【Event Report】
「IP Network Technology & Solution Meeting」
〜エンジニアよ、チャンスは無限にある!〜
鈴木淳也
アットマーク・アイティ 編集局
(取材協力:RBB TODAY)
2002/2/8
2002年1月31日に開催された「IP Network Technology
& Solution Meeting」(主催:インターネット総合研究所/RBB
TODAY/アットマーク・アイティ)。本記事では、イベント・レポートと題して、同イベントで語られたエッセンスを凝縮してお送りしていこう。
イベント自体は「ゼネラル・セッション」「ワークショップ」「スペシャル・セッション」の全3部で構成されている。ゼネラル・セッションについては、すでに@ITのニュース記事「ITの軸になるのはIPネットワーク」で報じられていることもあり、ここでは、ワークショップとスペシャル・セッションの2つを中心テーマとする。なお、ワークショップについては、「ワークショップ・レポート」と題して、Master of IP NetworkフォーラムとEngineer Lifeフォーラムにて、順次詳細レポートをアップしていく予定だ。
●IP Network Technology & Solution Meetingプログラム | ||||||||||||||||||||||||
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■IPv6、IP-VPN…最新技術情報と必要とされるエンジニア像
ワークショップでは、参加者は3つのトラックに分かれ、各1時間15分のセッションを2本、全部で6本のセッションが行われた。そのうち、IPネットワークの最新技術動向に関するものが4本、この分野でエンジニアはどのようにあるべきかを語ったスキル/キャリア系のものが2本となっている。セッションの中には、総スライド枚数が87枚に達しており、とても時間内に終了しないのでは!? と思わず心配してしまう面もあったが、それだけ濃い内容だったといえるだろう。
●いまが旬! のIPv6&IP-VPN
A-1とA-2のセッションでは、まさにいまが旬ともいえるIPv6とIP-VPNがテーマだった。同時刻でのセッションとなったため、どちらにも興味のある方は片方しか聴けず、残念な思いをされたかもしれない。
IPv6のセッションでは、IPv6の登場経緯、現状、移行技術と今後の課題について、歴史的経緯を踏まえつつ順番に解説が行われた。IPv6自体、まだサービスを提供する基本インフラができたばかりの段階で、ユーザーへの本格的な普及はまだまだこれからだ。セッションの後半では、移行のためのシナリオやその技術についての話がメインとなった。また最後に、アプリケーションの互換性、セキュリティ、ネットワーク管理においてIPv6が問題を抱えていることにも触れ、今後の展望についてコメントしている。
IP-VPNのセッションでは、まず最初にIP-VPNの定義について前置きしたうえで、IP-VPNの中核をなす技術であるMPLS(Multi Protocol Label Switching)の詳細な仕組みと最新情報について解説が行われた。IP-VPNは、広義では「IPを使ったVPN」ということだが、現在一般的には「キャリアが提供するIP向けの閉域ネットワーク」を指すことが多い。そこで、インターネット上にL2TPやIPSecを使ってVPNを構築する「インターネットVPN」との違いを明確にしたうえで、IP-VPNの実現方式を紹介した。最後に、MPLSがまだまだ進化していることを説明、その最新仕様をいくつか紹介してセッションを終了した。
IPv6時代の技術者に求められるものについて語る、インターネット総合研究所の荻野司氏 |
●エンジニアに求められるモノ
A-3のセッションでは、インターネット総合研究所の荻野氏の「IPv6時代に技術者求められる条件」について、B-3のセッションでは、現場エンジニアの立場としてブロードバンド・エクスチェンジの小林氏が「IPネットワーク技術者の実像と求められるスキル」について、それぞれ講演が行われた。
講演の中で荻野氏は、「IPv6の登場はIPネットワークの『仕切りなおし』」だとし、PCからnon-PCへの流れも予想され、新たな市場の創造の可能性もあり、ある意味でチャンスだと説明する。技術の潮流を読み、感じることが重要であり、トラブルや現場の事象に対応するための実践的スキルを身に付けていく必要があることを強調した。
一方の小林氏は、自身が現在の会社に至るまでの間にどのような経歴を経て、自らのスキル・アップのためにどのような努力をしてきたかについて語った。小林氏は、あらかじめ「ネットワーク技術習得」「テクニカル・ライティング能力」「英語学習」の3つのテーマを決め、自分がどのようにこれらのテーマに取り組んできたかを説明。来場者に対しては、「日ごろからネットワークの実験を実践してみる」「Webで成果を公開する」など、そのための身近な実践方法について呼びかける。そのほか、「即戦力エンジニアに必要な3つの能力」や「“3倍”仕事術」などの提案も行った。
Work Shopの風景。写真奥に見えるのは、B-3「現場エンジニアが語る、IPネットワーク技術者の実像」で講演を行ったブロードバンド・エクスチェンジの小林直行氏 |
■「IPv6の実際は? ユーザーの関心はどこにある?」
司会者の質問に「○」「×」のカードで答える |
