ニュース解説
世紀末決算に見るIntelの21世紀 小林章彦 |
米国時間の2001年1月16日、Intelが2000年第4四半期と通年の決算をそれぞれ発表した(Intelの2000年度決算に関するニュースリリース)。2000年12月7日に、MicrosoftやCompaqに続いて、Intelも2000年第4四半期の売上予測を下方修正していただけに、その結果に注目が集まっていた。下方修正値をさらに下回るようだと、株式市場に大きな影響を与える可能性もあったためだ。
「2000年第4四半期財務報告会」のテレビ会議 |
2001年1月17日から2週間に渡って公開されている「2000年第4四半期財務報告会」のテレビ会議の模様。決算報告とともに、2001年の売上予想などについて報告が行われた。 |
結果は下方修正値どおり、売上高は87億ドル、1999年同期実績から6%増加、2000年第3四半期とほぼ同等というところに落ち着いた。また、2000年度の通年決算は、売上高が1999年度実績から15%増の337億ドル、買収関連費用を除いた純利益は1999年度実績から49%増加の121億ドルと、増収増益を維持している。株式関係者は、ホッと胸を撫で下ろしたことだろう。
うらやましい限りの利益率
もう少し詳しく決算内容を見てみよう。2000年度通年のIntelの粗利益率は62%を達成しており、うらやましい限りの高収益となっている。また、売上高と税引き前利益との比率では45%、税引き後利益との比率でも31%と、競合プロセッサ・ベンダのそれと比較しても非常に高い。第4四半期に限ると、粗利益率が63%、税引き前利益との比率が39%、税引き後利益との比率が25%と若干落ちるものの、それでも他社と比較して十分に高い値となっている。たとえば、同じプロセッサ・ベンダのAMDの決算を見てみると、第4四半期の売上高は12億ドル、税引き後利益は1億8000万ドルで、売上高と税引き後利益との比率は15%となっている。2000年度通年では、売上高が46億4400万ドル、税引き後利益が9億8300万ドルで、売上高と税引き後利益との比率は21%となる(AMDのこの値も、システム・ベンダと比較すると非常に高い)。このようにIntelは、2000年度が過去最高の決算となったAMDと比べても、さらに高い利益率を確保していることが分かる(AMDの2000年第4四半期の決算に関するニュースリリース)。逆にこうした高い利益率を背景とした先行投資や設備投資によって、より利益率の維持向上を達成しているともいえる。
在庫に関しては、第4四半期に3億500万ドル分の在庫が追加され、通年では22億4100万ドルとなった。第3四半期と比較すると、16%増加したことになる。これは第4四半期に欧米を中心に経済の後退が見られ、PCの売れ行きが鈍化した影響と考えられる。ただ、Intelによれば、この在庫水準はむしろ適正であり、満足のいくものであると述べている。2000年第2四半期には、完成品の在庫水準が低下し、一部品不足を発生させたことへの反省も踏まえた発言と思われる。
また、インテル・キャピタル(Intelの投資部門)の証券評価額は、59億ドルから37億ドルに減少している。これは保有株式の売却ならびに市場における株価の低下によるものだという。確かに、ここ1年のNasdaq指数を見ても、2000年3月中旬の5132ポイントをピークに、12月末には2300ポイントと、株価水準は半分以下にまで下がっている。こうした影響が、インテル・キャピタルが所有する証券の評価額にも現れているものと思われる。
地域別の売上比率は、決算書によると、南北アメリカが41%、ヨーロッパが25%、アジア太平洋圏が25%、日本が9%になる。日本と中国の国内需要は堅調なものの、アジア太平洋圏の輸出型産業がヨーロッパと米国の経済の減速によって影響を受けている。
2001年第1四半期は経済動向次第
高収益とはいえ、安心してばかりもいられない。通年決算は増収増益とはいえ、第4四半期の純利益は第3四半期から13%も減少しており、成長鈍化は明らかだ。決算発表のニュース・リリースの中で、Intelの社長 兼 CEO(最高経営責任者)のクレイグ・R・バレット氏が「経済の鈍化に伴い、第4四半期の成長に影響が生じ、また短期的には不透明さがあります」と述べているように、2001年第1四半期の売上予想は控えめだ。クリスマス商戦明けということもあり、例年この期は売上が落ち込む傾向にある。さらに、米国の景気が軟調なこともあり、逆風が予想される。短期の見通しについては、経済状態や買収などによって業績が大きく変わる可能性があるが、Intelの2001年第1四半期の売上は、2000年第4四半期に対して15%減±数ポイントと予想している。また、粗利益率は58%±2〜3ポイントに落ち着くとみている。2000年第4四半期に比べても、粗利益率は低く抑えられているが、これは経済状況が軟調なことから生じる、売上高の減少のみが要因になるという。
