IT Market Trend

第5回 PCサーバのハイエンド化への施策

日本ガートナー・グループ株式会社
データクエスト・アナリスト部門サーバ・システム担当アナリスト

亦賀忠明
2001/03/28


 現在、ハイエンド・サーバ市場においてRISC/UNIXサーバが着実に基盤を固めつつある。一方のPCサーバは、市場の期待とは逆に、ハイエンド市場への参入はなかなか進んでいないのが現状である。なぜPCサーバは、ハイエンド市場に参入できないのか。また、将来的にみてPCサーバはローエンド市場にとどまってしまうのか。ここでは、ハイエンドPCサーバの現状と課題について分析し、将来を考察する。

PCサーバのポジショニング

 一般的には、「PCサーバはローエンド中心に出荷されている」と捉えられている。実際、PCサーバ市場は、どのような価格帯で主に売り上げを上げているのであろうか。また、これはUNIXサーバと対比してどのような差異があるのだろうか。このことについて、まず定量的に検証してみよう。

 下のグラフは、PCサーバ、UNIXサーバ、メインフレームの出荷金額を価格帯別に示したものである。

プラットフォームおよび価格帯別の出荷金額(2000年)
出典:ガートナー データクエスト(2001年3月)

 ここで、PCサーバでは50万〜100万円を中心に出荷金額の分布が見られる。一方のUNIXサーバは、1000万〜5000万円を中心に、100万円から1億円超のすべてに幅広く分布している。メインフレームは1億円超が最大となっており、1000万円未満での出荷はほとんどない。

 続いて、PCサーバとUNIXサーバのそれぞれについて、過去のデータと対比し、経年における価格帯別の出荷金額の変化を見てみよう。下のグラフは、1997年と2000年における、それぞれの価格帯別出荷金額の分布である。

PCサーバ
 
UNIXサーバ
PCサーバとUNIXサーバの価格帯別出荷金額
出典:ガートナー データクエスト(2001年3月)

 1997年のPCサーバでは、100万〜250万円の価格帯が、50万〜100万円を若干上回ってピークとなっているが、2000年にはこれが50万〜100万円にシフトしている。2000年には100万〜500万円が落ち込んでいるが、代わりに500万円以上がわずかながら立ち上がりつつあることも見て取れる。一方、UNIXサーバは50万円以上のすべてのレンジで出荷金額が伸びている。特に、100万〜250万円、および1000万〜5000万円の伸びが著しい。

 以上のように、PCサーバでは100万円以上のレンジでの伸びがほとんど見られず、「PCサーバはローエンドが中心となっている」との市場の認識と一致する。このようにPCサーバの中心価格帯は年々安いレンジにシフトしており、このことはPCサーバ・ビジネスにおける重要な課題となっている。

PCサーバのハイエンド化を阻害する要因

 なぜPCサーバはハイエンド市場へ参入できないのか。これは大別すると、

  1. ハードウェア価格性能比の向上
  2. Windows NT/2000系OSの信頼性
  3. インテル/マイクロソフトのビジネス・モデル
  4. オープン市場の構造上の問題
  5. RISC/UNIXサーバの急速な普及

といった要因があると分析している。ここで重要なことは、PCサーバのハイエンド化は、ほかの外的な脅威(上記の5.)によるもの以上に、内的な要因(上記の1.〜4.)がこれを阻害している点である。

 以降、PCサーバ・ハイエンド化を阻害する要因について内的要因(上記の1.〜4.)に絞って考察していこう。

1. ハードウェア価格性能比の向上

 インテル系プロセッサ(Pentium III/Pentium III Xeonなど)の性能は、ムーアの法則に従って、順調に18カ月に2倍の向上を達成している。一方、PCサーバの平均出荷金額(ASP)は、性能の伸びとは逆に、ここ数年、年間10万円程度の割合で減少し続けている。この結果、1997年から2000年で、PCサーバの価格性能比は6倍にも向上している(以下のグラフ参照)。このことを裏返して考えると、例えば、現在60万円で販売されているPCサーバは、1997年当時のPCサーバの性能に当てはめると360万円の価値を持っていたということになる。これはその当時のミッドレンジ機に相当する。

2000年PCサーバの国内価格帯別出荷金額
出典:ガートナー データクエスト(2001年3月)

 このことは、システムの実際のスペック面でも変化をもたらしている。例えば、中規模データベース・サーバを想定した場合、数年前は2プロセッサ搭載のサーバ(2ウェイ・サーバ)が必要であったところが、現在では1プロセッサ(1ウェイ)でも十分ということになる(もちろん、処理の内容が変わらなければという前提があるが)。

