【トレンド解説】
IP電話はブロードバンド時代のキラーアプリか?
鈴木淳也
アットマーク・アイティ 編集局
2002/9/7
最近の日本のブロードバンド化の進展は目ざましいものがある。8〜12MbpsのADSLに、100Mbpsクラスの光ファイバでのインターネット接続サービスなど、帯域や普及速度を見れば、おそらく世界でもトップなのではないだろうか。今回は、このブロードバンド化とともにやってくるであろう、大きな波について考えてみる。
■Yahoo! BBが提供する3つのサービス
冒頭でブロードバンド化の急速な進展について言及したが、まず間違いなくこの状況を呼び起こした最大の功労者はYahoo! BBだろう。賛否両論あるものの、それまでの常識を覆す低料金でADSLサービスの提供を開始したことが、いま世界で最も安いブロードバンド接続環境の実現につながっているといえる。
このYahoo! BB、ADSLによる接続サービスに注目が集まっているため、単にブロードバンド接続のディスカウント業者と思われがちだが、実際には接続サービスを主軸として、IP電話の「BBフォン」やホットスポット・サービスの「Yahoo! BBモバイル」などの提供も行っている。これは、インフラを早期に展開して、その上でさまざまなサービスを展開するという同社の作戦なのだが、今後のトレンドを読むという意味で、非常に興味深いチョイスだろう。Yahoo! BBモバイルの詳細は、前回の「トレンド解説:ホットスポット・ビジネス最前線」をご覧いただくとして、今回は「BBフォン」に代表される、IP電話サービスのほうに注目してみたい。
BBフォンは、Yahoo! BBのインフラを使って行うIP電話サービスである。契約者同士での通話は無料で、公衆電話網への接続については市内/市外を問わず一律3分7.5円となっている。米国との通話も同様だ。Yahoo! BBユーザーには標準サービスとして提供され、契約ユーザー以外であっても月額390円の基本料金を払うことでサービスを受けることができる(ADSLでの接続になるため、工事は必要)。
本サービスの一番の魅力は、いうまでもなく契約者同士での無料通話だ。ADSL回線を使用することもあり、通話の際の音声品質は問題ないだろう。厳密にいうならインフラのダウンタイムなどの品質も考慮する必要があるのだろうが、一般ユーザーでそこまでこだわる人も少ないはず。音声品質さえ保証されるのであれば、既存の一般電話を押しのけるだけのインパクトは十分にある。
■IP電話のメリット
IP電話がもたらすメリットは、コンシューマ用途とビジネス用途とで異なってくるが、共通の最大のインパクトを挙げるなら「コスト削減」の一言に尽きる。現在、データと音声とで分かれているインフラを、データ型のインフラに統一することで、回線や交換機の維持費用をなくし、回線自体の使用効率化も図れる。一般の加入電話では、帯域占有のコネクション型の通信形態をとっており、極端な話、普段同時に通話する件数が1件ぐらいだったとしても、最大で100人が使用できるインフラにしようと思ったら、残り99%がほとんど利用されないにもかかわらず、100人用のインフラを整備しておく必要がある。IP電話の考え方では、同時に多くのユーザーが接続した場合は遅延やパケット・ロスが発生する可能性があるが、なるべく共通のインフラを用いてコストを抑えるという方向を目指している。
今回のBBフォンの場合、すでにADSL向けに構築しているYahoo! BBのインフラがあるので、それに相乗りする形でサービスを提供していけば、コストはそれほどかからない。CATVなどでは、すでに加入者間での通話は無料という電話サービスを提供していたりするが、それと同様の考え方だ。
ビジネス用途の場合は、さらに複数のメリットがある。現在、企業向け仮想専用線サービスとして「IP-VPN」や「広域イーサネット接続サービス」などが人気だが、このインフラ上にデータと統合した音声データを載せることができれば、社内の内線電話の維持コストを劇的に下げることが可能になる。また、音声がデータになることで、グループウェアやメール・ソフトとの連携など、新しいアプリケーションの可能性も見い出すことができる。
現状は、コンシューマ用途とビジネス用途ともに、大きなブームは起こっていないが、今後導入事例が増えて実績が付いてくれば、状況が変わってくるだろう。
■携帯電話の次に来るもの
先日、iPassという海外ローミング・サービスを提供している事業者のディレクターに話を聞く機会があり、直前に発表された「ネオモバイルサービス」の件も含めて、今後のビジネス展開についてたずねてみた。
ネオモバイルサービスの最大の目玉は、ISPをまたいだローミング・サービスと、18社共同のプレス・リリースに見られるように、複数の事業者がタッグを組んで積極的なエリア展開を図っていることだ。だが、iPassの担当者はそれに加え、「VoIPによる音声通話」サービスが今後の目玉になると話してくれた。
ホットスポットのサービス・エリアは急速に拡大を続けている。もし、ちょっとした身近な場所にホットスポットのエリアがあったなら、そこでPCやPDAを使っての音声通話が可能ということだ。少々違和感あるかもしれないが、喫茶店などから公衆電話をかける感覚である。サービス・エリアがさらに広がれば、携帯電話ほどの手軽さはないものの、同じ要領で使えるようになるかもしれない。
iPassのローミングのインフラを使えば、それで世界中のホットスポット・エリアから電話をかけることもできるわけだ。例えば、海外出張に行ったビジネスマンが日本の家族に電話をかけるときなど、ホテルからのローカル・コール、もしくはホットスポットのエリアから、PCを使ってネットワークに接続するだけでいい。電話会社の国際電話サービスを使う必要はないのだ。
将来的に、ローミング・サービスも含めて利用料が完全に定額制になれば、そのインパクトは非常に大きなものになる。iPassの担当者が語る「携帯電話の市場に食い込みます」という話も、まんざらでもないと思うのだが、いかがだろうか?
■TV電話はやってくるか?
未来の家庭生活を描いた想像図を見ると、必ずといっていいほど登場するのがTV電話だ。現代では、流行しそうで流行しないものの代表格といえるかもしれない。
TV電話が流行しない理由の1つを挙げるとしたら、それはインフラにあるのかもしれない。まず現状のインフラでは動画品質がそれほど高くないことと、少なくともユーザーの両端で端末を用意する必要があるため、導入のメリットが少ないからではないだろうか。
だがブロードバンドの全盛によって、その状況も変わりつつある。現在のIP電話の延長線上にTV電話を見れば、普及の糸口も見えてくる。PCのソフトウェア上で実現するのもいいし、PCを扱えないユーザーには専用の端末を用意すればいいだろう。ユーザーが少しずつでも増えていけば、あるタイミングから爆発的に普及が始まるはずだ。この点は、既存の電話機やFAX、TVなども同じなのではないか。
いまは、盛り上がっているブロードバンド接続サービスのオプションとして、陰に隠れて存在しているIP電話だが、やがてはブロードバンド普及のキラーアプリケーションとして、逆にその存在をアピールする日がやってくるのかもしれない。
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