スペシャル・セッションでは、ワークショップの講演者などの代表者が集まり、「技術革新は加速する、新時代のIPネットワーク技術とエンジニアのあるべき姿とは何か?」と題して、テーマに沿ったパネル・ディスカッションが行われた。コーディネータは、@IT代表の藤村厚夫。各分野の代表として登場したのは、インターネット総合研究所 荻野司氏、ネットマークス テクニカルサポートセンター部長 山川拓也氏、@IT 新野淳一、インターネット戦略研究所でIPv6 Journalの編集長を務める三木泉氏の計5名。
まず最初に、登場したゲストそれぞれに対して専門分野に関する簡単な質問が与えられ、「○」か「×」のプラカードで答える。そして、簡単にその理由を述べるという趣向でディスカッションはスタートした。
藤村:
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「現在、IPv6の運用を行っていくことに問題はないのか?」 |
荻野:
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「×」 |
「インプリメントに関しては完了しているが、まだまだ解決すべき問題はある。具体的なビジネスについて経験不足なため、協議会などを通じてこれからいろいろ検討していきたい」 |
藤村:
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「顧客はIP技術に関心があるか?」 |
山川:
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「○」 |
「顧客に対して提案に行くと、雑誌やWebなどで情報を収集しているのか、いろいろ情報を知っており、ユーザー・サイドの関心が高いことが分かる。こちらも提案する立場として、より技術について知っておく必要があると感じている」 |
藤村:
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「@IT読者はIP技術に関心があるのか?」 |
新野:
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「○」 |
「従来までのNetworkフォーラムが、よりIPにフォーカスした『Master of IP Network』フォーラムにリニューアルして成功したことから分かるように関心は高い」 |
藤村:
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「IPv6は技術者に対して認知されているか?」 |
三木:
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「○」 |
「すでにIPv6は有名なキーワードになっている。だが、実際に使うとなると難しく、そこを順次解決していくのが重要」 |
特に荻野氏へのIPv6の質問については、「まだ問題がある=使えない」と解釈されることもあり、なかなか答えにくいところだったと思う。だが、提供者側と利用者側が双方で問題意識を共有することで、今後の発展につながっていくと考えられる。
IPv6というキーワードが登場するたび、「企業用途とコンシューマ用途でどちらが先に広がるか?」「IPv6普及のキラー・アプリケーションは?」という話が必ずといっていいほど出てくる。荻野氏をはじめ、多くの人はコンシューマ用途からIPv6が拡大すると考えているが、企業用途で広がりを見せるには、なにが必要なのだろうか? 山川氏は、「企業ならではのニーズを掘り起こす必要がある」という。それが、どのようなサービスなのかは分からないが、技術者にとっては新たなチャンスとなる可能性もある。
キラー・アプリケーションについては、とかく「PtoP」や「情報家電」といったアイデアが語られることが多い。だが、三木氏は「モバイルを含め、どこでもIPv6が使える環境があること」という新しい意見を出した。キャリアが競ってサービスを提供してくれることで、インフラが広がり、ユーザーにとっては低価格というメリットも出てくるのだという。
IPv6が、いまのところまだブレイク・スルーを見つけられないのは、だれもその先の展開が読み切れていないからだろう。だが逆に、それだけ未知の可能性がある分野だともいえる。
■「エンジニアよ、チャンスは無限にある!」
ディスカッションが盛り上がってきたのは、後半、来場者に事前に配られたアンケートに書かれていた質問が読み上げられてからだ。質問の内容は「IPあるいはIT技術者で将来的に食べていくことは可能なのか?」。質問者は、それまで教師をやっていて、つい最近エンジニアへ転職を果たしたという経歴を持ち、数々の技術を吸収するために苦労の毎日を経験しているという。
社内で人材教育を手掛ける山川氏は、「ほかの業界から見れば、IT業界は景気がよさそうに見える。そこでスクールなどへ通ってキャリア・チェンジを図るわけだが、意識が高い分、立ち上がりが早い」という。また「労働集約的な業界でもあるため、慢性的な人手不足を抱えている」とも付け足す。司会の藤村は、「昔はそれこそ、『3年はキャベツを刻んでろ』という文化があったかもしれないが、もはや“Dog Year”を超えている現状では、そのようなことを言っているヒマはない」と、業界のスピードの速さを強調する。
