ITの軸になるのはIPネットワーク

2002/2/1

 IT不況と言われて久しい。ITバブルはそれほど盛り上がらず、日本経済の“失われた10年”は2000年代に入っても続いている。IT業界がいま直面している課題は、何だろうか? めまぐるしく技術が変化する環境で、ITエンジニアに求められていることは何か?――解決のかぎを握るのは、ネットワークだという。1月31日、ネットワークをテーマとしたイベント「IP Network Technology & Solution Meeting」(主催:アットマーク・アイティ、インターネット総合研究所、RBB TODAY)が都内で開催された。

左はアットマーク・アイティ 藤村、右は藤原氏。藤原氏は「メーカーのIT“製造”不況であって、IT全体が不況なのではない」と述べる

 ジェネラルセッションでは、インターネット総合研究所代表取締役所長 藤原洋氏、フューチャーシステムコンサルティング ネットワークグループ シニアディレクター 今井一好氏が登場した。両氏の意見によると、“ネットワーク”がすべてという。技術でも、ビジネスおよび人間社会でも。

 技術の変遷を見ると、1960年代に現在の電話会社のアクセス系の仕様DS0が固まって以来、ネットワークは刻々と進化を遂げている。いまは、これまでのダイヤルアップから、デジタルCATVネットワークやADSL、そして光ファイバの常時接続による高速ネットワークへの移行が着実に進んでいる。また、モバイルでもIMT‐2000を利用した3Gのサービス提供が始まった。

 「技術革新の本質はIPにある」と藤原氏は言う。1980年代に学術機関で利用されたインターネットはいま、ユーザー網に浸透しつつある。「これからのネットワークは、IP型の距離・帯域・利用量に応じた定額課金をベースに、ユーザーサービスやコンテンツで課金するモデルとなる」(藤原氏)。インフラ提供で収益を得るのではなく、それを土台にしたサービスを提供することでビジネスを創出するモデルへと移りつつある。

 IP化が進むと、コンピューティングは、メインフレームからクライアント/サーバ、3層型のWebコンピューティング、そしてユビキタスへと進化する。1人のユーザーが無意識に、情報家電などに内蔵された複数のコンピュータを使うユビキタスの時代の実現となると、まずはIPv6が思い出されるが、ネットワーク要件はそれだけではない。藤原氏は、IPv6の最大のメリットとされる豊富なアドレス空間のほかにも、アドレスのモビリティ、スケーラブルなブロードバンドネットワーク環境、発信点/受信点関係をグローバルに認識するシステムなども要件として挙げた。

今井氏 フューチャーシステム コンサルティングは初のネットワーク設計コンサル。日本初の事例を数多く手がけてきた

 だが、一見するとバラ色に見えるこれらの進化や革新だが、ユーザー主導で進められない限りはうまくいかないだろう、と両氏とも警笛を鳴らす。特に、今井氏は、ネットワーク機器ベンダが主導して、ユーザーのニーズを後回しにしたネットワーク設計にあたっている現状を鋭く突いた。例えば、ある銀行では、大規模なLANスイッチを過剰に導入していたり、未使用な回線があったりと、システムに不適切な投資が行われているという。ユーザーがベンダのいいなりになっていたのでは、自社に最適なシステム・ネットワークは構築できない。ましてや、企業システムはいまや競争力にも影響するクリティカルな分野だ。「ネットワークの設計と機器供給は分割する必要がある。中立な立場でコンサルティングを行う事業者があって初めてユーザー主導でネットワークが設計できる」(今井氏)。これが、突き詰めると日本企業再生のかぎを握るのだと今井氏は持論を語る。

 IPv6でも同じことが起こりかねない。「ユーザーにしてみれば、IPv4でもIPv6でも、信頼性を確保した通信ができればいい」(今井氏)。豊富なアドレス空間よりも、IPv6が間接的にもたらす、新しいアプリケーション開発手法やPtoPを利用した新しいアプリケーション、セキュリティ関連の新規ビジネスの可能性などにも注目すべきだという。

 主催者であるアットマーク・アイティ 代表取締役 藤村厚夫は、まとめとして、「変化の中心にあるのはネットワーク。それを標準化するIPは新しいITの軸となる」と語った。技術者自らが意識して新技術を開拓し、身に付けていくことが、日本のIT産業に求められていることといえそうだ。

(編集局 末岡洋子)

[関連リンク]
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フューチャーシステム コンサルティング

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