特別企画:ストレージ・ネットワーキング・トレンドレポート【後編】
コストか投資か?
IT資産へのストレージの役割とは?
SNIA日本支部会長日立製作所 和田健一
2004/9/4
ストレージ・ネットワーキング・トレンドレポート(前編)では、ストレージ・ネットワーキング・ワールド(SNW:Storage Networking World)の今年春のイベントレポートとして、ネットワーク業界の6つのトレンドとストレージ管理の次世代標準となる「SMI-S」についてお伝えした。
後半はいよいよ、ストレージを包括したIT資産の管理ソリューションの手引として、SNIAが位置付ける「情報ライフサイクルマネジメント(ILM:Information Lifecycle Management)」について説明したい。また同時にストレージ資産に対する日米のユーザーの違いについても述べることにしよう。
3. SNIAの考える情報ライフサイクルマネジメントとは? |
インターネットの進展とともに、これを介してあらゆる情報を参照して、活用することが可能になってきた。また、各企業、団体、自治体、政府などは各種データをWeb上に公開し、さまざまなサービスを提供してきている。その結果として、変更のたびに新世代として蓄積され、更新されることなく参照される「固定コンテンツ」「参照データ」といったデータが急増し、今後のデータの過半数を占めるという認識が広まっている。
一方、特に米国では、証券、医療などの分野で、電子メール、取引情報、医療データ、電子申請情報などを数年から十数年保管することを義務付ける法規制が進展しつつある。
日本では、e-Japan戦略IIの規制緩和として文書の電子保存が検討されている。
2002年4月に経団連が企業の効率化を図る手段として、書面の電子化を求める意見書をIT戦略本部に提出してきたことを契機に、検討が具体化し、2004年2月には加速化パッケージに取り上げられ、重点項目に選定された。
2004年4月に内閣官房内に法制準備室が設置され、e-文書法(仮称)制定に向けて作業が加速されている。2005年の施行を目指し、早期に国会へ提出するために立案を作業中である。
このような背景を受け、データの保護、蓄積、階層記憶、コンプライアンスなどに対して効率の良いデータ管理のインフラストラクチャが求められている。
この要請に対応しようとしているのが、ILMである。
情報には、生成から廃棄までのライフサイクルがあり、その中で情報の価値が時間によって変化することを考慮した管理・アクセス手段を提供しようという考え方である。しかし、現在、ベンダ間で種々のILMの定義が存在し、業界での統一した定義や目標はない。
4. ビジネスプロセスやビジネス要求も包括するILMモデル |
このような状態に対し、SNIAは整理に乗り出した。
SNIAが提唱するILMのビジョンは以下である。
- 情報をビジネス上の価値に従って、最も適切でコスト効果のあるインフラストラクチャに整理する新しい管理方法
現在検討中のILMの定義(最終案ではない)は以下である。
- 情報ライフサイクルとは、情報が生成され最終的に廃棄されるまでに、ビジネス上の価値に従って、最も適切でコスト効果のあるITインフラストラクチャに整理するために用いられるポリシー、プロセス、実行、ツールから成り立つ。
- 情報は、アプリケーション、メタデータ、情報、データに付随するポリシー、サービスレベルの管理を通じてビジネスプロセスと協調する。在検討中のILMモデルを図6に示す。
図6 ILMモデル(出典: SNIA Data Management Forum :Vision for ILM(2.0)) |
ILMフレームワークと呼ばれるITインフラストラクチャだけでなく、ビジネスプロセス、ポリシーなどのビジネスフレームワークを含む広い概念である。
ゴール管理では、ビジネスの要求(性能、アベイラビリティ、ライフなど)とビジネスプロセスによって、情報の価値を決定し、情報を分類する。
この分類から、情報管理サービス、データ管理サービス、ネットワーク・計算・ストレージのITインフラを動作するための指針となるポリシーを構築する。
5. 日米における認識の違い |
昨年、SNIA日本支部では、独自にSANに関して市場調査を実施した。
目的は、ストレージ市場におけるネットワーキング導入状況および注目されている技術・災害対策取り組み状況の調査であった。調査対象は「IT投資の責任者、および担当者」、従業員500人以上の企業+従業員100人以上の「情報処理サービス」(ただし、政府機関を含む公的機関、調査会社、学校は除いた)、サンプル数は5000で有効回答数251(回収率5%)を得た。
この調査結果についてはSNIA日本支部のWeb上で公開しているので、そこを参照していただきたい。ここでは、米国SNIAが実施した調査と同じ調査項目についてのみ報告する。それは以下の3つの項目である。
1. SAN導入で期待するもの 2. ストレージベンダへ期待すること 3. ストレージネットワーキング導入ベンダ選定基準 |
この3つについて日米を比較をすると、日本と米国で異なる結果が出た。
図7 SAN導入で期待するもの(日米比較) |
図7の表において、米国の期待の多い3項目は、多い順に、「システムの成長を管理・対応」「ストージ管理効率の向上」「既存ストレージの統合」であったが、日本では、「コスト削減」「バックアップ、リカバリー性能改善」の2つが飛び抜けていた。
図8 ストレージ・ベンダへの期待すること(日米比較) |
図8では、米国が、「より良い管理ツール」「より良い相互運用性」が多かったが、日本では、「信頼性の向上」「コスト」が多い。
図9 ストレージネットワーキング導入ベンダ選定基準(日米比較) |
図9では、米国では、「機能性」「価格」「そのベンダの他の製品を使用」に対し、日本では、「価格」「性能・信頼性」「サービス、サポート」であった。
総じていえば、米国では機能に目が行っているのに対し、日本では、価格、性能、信頼性に関心があるといえる。この理由については、引き続き調査したいと考えているが、私見ではデータの活用については米国の方が意識が高いように思う。
米国ではストレージを投資と考えているから活用の意識が高いが、日本ではストレージはコストにとどまっているともいえるかもしれない。
データの活用を含めた需要の掘り起こしが必要であろう。
SNIA日本支部では、SNIA全体の当面の最重要活動であるSMI関連活動の国内への普及促進や国内企業の参加支援をする予定である。また、引き続きストレージ・ネットワーキングに関するニーズの掘り起こしを行い、需要拡大に結び付けるためのエンドユーザー向け活動を継続し、強化したいと考える。
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特別解説:IP-SAN IPでSANが構築できるiSCSI、
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「Master of IP Network総合インデックス」 |
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