特別企画:
「Groove」とは何か?
〜 コミュニケーションの形を変える
PtoP時代の新世代グループウェア 〜
吉川満広
ネットマークス
2001/12/26
■Grooveの特徴は通信の仕組みにあり
Grooveはピア・ツー・ピアでの接続を行っているので、サーバに接続するための設定や環境は必要ない。では、どうやってほかのユーザーとの接続を行ったり、把握しているのだろうか? Grooveは、インストール時にユーザー・アカウントの作成と設定を行う。すでにアカウントを持っている場合は、自分のアカウントのファイルをインストール時に選択すれば、同じアカウントで複数台のPCを使える。このアカウント作成時にGroove Networksのディレクトリに登録が行われ、Relay Serviceを使用できるようになる。アカウントは、ユニークなDigital Fingerprintを生成するが、同じアカウント名でもDigital Fingerprintが異なるため、違うユーザー・アカウントとして扱われる。ほかのユーザーと共有スペースを作成する場合は、そのユーザー名だけでなく、Digital Fingerprintをあらかじめメールなどで交換し合っておけば、間違って第三者を共有スペースにInviteしたり、共有スペースの内容を盗まれることもない。
画面8 Digital Fingerprintの例(画面をクリックすると拡大表示します) |
ユーザーの接続状況およびステータスについては、Groove NetworksのRelay Serviceで把握している。もし、Grooveクライアントを接続している環境にファイアウォールがある場合、ほかのGrooveクライアントと直接の接続が困難なことがある。そのときGrooveでは、クライアント同士の直接の通信ではなく、Relay Serviceを経由した接続を行っている。Relay Serviceは、データのシンクロやインスタント・メッセージングなど、すべての通信の中継を行う。
図2 ファイアウォールなどでクライアント同士の直接の通信が困難な場合、Groove NetworksのRelay Serviceが中継を行う |
画面9 オフラインのチェック |
またGrooveをオフラインで使用する場合は、メニューにある「Work Offline」をチェックすればいい。オフラインでファイル内容の変更など行った後、オンラインにすることで、その変更部分がほかに反映(シンクロ)される。ほかの共有ユーザーがオフラインからオンラインに変わった場合も、同じく変更部分が反映される。基本的には、ピア・ツー・ピアで通信を行っているので、オンラインに変わった時点で共有するほかのユーザーのPCでGrooveが動作していれば、そのPCとシンクロしファイルの同期などを行う。共有するPCがどれも立ち上がっていない場合は、GrooveのRelay ServiceのRelayにいったん送信され、ほかのユーザーが立ち上がった時点で、そのRelayから変更部分のシンクロが行われる。
■Grooveの便利な使い方
便利な使い方として、私の使用例を紹介してみよう。
●情報の共有
すでに共有については触れたが、プロジェクトごとに簡単にスペースを作成でき、必要なユーザーをそのスペースに招待できるだけでもかなり便利である。FTPやWebではサーバが必要になり、その管理も大変である。Grooveは簡単にセットアップできるうえ、管理も容易である。リアルタイムでのコミュニケーションが行えるので、海外との打ち合わせに使用している事例も聞いたことがある。
●個人のPC間でのファイルの同期
ユーザーアカウントは、同じアカウントをほかのPCでも使用することができるので、複数のPCで同じアカウントの共有が可能だ。現在、私は会社で2台(デスクトップPCとノートPC)、自宅で1台の、計3台で2つのアカウントを使用している。従来は、仕事で必要なファイルなどは電子メールで自宅に送信していたが、Grooveの共有ファイルを使用すれば、変更したファイルの保存時にほかのPCとシンクロされるので、無駄なファイルを作成することもなく、常に新しいファイルを使用できる。私の場合、会社内では事務所と検証用の建物が違い、Grooveを使用する前はノートPCを持ち歩いていた。しかしGroove使用後は、どちらのPCに行っても同じ状態を維持できるため、資料の参照、自分がこれまで書いたドキュメントなど、いつでも取り出せるようになった。おかげで、ノートPCなどを持ち歩かなくても済むようになった。もしこれから皆さまがGrooveを試される場合、個人でのファイル・スペースの共有から始めるのが一番分かりやすく、お勧めである。
■Grooveの入手方法と使用上の注意点
今回紹介したGrooveのPreview Editionは、Groove NetworksにあるPreview Editionのダウンロード・ページから最新バージョンをダウンロード可能だ(Goove Networksのトップページから「Downloads」→「Preview Edition」を選択する)。ダウンロードする際に、Groove Bulletinの配信を希望すれば、1カ月に1回最新情報が送られてきて、アップデート情報や最新動向などが分かる。最近では、ほぼ1〜2カ月ごとに新しいバージョンがリリースされているので、チェックしておくといいだろう。
画面10 Preview Editionのダウンロード・ページ(画面をクリックすると拡大表示します) |
Groove使用上の注意点としては、先ほど説明したように、まだ正式な日本語版の発表は行われておらず、そのサポートもない。従って、組織内で業務用として展開するにはまだ時期としては早いとは思うが、仲間内や実験的に使用するレベルであれば、十分に使える内容となっている。ここでは、これまで使ってきて気を付けた方がいいと思われるポイントを紹介する。
●共有ファイルの肥大化
Grooveでファイル共有を行う場合、一番気を付けなければならないのは、ファイルの肥大化である。スペースを共有している限り、そのメンバーが登録したファイルは全員に配信される。従って、常にGrooveをインストールしたHDDの空き容量を確認しておかないと、気が付かないうちにHDDの容量がいっぱいになる可能性がある。あらかじめ、共有するメンバーの環境の情報を共有しておき、登録するファイル容量の上限を決めておくのもいいのではないかと思う。
