特集:MANと光伝送技術の最新トレンドを探る
- MANの登場と光伝送技術の進化、10Gbpsイーサネット -
近藤卓司
ノーテルネットワークス
2002/6/1
Part.2 WAN/MANを構成する光技術 |
■バックボーン技術の基本「SONET/SDH」
現在、WANを構成する光技術はさまざまなものが用いられているが、基礎となるのはSONET(Synchronous Optical Network)/SDH(Synchronous Digital Hierarchy)だ。SONET/SDHは、電話回線などの低速な回線をTDM(Time Division Multiplexing)と呼ぶ方式で高速な回線に積み上げていく階層的な多重方式だ。SDHは、かつて日本、北米、欧州/アジア(日本を除く)で独自に用いられていた3つの多重方式を統一した世界標準であるが、北米では世界標準のSDHではなく、米国標準として決めたSONETを用いている(図3)。SONETとSDHは厳密には異なる部分もあるが、ほとんど同一の規格で、相互接続も可能だ。日本では、基本的にSDHを用いてきた。
図3 それまで、日本、北米、欧州/アジアで用いられてきた別々の多重方式が統一されたのが、世界標準である「SDH」だ。ただ米国では、そのベースとなった「SONET」のほうが用いられている |
SONETは52MbpsのOC-1を基本に、SDHでは156MbpsのSTM-1を基本に、それぞれを階層的に多重する構造が決められている。後に、SDHでもOC-1相当のSTM-0が追加された。OC-1/STM-0は、電話回線1本分となる64kbpsを24本束ねた1.5Mbpsの回線を、さらに28本分多重したものだ。それを3本多重したものがOC-3/STM-1という具合に、高速側に多重していく。156Mbpsと表記されるOC-3/STM-1を例に挙げると、9行×270列(バイト)のフレームが125マイクロ秒間隔で送られるため、伝送速度は厳密には9×270×8÷125マイクロ=155.52Mbpsとなる。バックボーン・ルータなどは、1.5Mbpsなどの低速回線ではなく、直接SONET/SDHの高速インターフェイスで接続するPoS(Packet over SONET)を用いる。そうした場合に、ルータが使用できるペイロードはOC-3/STM-1を例に取ると、運用管理情報を運ぶためのオーバー・ヘッドを除く149.76Mbpsとなる(図4)。
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図4 OC-3/STM-1におけるフレーム構造の例。伝送速度は、1bytes(bits)×270列×9行÷125マイクロ秒=155.52Mbpsだが、実際にデータとして利用できるペイロードは149.76Mbpsとなる |
■SONET/SDHの特徴は強力な対障害機能
SONET/SDHには運用管理に関する多彩な機能が含まれるが、その中でも最も重要な機能が、信頼性を高めるプロテクション(切り替え)機能である。有名なのは、SOENT/SDHをリング型に構成し実現する「リング・プロテクション」だ。光ファイバの経路としても、敷設区間が重ならないリング型に構成することで、信頼性が高いといえる。リング・プロテクションにはUPSR(Unidirectional Path Switched Ring)とBLSR(Bidirectional Line Switched Ring)と呼ぶ方式がある。
UPSRは、通常時にはリングの両方向へ現用、予備として同一のトラフィックを流し、現用に障害が発生した場合に受信側で予備に切り替える方式だ。「MAN」では、構造が簡単なUPSRが主に用いられている(図5)。
図5 UPSR方式では、リングの両方向へ「現用」「予備」として同一のトラフィックを流し、障害時に受信側で予備に切り替える |
BLSRは、通常時は現用として片方向へ流しているが、障害時はその区間を避けるように折り返して、反対方向で確保された予備を使って迂回する方式だ。どちらも、切り替えは50ミリ秒以内という非常に高い信頼性を提供するが、すべてのトラフィックを救済するには、SONET/SDHリングの半分の帯域しか用いることができない。BLSRは、障害時に救済を行わない代わりに、通常時に利用可能なエキストラ・トラフィックを運ぶこともできる。日本では一般的でないが、北米ではこうしたトラフィックを安いサービスとして提供している。
■SONET/SDHの最新事情
