動向解説 最新IDE RAID事情 デジタルアドバンテージ 2001/02/09 |
ハードディスクの大容量化や、インターネットの普及などによってPCで取り扱うデータの容量は増え、種類は多様化している。例えば、以前は文章とグラフ程度であった営業用資料に、いまではデジタル・カメラで撮影した製品写真などを貼り込むことも珍しくなくなってきた。また、記者発表会のプレゼンテーションで動画が使われるといった例も増えてきており、こうした流れはさらに広がっていくことが予想される。当然、それらのデータを保存するディスク・サブシステムにもまた、大容量・高性能が求められる。さらに重要なのは耐障害性だ。万一ハードディスクが故障したら、失われたデータの損失も大きいが、業務の中断による損失や、復旧のためにかかった作業コストなども甚大なものになる。
RAID(Redundant Arrays of Independent Disks)による耐障害性の向上は、こうしたハードディスクの故障によるディスク・サブシステムのダウンを防ぐためのものだ。特にハードウェアでRAIDを実現するハードウェアRAIDコントローラは、PCサーバのオプションとして当然のようにラインアップされており、標準装備のPCサーバも珍しくない。
これまでRAIDというと、ごく一部の例外を除けば、SCSIコントローラの拡張として、SCSIディスクを使うものしかなかった。しかし、ここ数年ほどで状況は変わってきている。それは「IDE RAID」という、IDEハードディスクを使ったRAID製品の普及だ。2001年前半の現在、SCSIハードディスクを使用したSCSI RAID製品に混じって、さまざまなタイプのIDE RAID製品が登場している。伝統的なSCSI RAIDに対し、IDE RAIDはどのような違いがあるのか? 今回は、最新のIDE RAID製品を整理・分類し、その機能やメリット/デメリットを明らかにしてみたい。
IDE RAID製品登場の背景
IDE RAIDが注目され始めたのは、ここ数年、1990年代末からのことである。それ以前のRAID製品におけるディスク・インターフェイスといえば、ほぼSCSIの独壇場だった。ハードウェアRAIDを実装したサーバ・マシンには、何台ものSCSIハードディスクが搭載されている、というのが当たり前だった。それなのに、SCSIではなくIDEを利用したRAID製品が急速に増えているのはなぜだろう?
■安価なIDEハードディスクの活用
IDEとSCSIのハードディスクの価格差 回転数7200rpmのIBM製ハードディスクで両者を比較すると、以下のように約3倍という大差がつく。
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最大の理由は、IDEとSCSIそれぞれのハードディスクのコスト差だ。大量のデスクトップPC向けに製造されているIDEハードディスクは、サーバ/ワークステーションという狭い市場向けとなってしまったSCSIハードディスクに比べ、生産台数が格段に多い。そのため量産効果により、同一容量での価格差は数倍というレベルにまで広がっている。また量産効果の違いに加え、サーバ/ワークステーション向けのSCSIハードディスクは、性能や信頼性を重視する高コストの設計だったことも影響している。この価格差に目を付けたベンダが、SCSIではなくIDEハードディスクを使って、より低価格なRAIDシステムを製品化しようと考えるのは、至極自然なことである。
■ハードディスク容量の増大もIDE RAIDに追い風
IDEとSCSIの接続可能ハードディスク数 一般的にRAIDで用いられているWide SCSI(SCSI-3)の場合、1本のケーブルに最大15台のハードディスクを接続できる。一方、IDEの場合、1本のケーブルで最大2台までしか接続できない。3台以上のハードディスクをつなぐには、IDEコントローラの数を増やし、2本以上のケーブルを接続できるようにするしかない。 |