●PCのパフォーマンス
ご存じのとおり、ピア・ツー・ピアを通信手段とするGrooveは、1台のPCの中にサーバとクライアントの両方をインストールする形となる。通常は、Grooveをネットに接続した状態で、電源を立ち上げたままにしておく方が望ましい。立ち上げたままにしておくということは、シンクロするタスクは走ったままなので、常に負荷がかかっている状態になっていると考えていい。従って、GrooveをインストールするPCのパフォーマンスは、できるだけ高いものを選ぶ方がいいだろう。私の経験からすると、Grooveで共有するファイルに関係するアプリケーションが同時に立ち上がることなどを考えれば、少なくともCPUはPentiumIII-500MHz以上、メモリは128MB以上ある方が望ましいと思う。
●日本語ファイル名
日本語はGroove全体で使用できるが、一部表示で化けたり、インラインで文字入力できないことがある。またファイルを共有している場合に、日本語のファイル名の登録はできるが、GrooveとWindows上での日本語名ファイルのコピー&ペーストはできない(シングルバイト名なら可能)。この場合、いったんファイルを開き、アプリケーションから「別名で保存」して、Windows上にファイルを保存する。
●音声通話時のマイク
音声通話では、音声を発しない間はデータが転送されず無音となるため、電話と同じ感覚で使用できる。その代わり、マイクから口が離れていたりすると。音がうまく取り込めず、通話できないことがある。できれば、指向性があるマイクかヘッドセットを使い、口元にマイクがある状態にすれば、スムーズに通話できる。
●無料版の制限
現在、私たちが入手できるPreview Editionは無料でダウンロードが可能だが、これにはいくつかの制限がある。使用するうえで気を付けるべき制限について触れておこう。
Manager権限
Grooveにも、ロータスノーツと同じようにユーザーに権限が付けられる。Roleには、
- Manager
- Participant
- Guest
の3つの役割があり、それぞれにManagerが権限を指定する。共有ファイルの文書の中には変更されたくないものがあったり、共有スペースのメンバーを制限したいときに使用する。残念ながら無料版ではRoleの設定ができず、ユーザーすべてにManagerの権限が与えられているため、共有スペース中のファイルをだれでも書き換えることが可能だ。運用時に全員がそれを理解していないと、誤ってファイルの内容を変更したり削除してしまうような事故が発生する。最低限、共有スペースを使用するユーザーには注意事項として伝えておくべきだろう。
画面11 Preview Editionでは、Roleを変更できないとのメッセージが出る(画面をクリックすると拡大表示します) |
Enterprise製品との連携
Grooveには、Enterprise向けとしていくつかのサービスや製品が用意されているが、それらを利用することはできない。例えば、社内DBにアクセスするためのゲートウェイ・サーバとしてBOT
Serverが提供されているが、利用することはできない。また、Groove Networksが提供するRelay Service以外のRelayサーバの利用もできない。
●カスタマイズ
ロータスノーツもアプリケーション開発のためのツールや手段が用意されていたが、Grooveでも同様に、アプリケーション開発やカスタマイズが可能である。Grooveには「Groove
Development Kit(GDK)」が用意されており、その中身は、
- ドキュメント
- レジストリセッティング
- Visual C++/Visual Basic/JavaScriptでのサンプルコード
- Grooveデベロッパのツール
である。現在はクライアント向けの開発ツールだけだが、エンタープライズ向けの製品であるRelayサーバに関しても提供される予定である。カスタマイズを行うことにより、より使いやすいデスクトップ・ツールの開発や、企業内の基幹システム/ERP/SCMとの連携も行えるようになる。開発に関する情報は、Grooveのサイトに詳細な情報が公開されている。
■これからのGroove
Grooveの現在のバージョンは1.3である。バージョン1.3からは、Windows XPとの連携機能が強化されている。そのポイントは下記のとおりだ。
- Windows XPに最適化。将来的に、アイコンなどの見た目もWindows XPに合わせる
- Windows XP Messengerとのメッセージのやりとり
- Windows XPのMessengerユーザーでもGrooveの共有スペースにInviteできる
先日Groove Networksは、マイクロソフトより出資を受け「.NET」への全面的対応を表明している。従って、これからGroove Networksより登場する製品は、マイクロソフト製品との連携が容易なものになると予想される。
●携帯端末への展開
Microsoft Tablet PC PlatformへのGroove搭載が、11月に発表された。これまで紹介してきたGrooveはPC上で動作する製品であり、いつでもどこでも使えるメリットを最大限享受する場合、携帯端末への展開は欠かせないと思っていた。ノートPCを常に持ち歩くのは、かなりの労力を要するからだ。今回の発表により、いつでもどこでも自分の環境やプロジェクトの情報が持ち出せるようになるわけで、個人的には期待している。
●米国での事例
今回紹介したのは、Groove Networksのサイトから無料でダウンロードして使用できるPreview Editionだ。米国では、すでに製品版が出荷されており、いくつか使用事例もWeb上で紹介されている。共通して紹介されているメリットは、
- 容易なコラボレーションスペースの作成
- オンライン/オフライン、いつでもどこでも使用できる
- IT管理者の手を煩わせない
などである。Web上で実名で紹介されているのは「グラクソ・スミスクライン」「DARPA(国防総省国防高等研究計画局)」である。
●Grooveをどうとらえるか?
