特集:インフラベンダからの、いまの売れ筋はこれだ!(3)
モバイルWiMAXを普及させるメッシュ中継と5.xGHz帯

WiMAX(Fix、Mobile、メッシュ型)


2006/10/3
大宅宗次

海外で普及が加速するモバイルWiMAX。国内では厳密な電波法が妨げとなっていたが、いよいよ突破口が開かれた

 電波法でワイヤレス製品の使用が
 厳密に規制されている日本

 インフラベンダが新しい売れ筋の製品を探す際に、ワイヤレス関連の製品というのは注意が必要だ。ワイヤレスは電波を使用するのだが、電波とは公共の財産であり日本では電波法により使用が厳密に規制されている。

 どんなに技術的に優れていても日本で使用できないワイヤレス製品は意味がないのだ。海外のワイヤレス製品を日本市場に紹介するためには、製品の先進性に加え、日本で使用できる、あるいは将来使用できるようになる製品でなければならない。つまり、日本でどのように使用できるかの動向によってヒット商品が大きく変わってくるのだ。

 移動体に拡張された
 ラストワンマイル技術

 最近のワイヤレス業界では「WiMAX」が話題の中心になっている。WiMAXはご存じのとおり、1台の無線LANアクセスポイントで半径約50kmをカバーし、最大70Mbpsの速度で通信できる、最新の無線ブロードバンド技術である。本来は光ファイバなどのアクセスインフラが整っていない地域に、広帯域アクセスを提供する固定型の無線技術として開発された。こちらは「固定WiMAX」と呼ばれIEEE 802.16-2004ですでに標準化されている。もともとはIEEE 802.16dと呼ばれていた技術だ。

 しかし、高速なアクセスインフラが整っている都市部では固定無線アクセスの需要が少ないため、移動体でも使えるように拡張されたものが「モバイルWiMAX」である。こちらもIEEE 802.16-2005として標準化は完了しており、従来のIEEE 802.16eという呼び方もまだ一般的には使われている。日本で注目されているのはモバイルWiMAXの方だ。携帯電話を用いたデータ通信より安価で高速であり、店舗や施設内に限定された無線LANアクセスに比べ屋外を含め面的にカバーできる新しいワイヤレス技術として期待が高まっている(図1)。

図1 固定WiMAXとモバイルWiMAXの違い

 モバイルWiMAX、
 日本での使用には多くの課題

 製品化は固定WiMAXの方が先行している。固定無線の専業ベンダが中心で、米エアスパン・ネットワーク米アペルト・ネットワーク、イスラエルのアルバリオン、カナダのレッドライン・コミュニケーションなどが製品を提供している。一方、注目のモバイルWiMAXの方は非常に多くのベンダ、特に海外の大手の通信機器メーカーが積極的に製品化に着手している。

 例えば、アルカテルモトローラシーメンスノキアノーテルなどの古くからの通信機器メーカーに加え、本社を香港に置き、主に中国で活動するファーウェイZTE、韓国のサムスンなどだ。モバイルWiMAX関連はこれからの売れ筋商品として業界全体が注目しているのだ。では、モバイルWiMAXは現状日本で使用できる状況なのだろうか? 実は注目度とは裏腹に、日本で使用するためにはまだ多くの課題がある状況なのだ。

 国内の周波数帯に
 ほとんど空きがないという事実

 WiMAXは世界各国の電波事情に対応すべく広い範囲の周波数帯に対応しようとしている。しかし、現状で多くの国々で使える周波数帯を優先して規格化、あるいは製品化している。例えば固定WiMAXなら3.5GHz帯、5.8GHz帯で、モバイルWiMAXなら2.3GHz帯、2.5GHz帯、3.5GHz帯という具合だ。

 ちなみに電波は周波数が高いほど伝搬の直進性が高くなり、周波数が低い方が回り込む特性がある。移動体向けには障害物があっても効率的にカバー範囲を広げられる低い周波数帯の方が有利だ。現時点で日本ではWiMAXで規格化されている周波数帯で自由に使える空きはほとんどない。

 そんな状況の中でモバイルWiMAX向けには規格化されている2.5GHz帯(正確には2.535〜2.605GHz)の割り当てが検討されている。ただ、この2.5GHz帯は70MHzの幅しかなく前後の周波数帯は別の目的で使用されているため、隣接への影響を減らし電波を効率的に使う方法が議論されている段階だ。また、仮に方針が決まっても、多くて3社程度の事業者に電波を占有する免許として割り振られる形態になるだろう。

 モバイルWiMAXは通信サービスを提供する技術として用いられ、企業や自治体などが自営ネットワークで使える可能性はまったくない。また、注目度の高さから獲得を希望する事業者が多いため割り当ては困難を極めると予想されている。モバイルWiMAXを使った商用サービス開始までは相当な時間がかかると思われる状況なのだ。

 韓国で独自の進化、
 モバイルWiMAX技術、「WiBro」

 よって、モバイルWiMAX関連の製品で売れ筋を見極めるのは困難だが、先行している海外ではどんな状況なのだろうか。お隣韓国では独自のモバイルWiMAX技術、「WiBro」を使った商用サービスがすでに開始されている。コリアテレコム(KT)とSKテレコムという韓国を代表する通信事業者がサービスを提供しているのだが、注目されているのはサービスの差別化を加速するためのWiBro向けの新しい端末だ。

 業界ではモバイルWiMAXは携帯と無線LANの間を補完するサービスとして位置付けられているが、それをユーザーに分かりやすく見せるのが専用端末である。韓国ではサムスンやLG電子といった端末を得意とする国内ベンダがおり、今後はWiBro専用のPDA型を代表とする高機能小型端末が続々と投入されることが予想されている。

