IT Market Trend

第4回 世界のサーバ市場の動向

日本ガートナー・グループ株式会社
データクエスト・アナリスト部門サーバ・システム担当アナリスト

亦賀忠明
2001/02/24


 日本のサーバ市場は、世界、特に米国の影響を強く受けていることは、すでに誰もが認めるところであろう。しかしながら、世界のサーバ市場はどのような状況か、また日本市場は世界のほかの地域と比べてどの程度の差があるのかといった観点について、具体的事実に基づいた比較や議論はあまり行われていないのが現状ではないだろうか。実際のところサーバ市場に関しては、北米市場と日本市場の規模の差はここ数年で拡大している。1997年において、北米は台数ベースで日本の3倍の規模であったが、これが1999年になると4倍となり、差が開いている。

 ここでは、世界の各地域におけるサーバ市場の現状について、定量的分析を中心に説明し、日本のポジションについても併せて明らかにする。なお、現在2000年のデータの集計・分析中であるため、本分析では1999年のデータを使用していることをあらかじめお断りしておく。

IAサーバとRISC/UNIXサーバの競合関係

 IA(Intel Architecture)サーバは、出荷台数ベースでサーバ市場を大きくリードしている。世界におけるIAサーバの出荷台数は1997年に100万台を、1999年には200万台を突破した。ボリュームが相当な規模になっているにもかかわらず、1997年から1999年の3年間の平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は52.2%増と市場は大きく拡大し続けている。

 一方、IAサーバとの競合関係が注目されるRISC/UNIXサーバ(UNIXサーバ)の1999年の出荷台数は39万5000台であった。これは、IAサーバの約1/5の市場規模である。ちなみに、3年間の平均成長率は22.8%であり、IAサーバとの差は拡大しつつある(下のグラフ左)。しかしながら出荷金額で見ると、この関係は逆転する。すなわち台数ベースではIAサーバがRISC/UNIXサーバを大きく引き離しているのに対して、金額ベースではRISC/UNIXサーバがIAサーバを上回っているのである。出荷金額成長率を見ても、IAサーバ市場での3年間の平均成長率が14.9%であるのに対し、RISC/UNIXサーバでは17.1%となっており、わずかではあるが、RISC/UNIXサーバがIAサーバとの差を開きつつある(グラフ右)。

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IAサーバ、RISC/UNIXサーバの出荷推移
左側は出荷台数ベース、右側は出荷金額ベースのIAサーバとRISC/UNIXサーバの推移。
出典:ガートナー データクエスト(2001年1月)

 このように出荷台数と出荷金額で、傾向が逆転しているのはなぜだろうか。まず、1台当たりのサーバの価格を見るため、平均出荷金額(ASP:Average Selling Price)に注目したい。

IAおよびRISC/UNIXサーバの平均出荷金額の推移
出典:ガートナー データクエスト(2001年1月)

 IAサーバの平均出荷金額は、1997年に7500ドルであったが、年間平均19%減少し、1999年には5300ドルになっている。一方、RISC/UNIXサーバでは、1997年に5万1500ドル、1999年に4万8300ドルとあまり減少しておらず、年間平均減少率も4.7%とIAサーバに比べて小さい。

 また、このことを価格帯別で見てみると、IAサーバは1万ドル未満のレンジで出荷を伸ばしているが、それ以上ではほとんど出荷が伸びていないことが分かる。すなわち、IAではほとんどがローエンド市場で台数を伸ばしているが、RISC/UNIXサーバではミッドレンジを中心にサーバが出荷されている。

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IAサーバおよびRISC/UNIXサーバの価格帯別出荷台数
出典:ガートナー データクエスト(2001年1月)

 IAサーバでは、台数ベースの市場拡大が優先され、サーバの単価を下げることでさらなる需要を喚起しようとしている。これに対しRISC/UNIXでは、もともと平均単価が高いために、積極的な台数ベースの市場拡大よりも、主にハイエンド〜ミッドレンジ・サーバ市場における比較的安定したビジネスを優先している。そのため、このような結果となっていると解釈することができる。

 実際、ローエンドより上位のセグメントにおけるビジネスの拡大は、IAサーバを展開するサーバ・ベンダにおける今後の課題となっている。

 IAサーバのハイエンド化を図るためには、プロセッサ、OSといった主要コンポーネント、およびそれらを組み合わせたサーバ・システムにおいて、信頼性の向上、IAサーバのハイエンド・ブランドの確立などを追求する必要がある。逆に、RISC/UNIXサーバでは、ミッドレンジ・ハイエンド市場の防衛およびローエンド市場における市場拡大が重要なテーマである。

