特集:インフラベンダからの、いまの売れ筋はこれだ!(2)
WANを介しファイル共有を高速化するWAFSが国内で流行する十分な理由
2006/8/29
大宅宗次
企業にコンプライアンス (法令順守)が強く求められる風潮になってきた。各拠点に分散配置していたサーバやストレージをを集中化しなければならない事情となっている。WAN回線を介したファイル共有を高速化するWAFS技術が注目されている。ブロケード、ジュニパー、F5などのベンダ製品を紹介しながら、最新のWAFS事情をお伝えする。 |
ファイルサーバやネットワークストレージの削減命題 |
企業ネットワーク向けの売れ筋商品は流行に敏感だ。インフラベンダはヒット商品を生み出すため、早く流行を見つけ出すのが仕事の1つなのだが、これが一番大変な仕事かもしれない。そのためのヒントを見つける最も簡単な手段が、海外のメーカー、特にベンチャー企業が作り出す全く新しいカテゴリの商品へ注目することだ。
今回紹介する「WAFS」関連の製品は、2年ほど前から米国を中心に専業のスタートアップベンダが誕生しており、業界では早くから新しい製品カテゴリとして注目していた。日本市場と海外市場では事情が違う点も多く、海外の製品は日本の環境を全く考慮していないものもあり、そのままでは日本でヒット商品になりそうにないものも多い。しかし、ちょっと手を加えたり方向性を変えてみたりすると激変する場合もあり、全く新しいもののヒントは経験的にまだまだ海外発のものが多いと思っている。
ただし、実際にこうした新しい製品を日本市場で売り出すころには、ヒントにさせてもらったベンチャー企業は大手企業に買収されてしまっていることが多い。現時点ではほとんどのWAFSベンダが大手企業に買収されており、裏を返せば日本でヒット商品となる準備が整った状態になったといえるだろう。
WAN回線を介したファイル共有を高速化させるWAFS |
現在、日本の企業ネットワーク向けの商品では「セキュリティ」をキーワードにしたものが流行の中心だ。しかし、多くは既存の製品にセキュリティの機能を追加したり、複数の製品を組み合わせたりと全く新しいというものは少ない。こうした状況の中で異彩を放っているのが全く新しいカテゴリといえるWAFS製品だ。
「WAFS」とはWide Area File Serviceの略で、LANに比べ低速で遅延のあるWAN回線を介したファイル共有を高速化、あるいは最適化する技術を意味する。ファイル共有を実現するプロトコルの代表格が、マイクロソフトのWindowsファイル共有サービスで用いるCIFS(Common Internet File System:参照記事:<トレンド解説>企業WANのストレージ・システム構築に新しい風)だ。
CIFSは名前の割にはWAN回線での使用をあまり想定しておらず、クライアントとサーバ間の確認のやりとりが多い「おしゃべり」な作りになっている。WAN回線を介してファイル共有をしようとすると、特に遅延の影響を受けやすく極端に遅くなってしまうのだ。
WAFS参入ベンダの特徴 |
WAFS製品はサーバとクライアント間のWAN回線の両端に設置して、さまざまな技術を用いてファイル共有を高速化、あるいは最適化する。以下の3つが代表的な技術だ。
1. キャッシュ : 誰かが一度アクセスしたデータを拠点のWAFS装置にキャッシュしておき、ほかの人がアクセスした場合にキャッシュから読み出すことで高速化とWAN帯域の無駄を削減 2. 代理応答 : サーバとクライアントとの間で行われる応答確認をWAFS装置が代理で応答することにより、やりとりで発生する遅延を削減 3. 差分、および圧縮転送 : ファイルを変更する際に元のファイルからの差分のみを転送することでデータ量を削減。同様にファイルを圧縮して転送することでデータ量を削減 これらの機能により、これまで各拠点に必要だったファイルサーバやネットワークストレージを削減することができるようになるのがWAFS製品のメリットだ(図1)。
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基本機能の性能の違いや、機能の使い方の相違、そのほかの機能との組み合わせなどを各社が競っており、一般的にWAFS製品と呼ばれているものの中でも厳密にはかなり大きな違いが存在する。
しかし、どのWAFS製品も基本機能は同じだ。現在のところ市場に出荷されている主なWAFS製品は以下のとおりだ。なお、CIFS対応を機能のメインとしたWAFSとの違いをアピールするために、WAN高速化装置、あるいはWAN最適化装置と呼んでいる製品もあるが、ここでは同一に紹介する。
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表1 主なWAFS製品(WAN高速化/最適化装置と呼ばれているものも含む) |
WAFS導入が主流になるまでの3つの課題 |
日本でもここのところ企業倫理が問われるさまざまな不祥事を背景に、企業にコンプライアンス (法令順守)が強く求められる風潮になってきた。コンプライアンスの実現や、特に情報漏えいを防ぐために情報を集中化することが企業の命題となってきたのだ。
これまでも各拠点にサーバやストレージを分散配置することはコスト的に企業の大きな負担となっていた。そして、単純なコスト削減以外の理由でサーバやストレージを集中化しなければならない事情が出てきたのだ。
このようにWAFS製品が日本で流行する状況が整ってきた。しかし、日本でヒット商品になるためには、まだまだ解決しなければならないWAFS製品のネガティブな要素もある。インフラベンダから見たWAFS製品の3つの課題とその解決方法を紹介する。
(1)WAFS製品は日本の環境に合うのか?