 つまり、こうした側面まで含めて考えた場合、「PCサーバはローエンド中心」というのは少し短絡的な言い方であることが分かる。すなわち、PCサーバは、急速な性能向上と価格の下落により、「100万円を超えるレンジにポジショニングしにくくなっている」といった方が正しいのだ。

 このような性能向上と価格低下を是とするなら、逆にこの状況にマーケットが追いついていないことが、PCサーバのハイエンド化を阻害している要因となっているといえる。PCサーバ市場では、製品価値が急速に下落するために、市場全体がどうしてもボリューム指向になってしまう。昨年と同等の売り上げを確保しようした場合、昨年と同じ数量を出荷したのでは目標が達成できないからだ。

 このようにPCサーバでは、インテルのプロセッサ性能の向上に伴い、サーバ製品の性能も向上するが、それに伴い価値の下落も生じてしまう。このとき、本来であれば、その下落分を補完する新たな価値を生み出す必要があるが、それができていないというわけだ。

 この問題を解決するためには、製品戦略とマーケット戦略とを統合する必要がある。しかし、インテルのプロセッサ製品のロードマップと、PCサーバ・ベンダによるマーケット戦略はまったく別な観点から作られており、これを統合するというのはほとんど不可能な状態にある。

2. Windows NT/2000系OSの信頼性

 Linuxのすそ野が広がりつつあるとはいえ、まだまだPCサーバにおけるWindows NT/2000系OSの存在は圧倒的である。しかし、Windows NT/2000系OSの信頼性問題については、これまで各所で取りざたされているとおり、まだまだ改善すべき課題が残されている。

 Windows NT/2000系OSでは、対象とする規模・用途により製品が分類されているが、特に信頼性という観点では、Windows 2000 Serverでも、その上位製品であるWindows 2000 Advanced Serverでも、これまでほぼ同等であった。このことは、Windows 2000 Serverファミリにおいては、ハイエンド製品であるからといって高い信頼性が期待できるわけではない、という問題を意味する。

 マイクロソフトは、この問題に対して、2000年9月26日(米国)に発表したWindows 2000 Datacenter Serverにおいて、製品、人材、組織の観点から総合的にOSの信頼性を向上するためのWindows 2000 Datacenterプログラムの提供を開始し、99.9%以上のシステム稼働率を保証するとしている(Microsoftの「Windows Datacenterプログラムに関するニュースリリース」)。

 しかし、このDatacenterプログラムを提供できるSIベンダは限られている。そのため、この施策が広く普及するにはまだ当分時間がかかるだろう。

3. インテル/マイクロソフトのビジネス・モデル

 現在のPCサーバ市場の問題は、垂直方向への成長性に不安材料を抱えていることである。これは、インテルやマイクロソフトのビジネス・モデルに依存するところが大きい。

 一般的に、信頼性問題については、企業の体質、ビジネス・モデルの問題や製品に一定の歴史が必要といった要因が背景に存在し、早期に解決できる秘策はない。

 インテルやマイクロソフトでは、「広く世の中に製品を普及させること」がまず優先されてきたし、いまもそのやり方に大きな変化は見られない。他社を圧倒する価格・性能・機能を持つ製品を投入し、市場にて圧倒的シェアを取ることこそ、彼らのこれまでのビジネスである。

 確かに、クライアントPCではこのやり方は成功したし、PCサーバもある程度は成功したといえる。しかし、サーバに求められる、信頼性・スケーラビリティといった観点は、どうしても後回しにされてしまっている。

 つまり、広いボリュームに安価な製品を販売することには長けていても、狭いボリュームで高価な製品を販売することは、もともと彼らのやり方ではないのである。このことは、サーバのハイエンド化を考えるに当たって重要な意味を持つ。

4. オープン市場の構造上の問題

 PCサーバでは、サーバ・システムの品質確保が、それぞれの顧客に依存する形となっている。専用のシステムであれば、極端な話、このためのコストをサーバ製造ベンダに100%負わせることも可能であったが、現在はそれができない。これは、サーバ・システムを構成する各コンポーネントがさまざまなベンダから供給されているオープン市場の構造上の課題である。