 日本はモバイルWiMAXの商用サービスが遅れる分、端末に関しては海外の成功事例を見極める余裕が生まれる。また、日本は韓国と同様に特に端末を得意とする多くのメーカーがおり、最近ではウィルコムPHSの専用端末「W-ZERO3」が話題を呼んだ。近い将来のヒット商品を目指してモバイルWiMAX向け端末の開発が日本メーカーを中心に水面下で進められるだろう。

 技術基準さえ満たせば
 固定WiMAXで使用することも可能だが……

 一方、固定WiMAXも海外で用いられている周波数帯の日本での使用は難しい状況だ。しかし、固定WiMAX向けには国内独自規格となるがすでに使用できる周波数帯が存在する。本来は無線LANの屋外利用の促進のために開放された4.9GHz帯(4.9〜5.0GHz)と5.0GHz帯(5.03〜5.091GHz)だ。

 あまり知られていないが、技術基準さえ満たせば固定WiMAXで使用することも可能だ。4.9GHz帯と5.0GHz帯は免許不要で基地局などの登録を行えば、企業や自治体なども使用できるが、登録した複数のユーザでの“共用利用”とされ、使用制限など調整される可能性がある。また、4.9GHz帯は現状では東京、大阪、名古屋といった限られた地域しか使えない。

 5.0GHz帯は2007年11月末までの期間限定で使用できる周波数帯であり、2007年12月以降は4.9GHz帯のみが全国で使用できるようになるという制約がある。日本では業界に先駆けYOZANがWiMAXサービスを開始している。YOZANはこの4.9GHz帯を使用して、東名阪で固定WiMAXアクセス、および固定WiMAXをバックホールとして利用する無線LANアクセスを提供しているのだ。

 多くの事業者が通信サービスとしてはモバイルWiMAXが本命だと考えているといわれているが、モバイルWiMAXのサービス実現が遅れそうなため、特に企業や自治体の自営ネットワーク向けにYOZANのサービスのような固定WiMAXと無線LANの組み合わせが注目され始めている。

 メッシュ中継で長距離の接続ができる
 固定WiMAXを活用する方法

 固定WiMAXと無線LANの組み合わせの活用にはさらに2つの追い風がある。1つは無線メッシュ技術との融合だ。ご存じのとおり、無線LANは2.4GHz帯の802.11b/gと5GHz帯の802.11aがある。2.4GHz帯(2.412〜2.472GHz)は屋内、屋外で利用できるが、5GHz帯の5.2GHz帯(5.150〜5.250GHz)と5.3GHz帯(5.25〜5.35GHz)は日本では屋内でのみ使用が許可されている。

 無線LANアクセスのカバー範囲を簡単に伸ばすために検討されてきたのが無線メッシュ技術である。屋内向けにも需要はあるが、特に屋外でも使用可能な2.4GHz帯を使って端末同士、あるいは無線中継機能を持ったアクセスポイントを介してメッシュ型に接続することでカバー範囲を広げる製品が登場してきた。

 しかし、1つの共有の周波数帯を使用すると速度が低下するため、メッシュ中継部分には干渉しない別の周波数帯を使う方法が検討された。具体的な例が端末とアクセスポイント間は面的にカバーしやすい2.4GHz帯を使用し、固定で直線的にメッシュ接続するアクセスポイント間は5GHz帯を使うという方法だ。

 日本では先の4.9GHz帯と5.0GHz帯を使用すれば屋外でもこのメッシュ中継が利用できる。屋外向けに自前で無線LANアクセスを面的に延ばすことができるのだ。ちなみに4.9GHz帯と5.0GHz帯に対応した日本独自の無線LAN技術は802.11jと呼ばれるものだが、日本独自であり開放されてから日も浅いこともありあまり普及していない。

 そこでこのメッシュ中継部分により長距離の接続が可能な固定WiMAXを活用する方法が有力とされている。固定WiMAXによる無線メッシュと無線LANの組み合わせが、遅れているモバイルWiMAXの領域に進出していこうとしているのだ(図2)。

図2 固定WiMAXを活用したメッシュ型ネットワーク

 無免許で自由に使える
 5.4〜5.7GHzの周波数帯も

  固定WiMAXの活用のもう1つの追い風が、5GHz帯には近い将来開放が期待されている5.4〜5.7GHz帯(5.47〜5.725GHz)と呼ばれる広大な周波数帯があることだ。こちらも議論が遅れ気味のためすっかり話題に上らなくなったが、この5.4〜5.7GHz帯は4.9GHz帯や5.0GHz帯と同様、屋外での無線LANの使用促進のため開放が検討されている。5.4〜5.7GHz帯は4.9GHz帯や5.0GHz帯と異なり無線局の登録すら不要で、無免許で自由に使える周波数帯になる予定だ。

 ただし、既存で使用されているレーダーとの共用利用であり、レーダーとの干渉を回避するDFS (Dynamic Frequency Selection)の実装が義務付けられるだろう。固定WiMAXを5.4〜5.7GHz帯で使えるようにするという議論は現時点ではほとんど行われていない。

 しかし、4.9GHz帯と5.0GHz帯の屋外での無線LANでの利用状況の低さを見る限り、5.4〜5.7GHz帯の固定WiMAXでの活用が検討されると期待している。こうした状況になれば先のメッシュ技術と組み合わせることにより、企業や自治体の自営ネットワークとして屋外での無線LAN利用と固定WiMAXの活用が加速するだろう。

 このように日本ではモバイル、固定ともに、WiMAXに関しては流動的な要素がまだまだ多い。しかし、実際に先の例のような固定WiMAXと無線LAN技術を有効に組み合わせた製品の開発を進めているベンダも存在し、WiMAX関連は予想とは少し違ったヒット商品が生まれるかもしれない。

 
来月は電力線インターネット。お楽しみに

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