Grooveは、単純にいえば「ピア・ツー・ピアをベースとしたグループウェア」であるといえる。しかし、このとらえ方はロータスノーツをはじめとした既存のグループウェアの域を何ら出ない発想である。現状のGrooveはその使い勝手も見た目も、かなりノーツ・ライクな感じに仕上がっている。だが大きく違うのは、ノーツではサーバや管理者が必要だったことだ。Grooveではそれらが必要ない。
GrooveのEnterprise版には管理ソフトが用意されており、また違った使い方ができるのだが、現状のPreview Editionだけでも問題なく使用できる。Grooveの面白い点は、自由にユーザーが発想したままプロジェクトを起こし、情報を共有、メッセージのやりとりが行えるところだ。またGrooveでは、開発やカスタマイズができるように、さまざまな技術情報も公開されている。これらを利用し、自分たちのアイデアでいろいろな形のGrooveができあがっていくものと思われる。通信回線の速度がさらに速くなり、PCのパフォーマンスもアップしていくと、どこにいても自分のアカウントでワークスペースを持ってくることができるようになり、いま話題の「ユビキタス・コンピューティング」に一番近い製品となるかもしれない。
●Grooveを使ってみよう!
ここまで、Grooveの機能のほんの一部しか紹介していないが、技術面など細かく見ていくと、ファイルやオブジェクトの格納にXMLを使用していたりと、なかなか奥の深い製品である。これらについては、また機会のあるときに紹介させていただくことにしよう。
興味を持たれた方は、ぜひインストールして使ってもらいたい。複数台PCを持っている方なら、ファイル共有だけでもかなりのメリットがある。だが、Grooveの基本はグループウェア。仲間がいないと面白くないだろう。私の名前は「groove.net」のディレクトリに登録されているので、もし見つけられたらメッセージをいただきたい。
特別企画:Grooveとは何か? | |
Page.1 Grooveの概要を知る ・Grooveの原点はロータスノーツに ・Grooveのどこが便利? |
|
Page.2 Grooveの仕組みと使い方のコツ ・特徴は通信の仕組みにあり ・Grooveの便利な使い方 ・Groove入手方法と使用上の注意 ・これからのGroove |
|
「Master of IP Network総合インデックス」 |
- 完全HTTPS化のメリットと極意を大規模Webサービス――ピクシブ、クックパッド、ヤフーの事例から探る (2017/7/13)
2017年6月21日、ピクシブのオフィスで、同社主催の「大規模HTTPS導入Night」が開催された。大規模Webサービスで完全HTTPS化を行うに当たっての技術的、および非技術的な悩みや成果をテーマに、ヤフー、クックパッド、ピクシブの3社が、それぞれの事例について語り合った - ソラコムは、あなたの気が付かないうちに、少しずつ「次」へ進んでいる (2017/7/6)
ソラコムは、「トランスポート技術への非依存」度を高めている。当初はIoT用格安SIMというイメージもあったが、徐々に脱皮しようとしている。パブリッククラウドと同様、付加サービスでユーザーをつかんでいるからだ - Cisco SystemsのIntent-based Networkingは、どうネットワークエンジニアの仕事を変えるか (2017/7/4)
Cisco Systemsは2017年6月、同社イベントCisco Live 2017で、「THE NETWORK. INTUITIVE.」あるいは「Intent-based Networking」といった言葉を使い、ネットワークの構築・運用、そしてネットワークエンジニアの仕事を変えていくと説明した。これはどういうことなのだろうか - ifconfig 〜(IP)ネットワーク環境の確認/設定を行う (2017/7/3)
ifconfigは、LinuxやmacOSなど、主にUNIX系OSで用いるネットワーク環境の状態確認、設定のためのコマンドだ。IPアドレスやサブネットマスク、ブロードキャストアドレスなどの基本的な設定ができる他、イーサネットフレームの最大転送サイズ(MTU)の変更や、VLAN疑似デバイスの作成も可能だ。
|
|