Intelでは、経済状態の先行きが不透明なことから、収益性を確保するために、コスト削減プログラムを実施していると述べている。当面の新規採用の縮小を行い、新しいオフィス・ビルへの移転などは延期もしくは廃止するとしている。ただし、設備投資や研究開発費については、従来と同様、積極的に投資を行うという。
厳しい2001年度を乗り切る方策
2001年通年の粗利益率は、2001年第1四半期と同等、58%を目標にしている。2000年の62%という実績と比較すると、若干低く抑えられているが、これにはいくつか要因がある。
まず、メインストリームのプロセッサが、Pentium IIIからPentium 4への移行する過程に入るため、Pentium IIIの価格引き下げが不可避であり、利益率の低迷が予想されるからだ。相変わらず、PCの低価格化は進行しており、2000年度のエントリ・クラスの価格破壊に続き、2001年度はバリュー・セグメントへの値下げ圧力が強まることが予想される。つまり、Celeronに続き、Pentium III登載モデルの値下げ圧力が高まるわけだ。ディスプレイを含むバリューPCのシステム価格は、1600ドル以下にまで下がってきており、さらに今後とも下がる傾向にある(1999年以前は2000ドルから2500ドルであった)。
また、Pentium 4のダイ・サイズの上昇で製造コストが増加するため、粗利益率が圧迫されるという背景もある。こうした厳しい状況の中、収益を確保し、工場の固定費を吸収するためには、生産と需要の増加が必要としている。このことから、Pentium 4の増産が行われ、比較的早期に購入しやすい価格に落ちてくる可能性が高い。
フラッシュ・メモリについては、携帯電話ベンダからの需要は旺盛で、2000年度は非常に好調であった。しかし2001年には、この分野も景気後退の影響を受ける可能性が高く、粗利益が低く抑えられている要因の1つに挙げている。
こうした厳しい環境が想定されるものの、0.13μmプロセスへの移行による高性能化とダイ・サイズの縮小、300mmウェハのプロセス・テクノロジの導入によるコスト・ダウンを実現し、高い粗利益率を確保したいとしている。なお、300mmウェハのプロセス・テクノロジの本格的な稼働は2002年からとなるが、これにより約30%のコスト削減が可能だとしている。
Pentium 4向けSDRAMチップセットは2001年後半出荷
決算報告では、Pentium 4の2001年の計画についても触れている。2000年第4四半期のPentium 4の出荷は順調であることから、2001年第1四半期には100万個の出荷を予定しているという。また、開発コード名でBrookdale(ブルックディール)と呼ばれるPentium 4用のSDRAM対応チップセットは、2001年下期に出荷の予定で、クリスマス商戦に間に合わせると約束した。これにより、Pentium IIIからPentium 4への移行は、当初の予定の2002年第1四半期から2001年第4四半期へと前倒しされることを、Intelは期待している。
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このようにIntelは、高い収益性を背景に、技術開発投資や設備投資を積極的に行うことで、拡大路線を続けてきた。景気の後退が予想される中でも、投資規模を拡大していくという。このような強気の姿勢がIntelの現在の高収益体質を生んだのは間違いない。しかし、かなり深刻な景気衰退が予想される中、PC業界全体が今までどおりに順調な成長を続けることは困難だ。高収益であり続けることが、競合他社を圧倒的に引き離すための糧になるという「好循環」を続けてきたIntelは、けれども21世紀は、その「巨体」を活かすための、これまでとは違った方策を模索しなければならないかもしれない。
関連リンク | |
Intelの2000年度決算に関するニュースリリース | |
AMDの2000年第4四半期の決算に関するニュースリリース |
「PC Insiderのニュース解説」 |
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