ユビキタス時代に華開くか!? 最新IP技術の実像に迫る
特集:モバイルIP技術詳解
最近、外出先でも無線LANでインターネットに接続できる「ホットスポット・サービス」が話題になっていますが、これらサービスが一般的になってくると、ノートPCやPDAなどの持ち運び可能な機器のメリットを存分に生かすことができるようになります。端末の移動を考慮したTCP/IPの最新仕様である「モバイルIP」は、まさにこのような時代に花開く技術なのかもしれません。本特集では、この技術の仕組みや展望について、プロトコルの動作にまで踏み込んで詳細に解説していきます。 (編集局)
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福永勇二
インタラクティブリサーチ
2002/9/21
Part.1 「モバイルIP」が必要な理由 |
「いつでもどこでもコンピュータとネットワークが使える」ユビキタス社会はまだ遠いが、常にカバンにPDAを潜ませ、ホットスポットのカフェでメールチェックをする人はいま確実に増えている。LANケーブルの呪縛を逃れ、街中で快適な高速無線通信が利用できるのだから、当然といえば当然だ。
いまのところ、こういった使い方はメールチェック、それも一定個所に留まったままで行うものが大部分を占める。しかしいずれユーザーの要求はさらに高度化するはずだ。例えば、本格的なIP電話機能を持ったPDAが登場したら、カフェから駅へと異なるホットスポットへ移動しても、通話はそのまま継続したいというニーズが出てくるだろう。電波が弱くて通信が不安定な場所では、LANケーブルを接続するだけで、会話を継続したまま通信状態が安定すればとても便利だ。
この例から分かるとおり、すでに「どこにいても通信できる」インフラを獲得したわれわれは、次に「通信しながらどこにでも行ける」ためのインフラを求める方向に動き始めると考えられる。モバイルIPはそれを実現する技術の1つだ。
■移動端末とIPアドレスの関係
例えばPHSカードを装着したサブノートPCを持っているあなたが、お気に入りのカフェからISPのPIAFSアクセスポイントに接続し、ストリーミングで音楽を聴いているとしよう。そのとき急用を思い出してカフェを飛び出したとしても、あなたのサブノートPCは引き続き同じ音楽を演奏するはずだ。
では、そのカフェがホットスポットで、あなたは無線LAN経由で音楽を聴いていたらどうだろうか。通信帯域が広い分、無線LANの方がいい音を奏でてくれるはずだが、カフェを飛び出した時点で、おそらくその演奏は途切れることになるだろう。仮にあなたが移動する先々に、連続して次々とホットスポットが並んでいるとしても、この状況に変わりはないはずだ。
どうしてこのような現象が起こるのか。それは端末のIPアドレスで考えると分かりやすい。PHSカードでPIAFSアクセスポイントに接続した場合、ノートPCのIPアドレスはアクセスポイントが自動的に付与する。アクセスポイントが付与したIPアドレスは、アクセスポイントへの接続が途切れない限り、たとえPHS基地局が次の基地局に切り替わったとしても、そのまま継続利用することができる(図1)。
図1 PHS基地局が切り替わってもIPアドレスは同じ |
少し技術的ないい方をするなら、PHS網内で発生するハンドオーバー(基地局の切り替え)は、端末から見ればデータリンク層以下のイベントであり、ネットワーク層アドレスであるIPアドレスに影響を及ぼすことはない、ということになる。
では、ホットスポット間を移動する場合はどうか。一般に無線LANは1つのハブまたはルータとして機能する。つまり、無線LANの基地局が変わるということは、まったく別のLANにPCを接続するのに等しい。そのため、ホットスポット間を移動すると、端末のIPアドレスはそのたびに変わり、結果として毎回通信は途切れることになる(図2)。
図2 無線LAN基地局が切り替わるとIPアドレスは変わる |
いい換えるなら、ホットスポット間の移動はネットワーク(サブネット)の移動であり、その都度、動的にIPアドレスの割り当てを受ける必要がある。そのため、移動によってIPアドレスが変わると、移動前に張ったセッションは無効にならざるを得ないのである。
こういった状況は、メールの送受信やWebサーバへアクセスする場合には、あまり大きな問題にならない。なぜなら、これらのアプリケーションは、サーバへのアクセスを行うたびに、毎回独立したセッションを設定するためである。しかし、ストリーミングによる音楽演奏のように、連続してサーバ〜端末間の通信路を確保しなければならないアプリケーションでは、IPアドレスの変更がサービスの連続性に大きな支障をもたらすことになる。今後、増加が予想されるIP電話などについても同様だ。
それならば、すべてのアクセスをPHSカードのように、回線レベルでの切り替えに終始すればいいようにも思える。だが、この仕組みはネットワークの利用効率が悪い。ノートPCとアクセスポイントの間を考えてみよう。あなたが通信をしていてもしていなくても、その電話回線はあなたに占有されている。皆がそんな使い方をしていたら、ネットワークはガラガラなのに接続できないという状況すら発生し、非常に利用効率が悪いものとなる。
では、無線LANのようにその基地局の範囲を1つのネットワークと考え、ネットワーク間をIPプロトコルで接続した場合はどうだろうか。インターネットの基本的な考え方にのっとれば答えは簡単だ。単独ユーザーが特定の帯域を占有することがなくなり、複数ユーザーが帯域を効率的に共有することができるようになる(統計多重効果)。この点から考えると、広範なエリアを高速ネットワークで経済的にカバーするためには、無線LANのようなネットワーク形態が適していることは明白だ。
こういった複数ネットワークを相互接続した環境(インターネットワーク)において、端末がネットワーク間を移動しても、常に同じIPアドレスで継続的に通信することを可能とする、モバイルIPはそんなニーズから誕生した。
Index | |
特集:モバイルIP技術詳解 | |
Part.1 「モバイルIP」が必要な理由 ・PHSによるインターネット接続とホットスポットでの無線LAN接続との場合を比較してみる |
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Part.2 モバイルIPとはどのような技術か? ・手紙の転送の例を基に、モバイルIPの動作を理解しよう |
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Part.3 モバイルIPのメカニズムを技術的に検証する ・エージェント間のメッセージのやりとりなど、プロトコル・レベルでのモバイルIPの動作を理解しよう |
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Part.4 モバイルIPの課題とそれを解決する技術 ・IPv6、実装面など、モバイルIPが抱える問題を検証する |
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Part.5 これからのモバイルIP ・モバイルIPをどのように展開するか!? |
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「Master of IP Network総合インデックス」 |
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