「ITは、1〜2年その技術をつきつめていくとトップになれるという特殊な業界。例えば、イベントの講演者であるNTTコミュニケーションズの池尻氏は、それこそ1997〜1998年ごろに苦労してMPLSの研究を重ね、いまではこの分野(MPLSとIP-VPN)の代表的存在として活躍している。いまでいえば、『IPv6』や『MPLS』について語れる技術者を探そうとすると、ほとんど『この人』ということで決まってしまう。これから先でいえば『PKI』などトレンドになるかもしれない。とにかく技術者の数がいない」(荻野氏)
だが実際に、そのような技術者を目指すことで、食べていくことは本当にできるのだろうか? これについて山川氏は、「その分野のトップになれば問題ないだろう。流動性が高い業界なので、チャンスはあるはずだ」と、IT業界の持つ高い可能性を示唆した。
パネル・ディスカッションの風景。写真左から、@IT 藤村厚夫、インターネット総合研究所 荻野司氏、ネットマークス 山川拓也氏、@IT 新野淳一、インターネット戦略研究所 三木泉氏 |
また、スキル面については、「楽しく学ぶのはアリだと思う。面白いと思ったほうが吸収が早い」(新野)のように、苦労して覚えるというよりも、興味を持って積極的にその技術を突き詰めていく姿勢が重要だとの認識が多かった。さらに荻野氏は、そのうえで「マーケット・マインド」を持つべきだと提案する。思い込みではなく、マーケットが必要としている技術や製品を汲み取っていこうというのだ。「弊社の人間で、これでもかというくらいに無線LANの通信実験をしているものがいた。『さっきビルの向かいのファミレスから通信に成功した!』という感じで(笑) こういうのが発展して、無線LANのホット・スポット・サービス実験などにつながっていけば……」(荻野氏)。
そのほか、アンケートには「英語」「ビジネス・コミュニケーション」の能力の必要性を挙げた人が多かったという。インターネットの発展により、事実上国境がなくなったいま、英語のスキルは情報収集力に大きな差をつける。また、ビジネス・コミュニケーション能力は、ビジネスの幅を広げるという意味で、今後のキャリア・アップにもつながるものだろう。
無限の可能性を秘めたIT業界。技術者は努力し、その道を突き詰める限り、チャンスはやってくる……パネル・ディスカッションの総括は、そんな自信を与えてくれる結論で幕を閉じた。
@ITでは、さらに詳細にセッション内容を紹介した記事を順次アップしていく予定なので、もし本記事を読んで興味を持たれたテーマがあったら、期待してお待ちいただきたい。ワークショップ・レポート第1弾は、A-2の「高速IPネットワーク『IP-VPNサービス』の技術最前線と今後の展望」を予定している。
関連リンク | |
IP Network Technology & Solution Meetingのページ |
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「IP Network Technology & Solution
Meeting」 〜イベント・レポート総合インデックス |
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ITの軸になるのはIPネットワーク General Sessionの概要を速報レポート! (NewsInsight 2002/2/1) |
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エンジニアよ、チャンスは無限にある! Work Shop各セッションの簡単な紹介 Special Sessionのパネル・ディスカッションの詳細レポート (Master of IP Network 2002/2/8) |
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Workshopレポート A-1〜「IPv6ネットワークの実像と今後の展開」 (Master of IP Network 2002/4/9) |
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Workshopレポート A-2〜「高速IPネットワーク『IP-VPNサービス』の技術最前線と今後の展望」 (Master of IP Network 2002/2/21) |
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Workshopレポート A-3〜「必要とされるIP技術者・その条件」 (近日公開) |
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Workshopレポート B-1〜「広域LANサービスによる基幹業務システムの再構築とその技術」 (Master of IP Network 2002/4/16) |
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Workshopレポート B-2〜「ECサイト構築で求められる負荷分散ネットワーク技術」 (Master of IP Network 2002/3/1) |
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Workshopレポート B-3〜「現場エンジニアが語る、IPネットワーク技術者の実像」 (近日公開) |
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「Master of IP Network総合インデックス」 |
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