筆者は、当初はWAFS製品が日本の環境に合うかどうか正直疑問を持っていた。例えば、あるベンダは、WAFS製品の導入効果があり、売り込み対象企業としてこのような例を挙げていた。「従業員1000人で全米の主要都市10カ所に拠点が分散していて、拠点間をT1回線で接続している企業」。
T1回線とは昔ながらの1.5Mbpsの専用線で、日本ではすでに忘れられている存在だが、海外ではまだWAN回線として主流になっている国も多い。米国は国土が広いため距離に依存する遅延が非常に大きく、低速な回線と併せてWAFS製品が解決を得意とする環境なのだ。また、米国では規模が同じ程度の主要都市が分散している。先の例で10拠点がそれぞれ100人ずつというのも珍しい話ではない。
一方、日本では一般的に一極集中といわれる環境だ。あまりにも人数が少ない拠点ではWAFS製品の効果を発揮しにくいのだ。
こうした日本と米国の環境の違いを考慮すると、日本では全面的にWAFS製品を導入しても効果を得られる企業は限られてくる。例えば同一県内に小さな拠点が多数ある企業などは、そのエリアでは効果を発揮しにくい。
一方、東京−大阪間などのある程度の距離が離れた大規模拠点間にはWAFS製品の効果を発揮しやすい。各WAFS製品ベンダは日米の環境の違いを考慮して、日本向けに小規模拠点用の小型で安価な装置を投入し適用範囲を広げようとしている。このような製品の登場は日本市場で一定の効果が得られそうだ。
しかし、幸いなことに日本では遅延が少ない都市内では安価なブロードバンド回線が選択できる。よって、日本では思い切って大きな効果の出るところに絞ってWAFS製品を導入するというアプローチが正解のようだ。WAFS製品を提案する国内のベンダやインテグレータにも、このようなノウハウが蓄積されてきて課題は大幅に解決できそうだ。
(2)WAFS製品の対象とするファイル共有はあまり使われていない?
WAFSは主にWindowsファイル共有サービスで用いるCIFSを対象としている。企業の業種や、同一企業内でも部門によっても大きく異なると思うが、ファイル共有はあまり使っていないという声も聞かれる。
実際のところはストレージのデータ容量は年々増強していかなければならないほど増えているのだが、WANを介したファイル共有がどれくらい、あるいはどのように利用されているか分からないというのが本音だろう。
ただし、WAFSベンダもCIFSのみに特化していては商機を逃すと考えていて、最近ではCIFS以外のプロトコルやアプリケーションの対応に力を入れ始めている。例えばHTTPやFTPなどのインターネット系のプロトコルの最適化、高速化は多くの製品が標準的に対応している。さらには特定のアプリケーションに特化した機能も目立ち始めている。特に効果が期待できるのがマイクロソフトのExchangeメール送受信の最適化機能だ。
Exchangeは多くの企業が使用しており、ファイル共有の代わりに使われている場合も多いため、対応していれば非常に有効だといわれている。また、最近ではERPやデータベース アプリケーション対応にまで手を広げている。
こうした多くのプロトコルやアプリケーションに対応している製品は、WAFSとは呼ばずにWAN高速化装置、あるいはWAN最適化装置と呼んでいるベンダもいる。企業は何を最適化、高速化することでコスト削減をするか考える必要はあるが、何でも対応している製品の登場はWAFS製品の適用領域を着実に広げている。少なくともWAFS製品がファイル共有でしか効果を発揮できないというのは間違った認識になりつつある。
(3)WAFS製品の値段は高い?
WAFS製品が登場した当初は、新しいカテゴリの製品ということもあり、かなり高めに価格設定されていた。現在では市場投入から時間がたち、多くのベンダが参入してきたこともあり低価格化の傾向にある。実際、各社のWAFS製品の値段は数十万から数百万までとかなり幅がある。
しかし、ネットワーク機器として単純にスイッチやルータなどのほかの装置と比較すると、まだまだWAFS製品は高いという印象を抱いている人もいるだろう。WAFS製品が高いか安いかを判断するには、例えば導入による拠点サーバの削減という費用対効果に注目しなければならない。
拠点サーバの削減は、特に運用コストの削減に大きく貢献する。結論をいえば、WAFS製品はWAN接続に効果を発揮する装置でありながら、ネットワーク機器と考えてはいけないのだ。これはWAFS製品の売り込み方にも影響を与えつつある。当初、WAFS製品は新しいネットワーク機器として売り込んでいたのだが、なかなか費用対効果を示すことができず苦戦をしていた。
ところが、最近ではWAFS製品はサーバ周りの付加装置として位置付けを見直す動きが出てきた。サーバのロードバランサやSSLアクセラレータなどと同じ扱いにしたのだ。WAFS製品はサーバ周りの一装置として提案することでようやく費用対効果を示せるようになってきている。最近ではWAFS製品ベンダもサーバやストレージ関連のベンダとの提携やOEMに注力し始めている。また、日本でもネットワーク系のインテグレータに代わり情報系のインテグレータがWAFS製品の取り扱いに力を入れ始めた。
また、DHCPサーバやプリントサーバ、ドメインサーバなど拠点の低価格なサーバ機能をすべて代わりに提供する、オールインワン型のWAFS製品も登場している。こうした取り組みの効果はまだ限定的だ。しかし、WAFS製品がヒットするころには、ネットワーク製品を協調する「WAN」という言葉を語らなくなっているかもしれない。
以上のとおりWAFS製品は市場投入から時間を経て、日本市場で用いるためのノウハウを手にしつつある。WAFS製品がヒット商品となるのはもう間近だろう。
来月はWi-MAX。お楽しみに |
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