PCサーバのハイエンド化に向けて考えられる施策

 上述のような問題を解決するための施策として、以下のようなことが考えられる。

目的 施策
価格低下傾向の歯止め まず考えられることは、「価格の低下傾向に歯止めをかける」ことである。しかし、これはベンダ間の価格競争が続く限り非常に難しい問題である。プロセッサはインテル、OSはWindows 2000と、どこも似通ったモデルであり、なかなか有効な手段はないというのが現実であろう。これを防ぐには、価格以外で差別化ができる材料が必要である
性能向上の緩和 性能向上を緩やかにするということについては、クライアントPCのプロセッサ市場でインテルとAMDが激しい性能競争を繰り返している状況下において、ほとんど期待できない。クライアントPCの価格性能競争にPCサーバが巻き込まれないためには、クライアントPCのブランドとPCサーバのブランドを明確に切り離す必要がある。これについては後述する
製品の信頼性確保 PCサーバ製品の安定化のためには、製品自体はもちろんのこと、人材、プロセスのすべての観点で、信頼性を追求できる仕組みが必要である。OSの信頼性を確保するために、Windows 2000 Datacenterプログラムのようなハイエンド向けソリューションの適用が可能になってきたことは、PCサーバのハイエンド化にとって重要な一歩であるといえる
ハイエンド・ブランドの確立 PCサーバのハイエンド化にとって、「上位モデルの位置付けの明確化」、すなわち「上位モデルと下位モデルとの境界の明確化」が重要である。現在のPCサーバは、総じてプロセッサ数や、サーバ・クラスに対応したWindows 2000(Server、Advanced Server、Datacenter Server)製品を変えることで、モデルごとの差別化を図っている。しかし、これだけではユーザーにとって、下位モデルと上位モデルの境界は分かりにくい
PCサーバのハイエンド化への施策

 ここから具体的に、プロセッサ・ブランドの観点から、PCサーバのハイエンド化への施策を検証していこう。

 現在サーバ用のインテル系プロセッサとしては、主にPentium IIIとPentium III Xeonの2種類が使用されている。当初インテルは、Pentium III Xeonをサーバの上位モデルに対するプロセッサとして位置付けようとしたが、期待に反してPentium III Xeonの出荷はそれほど伸びていない。以下のグラフを見ても分かるように、PCサーバで使用されているプロセッサのほとんどがPentium IIIとなっている。ユーザーから見れば、これはクライアントPCのプロセッサと同じであり、このとき、「なぜクライアントPCは安くてPCサーバは高いのか」という疑問が生じても不思議ではない。

PCサーバ搭載プロセッサの推移
出典:ガートナー データクエスト(2001年3月)

 Pentium III Xeonの普及が進まなかったのは、Pentium III Xeonは価格が高い割にそれほど性能が出なかったため、ユーザーよりむしろベンダの方が出荷に消極的であったことがその理由であるとみられている。最近はそれでもPentium III Xeonも値ごろ感が出てきており、採用機種もいくぶん増えつつある。しかし、それではPCサーバのハイエンド化にとって意味のあることとはいえない。単にPentium III Xeon搭載サーバが増えただけということである。

 このように、プロセッサのブランドでは、クライアントPC、ローエンドPCサーバ、ハイエンドPCサーバの境界はおよそ明確になっているとはいえないのが現状である。この点は、インテルも認識しているようで、2001年2月下旬から米国で開催されたIDF(Intel主催の開発者向けイベント)において、Pentium 4アーキテクチャをベースとしたサーバ向けプロセッサ「Foster(開発コード名:フォスター)」から、PCサーバ向けプロセッサのブランド名を「Intel Xeon」にすると発表した(Intelの「エンターブライズ・クラス・サーバのプロセッサ・ブランド名に関するニュースリリース」)。これまで、PCサーバ向けプロセッサは、Pentium II XeonやPentium III XeonといったようにクライアントPC向けの派生品といった印象があった。今後は、PentiumブランドとXeonブランドを分けることにより、Pentiumをローエンドに、Xeonをミッドレンジ以上というように明確にポジショニングしたいとの意図がこの発表の背景にあるものと考えられる。

 今後、新しいXeonがPentium III Xeonと同じ結果にならないためにも、新Xeonでは、そのブランドに見合った性能が必要であるし、またそれに見合ったOSが必要である。さらに、それらを総合して真の意味でハイエンドと呼べるPCサーバの開発が必須である。

ハイエンド市場の開拓

 PCサーバ市場では、価値が急速に下落するために、売り上げを確保するためにはどうしてもボリューム指向になってくる。しかし市場原理からいって、このようなボリューム指向は、早晩市場の飽和状態を生み出すのは明白である。そこで各ベンダは、いずれかのタイミングで垂直方向(ハイエンド方向)への成長を考える必要がある。

