ユビキタス時代に華開くか!? 最新IP技術の実像に迫る
特集:モバイルIP技術詳解
福永勇二
インタラクティブリサーチ
2002/9/21
Part.2 モバイルIPとはどのような技術か? |
■モバイルIPの概要
モバイルIPは1996年にRFC2002として登場した新しい技術である。当初はIPv4向けに開発され、IPv6への対応化が図られた。2002年に横浜で開催されたIETFのWorking Groupで、IPv6化も含めた全体の仕様が固まったもようだ。一部携帯のIPネットワーク内部ではすでに利用されているといわれるが、より広範な有用性の評価と普及は、これから進むものとみられる。
モバイルIPそのものは理解困難なクセモノでは決してない。それは根底に流れるアイデアがシンプルだからだろう。モバイルIPが生まれたきっかけは、オフィス外に持ち出したノートPCなどに、オフィス同様のネットワーク環境を実現することだったといわれる。端末の移動性を確保する汎用的な技術と位置付けられたのは後のことだ。そんな背景もあって、その仕組みは直感的に理解可能なものとなっている。
モバイルIPの仕組みを実在するものでいえば、それはちょうど郵便物の転送のようなものだ。例えば、家族とともに横浜で生活しているAさんが、仕事の都合で1カ月ばかり広島に出張することになったとする。この間、Aさんあての郵便物を確実にAさんに届けるにはどうすればよいか。
答えは簡単だ。家族のだれかが、横浜に届いたAさんあての郵便物を、広島の一時的な住所を書いた封筒に入れて、あらためてそれを郵便物として投かんする(図3)。Aさんは、横浜の家族が投かんした封筒を受け取ったら、単にその中身を取り出す。こうすることで、本来なら横浜にいるはずの自分あてに届いた郵便物を、そのプライバシーを維持したまま、一時的に住んでいる広島で受け取ることができる。
図3 郵便物の転送を例に考えてみると…… |
また、Aさんが第三者に郵便物を送るときには、投かん元の住所には家族が住む横浜の住所を書いておく。広島の住所は一時的なものであり、そこに送られた郵便物は、ある時点から受け取れなくなるからだ。投かん元に横浜の住所を書いておけば、その郵便物への返事は横浜に届き、先述と同じ手順で広島で受け取ることができる。こうしておけば、もし立て続けに福岡への長期出張が決まったとしても、横浜の家族に新しい住所を連絡するだけで、これまでどおり福岡でも郵便物を受け取ることができるはずだ。
これはそのままモバイルIPの仕組みである(図4)。本来の居住地である横浜で郵便物を転送してくれる家族を、モバイルIPの世界では「ホーム・エージェント(Home Agent)」と呼ぶ。上の例では、自分が横浜から転送されてきた封筒を開封していたが、モバイルIPの世界では、このほかに別の人が開封して、中身だけあなたに渡してくれてもいい。この役割を果たすのが「フォーリン・エージェント(Foreign Agent)」だ。
図4 モバイルIPでのメッセージのやりとり |
また本来の居住地である横浜の住所は「ホーム・アドレス(Home Address)」と呼ばれ、一時的な居住地である広島や福岡の住所を「気付アドレス(Care-of Address)」と呼ぶ。横浜から広島や福岡に郵便物を転送するのに用いる外側の封筒は、実際のネットワークではパケットをカプセル化した「トンネル(Tunnel)」が用いられる。
もう1つ重要なのは、自分の居場所を家族に連絡する動作だ。モバイルIPではこれを「位置登録(Registration)」と呼ぶ。自分の位置を登録する先は、実世界の場合と同様、ホーム・エージェントだ。登録は移動している端末自身が直接行ってもいいし、フォーリン・エージェントに代行させてもよい。
ここまで実世界との対比によってモバイルIPの全体像はすんなり把握できたと思う。次項ではもう少し詳しく、プロトコルレベルでモバイルIPを切ってゆくことにしよう。
Index | |
特集:モバイルIP技術詳解 | |
Part.1 「モバイルIP」が必要な理由 ・PHSによるインターネット接続とホットスポットでの無線LAN接続との場合を比較してみる |
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Part.2 モバイルIPとはどのような技術か? ・手紙の転送の例を基に、モバイルIPの動作を理解しよう |
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Part.3 モバイルIPのメカニズムを技術的に検証する ・エージェント間のメッセージのやりとりなど、プロトコル・レベルでのモバイルIPの動作を理解しよう |
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Part.4 モバイルIPの課題とそれを解決する技術 ・IPv6、実装面など、モバイルIPが抱える問題を検証する |
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Part.5 これからのモバイルIP ・モバイルIPをどのように展開するか!? |
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「Master of IP Network総合インデックス」 |
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