 現在、IT市場はe-Businessシステムの普及期にあり、インターネットによるミッション・クリティカル・システムの需要が高まってきている。このため、このセグメントで実績を積んだRISC/UNIXシステムに市場の関心が集まっており、今後IAサーバがどこまでこの市場に食い込むことができるかが注目されている。

地域別出荷傾向

 サーバの出荷を地域別に見ると、北米市場が最も大きく、出荷台数・金額ともに1996年から1999年まで常に首位をキープしている(下のグラフ)。2位は西ヨーロッパである。出荷台数では1997年にアジア/パシフィックが日本を抜き1999年まで3位となっている(出荷金額では、日本はアジア/パシフィックを引き離し3位をキープしている)。北米市場と日本市場との出荷台数の格差は、1997年と1999年にかけて3対1から4対1まで拡大した。

 それぞれの1999年までの3年間の平均成長率(出荷台数ベース)は、北米市場が32.8%増、西ヨーロッパ市場が23.2%増、アジア/パシフィック市場が23.8%増と好調であったのに対し、日本市場は9.8%増にとどまっている。これは景気が好調であった北米市場と、景気が低迷している日本市場というそれぞれの経済状態を表す対照的な結果となっている。日本では、これまで比較的高額なメインフレームやオフィス・コンピュータが市場を支えていたこともあり、アジア/パシフィックに比べ全体の出荷金額は高い。しかしながら、これらのサーバの出荷が年々減少するに従って、市場全体の出荷金額も大きく減少した。ただし日本の出荷金額については、1999年に入って微増しており、1998年が減少傾向の谷であったと考えられる。

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地域別サーバ出荷台数および金額の推移
出典:ガートナー データクエスト(2001年1月)

 一方、メインフレームは、出荷台数、金額ともにすべての地域で減少傾向となっている(下のグラフ)。特に1999年には、西ヨーロッパと日本で出荷は大きく減少した。出荷台数では日本が最も多く、1996年から1999年まで首位となっている。続いて北米、西ヨーロッパの順となっている。出荷金額では、西ヨーロッパが最も多かったが、1999年に北米に抜かれ、2位となった。日本は、1997年に北米に抜かれ、その後3位となっている。

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地域別メインフレーム出荷台数および金額の推移
出典:ガートナー データクエスト(2001年1月)

 IAサーバは、すべての地域で増加傾向にあり、北米、西ヨーロッパ、アジア/パシフィックの平均台数成長率は25%を超えている(下のグラフ)。北米では1999年に100万台を突破した。日本は19.5%とほかの地域に比べ若干成長率が低い。

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地域別IAサーバ出荷台数および金額の推移
出典:ガートナー データクエスト(2001年1月)

 RISC/UNIXサーバについても、すべての地域で台数、金額ともに増加している。特に台数ベースでは日本を始めとして、それぞれ10%台であるのに対して、北米の平均成長率が34.3%とほかの地域に比べ圧倒的に高くなっている。一方、金額ベースの伸びは、アジア/パシフィックが1けた台で、それ以外はすべて10%台である。このことから、北米の平均単価が最も下がっていることが分かる。実際、世界全体における平均出荷金額の減少率は、−4.7%であるが、北米では−11.7%となっている。これは、特に低価格のRISC/UNIXサーバの出荷が伸びたことを意味しており、e-Businessの浸透に伴い、ISP/ASP/iDCおよび企業といったさまざまなセグメントにおいて、RISC/UNIXサーバのすそ野が広がった結果であると考えられる。

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地域別RISC/UNIXサーバ出荷台数および金額の推移
出典:ガートナー データクエスト(2001年1月)

ベンダ別出荷傾向

 出荷台数では、1997年にはCompaq Computer、IBM、Hewlett-Packard(HP)、Digital Equipment(DEC)、Dell Computer(DELL)の順であったが、1999年にはCompaq、IBM、HP、DELL、Sun Microsystems(Sun)の順となった(この間、DECはCompaqと合併している)。DELLは、デル・モデルとして有名な直販ビジネスに基づいたIAサーバの徹底的な低価格戦略によりシェアを拡大して4位に浮上。Sunはドット・コム戦略をインターネット・ビジネス・システム需要に結びつけることに成功し、1997年の7位から5位に浮上した。

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世界でのサーバ出荷台数におけるベンダ・シェア
出典:ガートナー データクエスト(2001年1月)

 出荷金額ベースでは、1999年はIBM、HP、Sun、Compaq、富士通グループの順であった。Sunが5位から3位へとシェアを拡大する一方で、富士通グループが3位から5位へと後退している。

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世界でのサーバ出荷金額におけるベンダ・シェア
出典:ガートナー データクエスト(2001年1月)

 以上、1999年のデータを基に世界のサーバ市場を見てきた。2000年のデータ集計が終わり次第、1999年の状況と比較してみたい。記事の終わり

 
     
「連載:IT Market Trend」


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