日本では、アクセス網に日本独自のSDH光伝送装置を用いてきたが、最近の「MAN」では、最新の北米製のSONET光伝送装置が非常に多く導入されている。北米の低速の基本速度が日本と同じ1.5Mbpsということもあり、SONET光伝送装置に日本向けの機能を若干追加するだけで、従来のSDH光伝送装置相当の製品として適応できるからだ。多くのSONET光伝送装置が既存のサービスを収容するだけでなく、ベンダ独自の方法でイーサネットを代表とするデータ系のトラフィックを収容できる。また、ダーク・ファイバを借りている通信事業者の場合は、同時に機器を置く場所も借りなければならないため、非常にコンパクトな北米のSONET光伝送装置が「MAN」の要件にフィットしたという事情もある。もともと北米では、SONET光伝送装置をユーザーのビルなどに置いて複数のユーザーを集めてくるアクセス回線の多重にも使っていたため、非常にコンパクトに作られているのだ。
現在の「MAN」では、最大でOC-48(2.4Gbps)あるいはOC-192(10Gbps)まで多重できる製品が主流となっている。長距離向けのSONET/SDH光伝送装置では、OC-192よりさらに高速なOC-768(40Gbps)などが開発されている。「MAN」では、より太い帯域幅が必要な場合は、もっと単純にOC-48/OC-192のSONET/SDHを別の方法であるWDM(Wavelength Division Multiplexing)技術を用いて多重する。WDMは、1本の光ファイバに異なる波長を持った信号を多重することで、光ファイバ当たりの伝送速度を増やす技術だ。多重には光カプラや光スプリッタといった、電気駆動を必要としない受動的な光合分波器などが用いられる(図6)。
図6 WDMでは、複数の波長を1つの光ファイバに多重して伝送することができる。そのため、限られた環境でより太い帯域幅が得られる |
■複数の波長を1つの光ファイバに束ねる「WDM」
WDMは、多重できる波長数などによって区別されることがある。非常に多くの波長、具体的には16波以上を多重するDWDM(Dense WDM)、8波程度を多重するCWDM(Coarse WDM)、4波程度を多重するWWDM(Wide WDM)などだ。基本的に、多重する波長が少ないほど光関連部品の精度が悪くてもよいため、小型で安価な製品が提供できる。WDMは、「MAN」で必要な伝送距離を延ばすのにも向いている。光信号は、光ファイバを通る距離に従って減衰するため、伝送距離に制限がでる。WDMでは、光アンプと呼ばれる光信号を増幅する技術を用いて、多重したままの状態で一括して信号を増幅できるため、非常に簡単な構成で伝送距離を延ばすことができるのだ。
WDMは単に波長を変えているだけなので、イーサネットなど、SONET/SDH以外のどんな光信号でも多重できる。最近では、LANでおなじみのイーサネットとWDMとの組み合わせが「MAN」で積極的に使われている。ギガビット・イーサネットは標準には含まれないが、ベンダ独自で「MAN」で使用可能な数十kmの伝送を実現している。ギガビット・イーサネットとレイヤ2スイッチだけを用いたイーサネット「MAN」が、ダーク・ファイバを使って構築できる。さらにWDMを用いてSONET/SDHと多重することも可能というわけだ。
次章では、10GbpsイーサネットやRPRに代表される最新の光技術を解説する。
Index | |
特集:MANと光技術の最新トレンドを探る | |
Part.1 アクセス回線のブロードバンド化とMAN ・MANとは何か? ・MANの登場と市場の変化 [コラム] ダーク・ファイバとは? |
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Part.2 WAN/MANを構成する光技術 ・バックボーン技術の基本「SONET/SDH」 ・SONET/SDHの特徴は強力な耐障害機能 ・SONET/SDHの最新事情 ・複数の波長を1本の光ファイバに束ねる「WDM」 |
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Part.3 10Gbpsイーサネットの登場とRPR
・WAN向けでの使用が想定された「10Gbpsイーサネット」 ・10GbEに高い耐障害性をもたらす「RPR」 ・SONET/SDHもさらに進化する |
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