また、IDEハードディスク1台当たりの容量が劇的に向上したことも見逃せない。ハードディスク容量がそれほど大きくなかったころ、RAIDの目的の1つである大容量の単一記憶領域(ボリューム)を実現するには、多数のハードディスクを利用する必要があった。しかし、SCSIに比べて接続台数が限定されがちなIDEでは、多数のハードディスクを接続するようなディスク・サブシステムを実現するのは難しい(実際には、そのような外付けRAIDユニットも製品化されているが、絶対的には高額であり、安価なIDEハードディスクを利用できるメリットがそれほど感じられない)。ところが最近の技術革新により、ハードディスク1台当たりの容量が向上したため、1〜2台のハードディスクからなるRAIDシステムでも、小規模なサーバ向けなら十分な容量を実現できるようになってきた。
ローエンドから普及し始めたIDE RAID製品
こうした背景により、当初のIDE RAID製品は、コスト・パフォーマンスの良さをうたったローエンド向けとして登場した。それもSCSI RAID市場のローエンド向けの一角ではなく、コスト高によりこれまでSCSI RAIDが入り込めなかった、さらにローエンドの市場から切り込んだのである。コスト安なだけに、機能も決して多くはなく、たいていの製品がRAID 0(ストライピング)とRAID 1(ミラーリング)、この2つを組み合わせたRAID 0+1(RAID 10とも呼ばれる)ぐらいしか、RAIDレベルをサポートしてなかった。またドライブの接続台数も1コントローラ当たり最大でも4台程度までだった。2001年前半の現在でも、IDE RAIDの主流は、こうしたコスト・パフォーマンス重視の製品である。
2000年に入ると、RAID 5(分散データ・ガーディング)をサポートするなど、より高機能なIDE RAID製品が登場し始めた。IDE RAIDでは珍しかったホットスワップ対応製品も増え始めている。ローエンドより上に向かって進歩し始めたIDE RAID製品は、いよいよSCSI RAID製品の独壇場であった市場を侵食し始めたわけだ。
■すぐにSCSI RAIDを置き換えるわけではないが
ただし、このまま速やかにSCSI RAIDがすべてIDE RAIDで置き換えられるとは考えにくい。理由の1つはハードディスクの性能差だ。RAIDシステムの性能には、ハードディスク単体の性能が大きな影響を及ぼすが、現時点でIDEハードディスクの性能はハイエンドのSCSIハードディスクに及ばない。回転数1つとっても、ハイエンドSCSIハードディスクは15000rpmに達するが、IDEハードディスクは高性能モデルでも7200rpmと半分以下でしかない。現時点では、性能を重視する用途には、IDE RAIDよりSCSI RAIDを選択すべき場合が多いだろう。
逆にいえば、性能を重視するハイエンドを除くニーズには、IDE RAID製品でも対応できる可能性が高い。短期的には、IDE RAID製品は実績を積んでユーザーの「信頼」を少しずつ得ながら、SCSI RAIDのローエンド製品が抑えている市場を代替していくことになるだろう。
さまざまな形態のIDE RAID製品
RAID製品では、PCとRAIDコントローラをどのようなインターフェイスで接続するかによって、製品の特徴や指向、用途、そして機能などが大きく変わってくる。現在市販されているIDE RAID製品を、そのインターフェイスで分類すると、以下の3種類に大別できる。
種別 | 概要 |
PCIカード型RAIDコントローラ | RAIDコントローラがPCIカードとして実装されるタイプ |
IDE接続型RAIDユニット | PCとIDEハードディスクをつなぐIDEケーブルの間にRAIDコントローラが割り込んだかのような構成を取るタイプ |
外付けRAIDユニット | RAIDコントローラとハードディスクを同一ケース内に配置し、PCとはSCSIやファイバー・チャネル、イーサネットなどで接続するタイプ |
IDE RAID製品の種類 |
以下では、これらのタイプ別にそのメリット/デメリットや実際の製品について解説しよう。
INDEX | ||
[動向解説]最新IDE RAID事情 | ||
1.PCIカード型RAIDコントローラ | ||
2.内蔵/外付けRAIDユニット | ||
「PC Insiderの動向解説」 |
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