連載

サハロフ秋葉原経済研究所

第0回 祝!研究所開設記念、2000年のメモリ価格を振り返る

デジタルアドバンテージ/監修:サハロフ佐藤
2000/12/27

 秋葉原の片隅、古ぼけたビルの一室。21世紀に研究所を開設することになった所長の外神田昌平(そとかんだ・しょうへい)と、唯一の所員の万世橋太郎(まんせいばし・たろう)の2人が、オープン前の研究所にコンピュータの様子を見にやってきた。ここ秋葉原経済研究所では、これから日夜、秋葉原のPCパーツの価格動向を通して、経済の動きを探ることになる。

万世橋太郎: やっと研究所ができましたねえ。でも、何で「秋葉原経済研究所」でPCパーツの価格を調べないといけないんですか?
外神田所長: 万世橋君、キミは今まで何を勉強してきたのかね。PCパーツの価格動向を知れば、そこから自ずと世界経済の動きが見えてくるのだよ。PCパーツの価格といえば秋葉原。秋葉原は、世界的にも名が知られた「電脳街」で、敏感に世界のPCパーツの動向に反応して価格が付けられるのを知らんのかね。まぁ、論より証拠だ。メイン・コンピュータから2000年のメモリ価格の動きを引き出してくれたまえ。今回は、128MbytesのPC133-CL3とPC100-CL2、64MbytesのPC100-CL2の3製品でいいだろう。
万世橋: できました。最近、メモリ価格が下がっているという話は聞くのですが、こうしてグラフにしてみると驚きますねえ。単純に毎日少しずつ下がっているのかと思ったら、値上がりすることもあるんですね。

2000年のメモリの価格動向(出典:サハロフの秋葉原レポート)
サハロフ佐藤(佐藤純一)氏調査による秋葉原のPCパーツ販売店の店頭価格をベースに、編集部で平均価格を算出したもの。平均価格の算出は、最低価格を除いたうえで、店頭価格から計算した。なお、価格調査の結果については、「サハロフの秋葉原レポート」を参照のこと。
*1 CLとはCAS Latencyの略で、アドレスを指定してからデータが読み出し可能になるまでの時間を表すパラメータの1つ。値が小さいほど高速なメモリである。

所長: 分かったかね。このようにメモリの価格は、常に変動しており、「相場」になっているのだよ。需要と供給のバランスに大きく依存していて、ここに経済原理が働くわけだ。秋葉原では、この「相場」に敏感に反応して価格が付けられる傾向にあるのだよ。つまり、秋葉原の価格を見ていれば、「相場」と「経済」が見えてくる。では、2000年のメモリ価格の動向から、経済の動きを見てみよう。
万世橋: 2000年の年始は順調に価格が下がってますが、3月下旬に若干価格が上がって、その後安定していますが。
所長: まずメモリの価格は、生産が安定してくると供給過剰になって徐々に下がる傾向にあるという基本を覚えておきたまえ。なぜ価格が下がるのかについては、おいおい説明するが、価格が下がらないことや上がるということは、ある意味でメモリ市場では「異常」なことともいえるわけだな。
万世橋: ということは、4月から価格が横ばいになって、その後はやや価格が上昇傾向になってますが、これなんかはすごーく異常なんですね。
所長: そのとおり。4月から9月上旬のこの期間は、メモリの供給不足が発生していたと見るべきだな。全世界的なPCの低価格化から、PCの売り上げが好調で、その影響からメモリが不足したのが原因だろう。アジア経済が好調に転じ始めた影響もあるかもしれない。
万世橋: なるほど、確かにメモリの価格を見るだけでも、世界経済が分かるんですね。では、9月から急に価格が落ち込み始めていますが、これは正常に戻ったということでしょうか?
所長: う〜ん、そうともいえないんだな。このころのニュースを見ると、ヨーロッパ経済が急激なユーロ安から冷え込んできていることが分かる。つまり、全世界的に好調であったPC市場が、ヨーロッパを皮切りにかげりが見え始めたわけだ。さらに悪いことに、それまでの好調なメモリ市場を反映して、各社ともメモリの増産を行っていた形跡がある。メモリといった製品は、生産計画を立ててから実際に製品が出来上がるまでに半年近くかかる場合がある。ということは、9月ごろの製品というのは、3月から4月のちょうどメモリが供給不足と騒がれていたころに生産が計画されたことが予想できるわけだ。この急激な値下がりは、増産によって市場に大量のメモリが供給されたのと、ヨーロッパを中心とするPC市場の冷え込みのダブルパンチが原因と思われる。IntelやMicrosoft、AMD、Compaqと、この業界の大手といわれる会社すべてが、第4四半期の業績予測を下方修正しているくらいだから、PCの売れ行きが鈍化しているのは明らかだろう(業績下方修正に関するIntelMicrosoftCompaqのニュースリリース)。
万世橋: あともう1つ気付いたことがあるのですが、128MbytesのPC100のCL2とPC133のCL3の価格が最近、急接近して差が小さくなってます。
所長: いいところに気付いたね、万世橋君。ここでは、PC100のCL2とPC133のCL3の違いについては詳しく説明しないが、PC100のCL2とPC133のCL3にはそれほど大きな差はないと理解しておいてほしい。つまり、これまでPC133のCL3に若干プレミアがついていたものが、PC133に対応したチップセットなどの普及によって、PC100のCL2以上にPC133のCL3の需要と供給が増えて、プレミアが付けられなくなったと理解すればよいだろう。まぁ、このあたりの詳細についても宿題としておこう。
万世橋: メモリの価格だけみても、いろいろと分かるんですねえ。感心しました。ところで、初仕事としていつまでに何を調査しておけばいいのですか?
所長: ドキッ。まぁ、1月中旬くらいまで、プロセッサとハードディスク、メモリの価格の調査を進めておいてくれたまえ。いやぁ、忙しくなるなぁ。ワシは、これからちょっとそこまで市場調査に出かけてくるので、よろしく頼むよ。記事の終わり

顧問:サハロフ佐藤(佐藤純一)
オーディオ趣味から秋葉原通いを始め、Gatewayの486マシンの購入を契機にPCパーツ市場の面白さを知る。その後、HP200LXを駆使した価格調査を実施、秋葉原レポートの誕生に至った。幼少期から鉄道と天文を愛好し、最近はノベル系のギャルゲーに傾倒している。神奈川県川崎市在住。

所長:外神田昌平(そとかんだ・しょうへい)
以前、某所で研究所の所長をしていたらしいが、バブルがはじけて倒産。研究所を再建して、再び秋葉原経済の裏側を暴こうと燃えている。

万世橋太郎(まんせいばし・たろう)
サハロフ秋葉原経済研究所の唯一の所員 縁あって、この研究所で働いているもののPC業界についての知識は乏しい。所長に怒られながらも、秋葉原経済を研究中。

  関連リンク
サハロフ佐藤氏の精力的な調査による秋葉原PCパーツの最新価格情報
Intelの業績下方修正に関するニュースリリース
Microsoftの業績下方修正に関するニュースリリース
Compaqの業績下方修正に関するニュースリリース

 

「連載:サハロフ秋葉原経済研究所」


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