 OSやプロセッサなどにオープンな製品を使っている以上、この成長性は各ベンダに依存することになる。しかし、現在の市場の動向は、それらのベンダの垂直指向を待っていられない状況にきている。そこでサーバ・ベンダは、自ら性能向上に伴う新たな需要を喚起できる製品およびマーケットの開拓を行う必要がある。

 製品面では、やはりOS/ハードウェアの信頼性問題を払拭できるサーバ製品の開発が必要である。これら製品が前提とする用途としては、予測不可能なトランザクションを処理する必要のあるe-Businessシステム、より多くのサーバ資源を必要とするデータウェアハウスといったものが考えられる。

 これらの需要がUNIXサーバに傾きつつある現在、PCサーバ・ベンダは、機能/性能/信頼性はもとより、マーケット面においても、今後このようなシステム需要をPCサーバ側でさらに喚起する施策の実行が急務であろう。

 ハイエンドPCサーバは、ボリュームは少ないものの次第に増えてきている。しかし、今のところ急速な進展は当面期待できない。

 PCサーバのハイエンド化については、IA-64に期待する向きもあるが、PCサーバ・ベンダのポジショニングが依然として不明確のままであり、コアとなるOSも存在しない。そのため、2001年にItaniumのボリューム出荷が開始されたとしても、IA(インテル・アーキテクチャ)/Windowsのハイエンド化がすぐに加速するとは考えにくい。

 Itaniumに関しては、現在のところ本格的な出荷が行われていないため、性能面や安定性に関しての不安が残っており、ユーザーは当初導入に対して消極的にならざるを得ないだろう。そういったことから、IA-64によるPCサーバのハイエンド化への貢献は、基本的には次期IA-64プロセッサであるMcKinley(開発コード名:マッキンリー)の登場からとなり、実質的にビジネスに貢献するのは2003年以降になるものと予想される。

日本ユニシスの「Unisys ES7000」
Compaq、Dell Computer、Hewlett-Packard、日立製作所などにもOEM供給を行っているインテル・アーキテクチャのハイエンド・サーバ。クロスバー・スイッチを採用しており、最大で32プロセッサ、64Gbytesメモリ、96スロットのPCIバスまでサポート可能だ。

 各ベンダは、「PCサーバのハイエンド化」という課題に対して、既存のIA-32ベースで再度検討すべきだろう。例えば、Unisys ES7000の2000年第4四半期における受注・出荷はともに好調であり、1000万円を超えるPCサーバとしての存在を高めつつある(日本ユニシスの「Unisys ES7000の国内受注100台突破に関するニュースリリース」)。

 これまで各ベンダは、ハイエンドPCサーバの主流となるであろうIA-64の開発に優先的に資源を投入してきたため、IA-32のハイエンド化にあまり注力してこなかった。しかし、IA-64の投入は当初計画から大幅にずれ込んでしまった。一方ここ数年、一連のe-Businessやドット・コム・ブームにおいては、RISC/UNIXサーバがインターネット環境でのデファクト・スタンダード・サーバとなるべく市場に浸透しつつあり、IAサーバのハイエンド化にとって大きな脅威となっている。

 総じて、PCサーバ全体のハイエンド化には、IA-32によるハイエンド強化、IAサーバ自体のビジョンの策定、OSの安定性、信頼性に関するブランド・イメージの向上などが欠かせない。

 最終製品としてのPCサーバのハイエンド・ブランドを確立するためには、個々のコンポーネント自体のブランド・イメージを向上させる必要もある。さらに、それを製品として完成させる実装技術やアーキテクチャなどにおけるブランドが重要である。

 言い換えれば、最終製品のブランドは、それぞれのコンポーネントとそれをまとめるハードウェア・ブランドとの相乗効果により完成する。これらのブランド力を高めるためには、それぞれのパーツや実装において機能/性能/信頼性のすべてのスペックがユーザーにとって満足のいくものでなければならない。各ベンダはIA-64戦略と併せ、これらの戦略を統合的に打ち出すことが急務であろう。記事の終わり

  関連リンク
Windows Datacenterプログラムに関するニュースリリース
エンターブライズ・クラス・サーバのプロセッサ・ブランド名に関するニュースリリース
Unisys ES7000の国内受注100台突破に関するニュースリリース
 
 
     
「連載:IT Market Trend」


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