビューションに比べるとはるかに高価であることは否めない。高度な技術力を要するセキュリティ関連の強化に対し、どれだけの価値を見いだすかが評価の分かれ目だろう。いずれにしても、IBMとは対照的な同社の動きにも注目していきたいところだ。

Sunの動向

 さて、IBM、HPとくればSunの動向も気になるところであろう。いまや商用UNIXサーバのシェアで独走体制を築いたといえる同社は、他社の動きをしり目に自社の独自OS「Solaris」を変更する動きすら見せようとしていない。もちろん、同社がLinuxを無視しているわけではないのだろうが、何の動きも見せてくれないというのは、どうにも気になるところである。

商用UNIXかLinuxか

 IBMのAIX、HPのHP-UX、SunのSolaris。どれも、似て非なるOSである。その点、Linuxであればどのメーカーのハードウェアにインストールしても、基本的には同じOSとなる。アプリケーションも同じものが(修正なしに)動作するし、操作もすべて共通になる。

 そうしたメリットは分かっていても、細かな部分(ハードウェアへの対応やサポート、セキュリティなど)まで見れば、やはり商用UNIXの安心感も捨てがたい。ベンダがインストールや保証をしてくれるというのは、大きなメリットになり得るのである。

 そうはいっても、導入するアプリケーションはLinuxで生まれ育ったものが幅を利かせつつある。これが何とも悩みどころとなるのだ。商用UNIX(各社のOS)専用に開発された商用のソフトウェアであれば、何の不都合もないだろう。しかし、オープンソースのソフトウェアを一からコンパイルしようとすると、何だかんだと苦労するものなのだ。

 Apache、PHP、Perl、qmail、xinetd、PostgreSQL、ssh……メジャーなものだけでも、UNIXサーバに導入するオープンソースのアプリケーションは多い。これらのアプリケーションを、何の苦労もなく導入でき、商用UNIXと同じメリットを得られるOS。それは、商用UNIXユーザーにとって待ち望んでいたソリューションの1つではないだろうか。いままでなかったことが不思議なくらいだが、ようやく商用UNIXとLinuxが手を結ぼうとしている。この動きを歓迎しつつ、今後の動きに注目していきたい。

 10年がたっても、LinuxがWindowsを打ち負かすには至っていないが、商用UNIXには大きな影響を与えている。次の10年がLinuxにとってどういったものになるのか、大いに興味を引かれる話題である。読者諸氏の予想を伺いたいくらいだ。

筆者紹介
一志達也

1974年に三重県で生まれ、三重県で育つ。1度は地元で就職を果たしクライアント/サーバシステムの構築に携わるも、Oracleを極めたくて転職。名古屋のOracle代理店にてOracle公認インストラクターやサポートを経験。その後、大規模システムの開発を夢見て再び転職。都会嫌いのはずが、いつの間にやら都会の喧騒にもまれる毎日。TIS株式会社に在職中。Linux Squareでの連載をはじめ、月刊Database Magazineでもライターとして執筆するほか、Oracle-Master.orgアドバイザリー・ボードメンバー隊長など、さまざまな顔を持っている。無類の犬好きで、趣味は車に乗ること。

連載 一志達也のSE、魂の叫び


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